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冬の狼  作者: CANDY
欺瞞の章
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Act76 不憫なるモノ

 ACT76


 奥方は、男達と挨拶を交わすと席に着いた。


 髪は薄い金髪で、瞳は薄い空の色だ。

 血の気の薄い白い肌、一見すると何の人種かは伺えないが、人族の長命種よりの者と見える。

 高い頬骨にすっと通った鼻筋。

 すらりとした容姿と相まって、ひんやりとした雰囲気だ。


 エリの事を説明すると、彼女は悔やみの言葉を述べ、同情したように表情を曇らせた。


 だが、窓辺から、使用人の位置から眺めると、ハンカチの隙間から目が見える。


 彼女は、エリを見て、悲しみを堪えていたのではない。

 嫌な者を見たという表情だ。



 私の勘違いならいい。

 私が疑り深いだけ、なのだ。

 どうせ、奥方は使用人に事を預けるはずだ。

 その中に知り合いがいればいいのだ。

 いなくても、それこそ侯爵の縁で、城下に住まわせてもらえれば。


 そんな事を考えていると、




 なんと不憫な娘でしょう。

 私の知り合いは、既に鬼籍に入っていて村との縁も切れておりますが。

 ええ、この子が産まれた頃には、もう、村からは出ておりましたから、面識はございませんの。

 はい、ですがこれも同郷の誼ですわ。

 この可哀想な子は、私が引き受けましょう。

 えぇ、一人増えたところで、なんと言うこともございませんわ。



 そう言って笑った。

 優しい笑顔で。



 私の瞳は、女の目の中にあるモノを拾う。

 くるくると瞳の中に色が漂う。



「同郷の者と話がしたいのだが」


 ラースの願いに、婦人は頷いた。


「では、何人か集めましょう。彼らも皆、故郷が心配でしょうから」




 ですが、彼らも村を出てそうとう時も経っておりますし、家族そろって出てきているので、それほど思い入れはございませんでしょう。


 付け加えられた言葉は、三日月に微笑む口から漏れた。




 これは何だ?


 私は、瞬きを繰り返した。




 そう言えば、シュランゲから来た者で、館に残っているのは、数人ですわ。

 それも旦那様と買い付けに。

 えぇ、旦那様なら後、数日でお戻りに。

 その時、こちらからご連絡いたしますわ。

 えぇ、さっそく、この娘は館にて面倒をみます。



 それに男達は頷いた。

 エリは奥方を睨んでいた。顎を少しつきだしている。


 




 私は一歩踏み出して額ずいた。


 それに奥方は沈黙した。困惑したのか、作法を知らないのか。

 私が言葉を待っていると、サーレルが口を出してくれた。


「どうしました?」


「はい、旦那様。お願いがございます」


「なんだね、奥方のお時間をとらせてはいけないよ」


 ここでようやく、奥方は気がついた。


「どうぞ、何かしら」


「はい、お嬢様はお疲れのご様子。僭越ながら、一晩なりと見知った者が側につくのがよろしいかと」


 それに奥方が何か言う前に、サーレルが言葉を挟んだ。


「そうだね、この子は夜泣きをするから、お前が側に使えるのがいい。奥方の手を煩わせる事になるが、いかがでしょうか」


 奥方の笑顔が微かにひきつる。


「‥使用人は館にも沢山おりますわ。お気遣いは」


 すると、それまで黙っていたラースが口を開いた。


「部下は城下に戻るが、自分はレイバンテール殿に話がある。お帰りになるまで、待たせて貰いたい」


 口を開こうとした奥方は、諦めたように頷いた。



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