表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冬の狼  作者: CANDY
欺瞞の章
85/355

Act75 コインの表

 ACT75


 城塞跡と言うだけあり、町は崩れかかった城壁の中にあった。


 静かに行き交う人々、穏やかな雰囲気。

 トゥーラアモンの緊迫した重い空気など、ここには無かった。


 町の入り口には、もうしわけ程度の警備兵が立っていた。

 服装から見ると、フリュデンの自警団といった具合だろうか。

 職業兵士には見えない。


 笑顔で領主の鑑札に目を通し、通行を許可する。

 実に朗らかで、ここが町の警備の要とも思えない。門を潜る男達に続き、私も馬を進める。と、そこで腰にまわされたエリの腕に力が入った。


「どうした?」


 それにエリは、鼻を指さした。


 先を行く男達を伺う。

 少し距離ができていて、私達のやり取りには気付いていない。


 瞳を閉じる。

 それから深く息を吸って、私は瞼をあげた。







 レイバンテールの奥方の館は、町の中心部にあった。

 上品な邸宅である。

 住民の殆どが、昔の建物を再利用しているのだが、奥方の館は、貴族の館そのままである。



 不意の客だというのに、使用人はにこやかに出迎えた。

 主人への取り次ぎを待つ間、目だけが忙しい。

 贅沢な調度、下品にならぬ程度の華美、そして、奇妙に薄暗い。

 玄関の広間は、冬の為か造花が飾られている。

 階上に続く階段が中央に見える。その両脇を奥への通路と、控えの間の扉が挟む。

 裕福である。

 そして、見かけた使用人も城の者と遜色がない。

 この館だけが、寂れた町の佇まいからかけ離れている。

 そうフリュデンの町は、寂れていた。

 人々は一様に朗らかな様子だが、町そのものは不景気な風が吹いている。

 並ぶ品物は粗悪であったし、食事処は閑散としていた。

 物乞いや浮浪児の類は見かけなかったが。

 そういえば、老人も子供も見かけなかった。家の中にいるのだろうか?


 ともかく、この館はそんな寂しい雰囲気は無い。

 ただ、少し灯りが乏しいと感じる。

 そして、寒い。

 外よりも、湿気った感じがした。




 暫くして、使用人が戻ってきた。

 主人の支度が整う間、客間に通される。

 客間は南向きで外からの陽射しが差し込み、多少暖かい。

 やはり、暖炉には火が入っていなかった。

 薪代に事欠くような様子ではないので、歓迎されていないのだろうか。


 サーレルとラースが腰掛けて、エリもその隣に座らせた。


 私は、そっと窓辺による。


「君も座りなさい。私の連れなんですから」


 それに私は頭を振った。

 サーレルの言う連れは、道連れ、一蓮托生の意味だ。

 やがて、茶が供され時間が経つ。だいぶ、待たされた頃、レイバンテールの奥方が現れた。




 予想していたのは、ごく普通の田舎のご婦人だった。

 だが、現れたのは、氷のように美しい女性だった。



 生きているのだろうか?



 最初に浮かんだのはそんな感想だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ