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冬の狼  作者: CANDY
欺瞞の章
84/355

Act74 フリュデンへ

 ACT74


 毒は何処からもたらされたのか?


 刃物や調理道具は、仕入先も様々である上に、年季の入った物から新品まであった。

 ただ、城外は農作業の道具などにも及んでいた。

 勿論、金属の物という限定がある訳で。それは作為の証明でもある。


 どうやって見分けるのかは、種族特性であるという、便利な言葉で片づいた。

 だが、原因を探る者からすれば、甚だ胡散臭いのも確かである。


 サーレルがいなければ、騙りと謗られるか、毒をまいた張本人ではないかと疑われたろう。



 私達は、一応の落ち着きを見せたトゥーラアモンから、レイバンテールの奥方に会いに行くことを願った。


 扱いは貴人の如くである。だが、居心地は悪い。

 城も城下も、どこか緊張している。

 何か一つでも間違えれば、良くないことがおきそうで恐い。

 毒味役として留まる事も厄介だ。

 表だっては原因も犯人も分からないままだ。なら、少しでもこれからの事を、本来のエリの落ち着き場所を決めたいと思った。



 しかし、侯爵は、私達が城塞跡へ向かうのを渋った。

 エリは城で暮らせばいいし、シュランゲについても、城下が落ち着けば調べようと約束までした。


 確かに、贅沢に暮らせるだろう。

 侯爵が生きているうちは。

 毒味役として。


 勿論、侯爵はエリ自身を気に入ったようでもある。

 最近は、エリを近くに寄せて、いろいろ話をしたりしている。

 エリは喋れないが、まじめに頷いたりして、よく相手をしていた。

 そして時々、侯爵の手に触れて軽く叩いては、何かを伝えていた。

 もしかしたら、家族を亡くした侯爵を慰めているのかも知れない。



 しかし、一度はレイバンテールの奥方に挨拶をしない訳にもいかない。

 と、サーレルとラースの二人は主張した。


 サーレルに限っては、彼の仕事が理由のようだ。

 やはり、この毒物には軍部が興味を持ったようだ。選別された金属類は、すべて、中央に送られる事になった。

 それにともない近隣の領地の様子を見ておきたいのだろう。


 ラースは、エリの身元をはっきりさせたいのだ。

 侯爵の側に置くのなら、その出身と背景を調べるのは当たり前だ。

 まして、惨殺事件の生き残りである。その事件も調べねばならない。


 そして、私は、夜毎の夢に疲れていた。


 この城のどこかに、朽ちぬ男がいるのではないかと、どこかで怯えていたのだ。

 今更、死霊を恐れるのは可笑しいのだが、やはり、恐い物は恐い。

 夢の中で、私を見る男の瞳が、知性を宿していたとしても、死人と言葉を交わすのは、恐かった。


 単に、霊が恐いのではない。

 私も、ボルネフェルトと同じ道を歩んでいるのではないかという危惧故だ。


 だから、あえて侯爵には、遺体の場所を尋ねない。

 もしかしたら、既に朽ちているか焼かれているかも知れない。

 死んではいない、というのは、敵対者への示威なのだから。





 こうして、私とエリは馬上にある。

 侯爵は馬車を出すと言ったが、二三日中に戻ることをラースが約束して折れた。


 表向き侯爵の甥は、城塞跡であるフリュデンの政務官である。

 平たく言えば、侯爵に雇われた、町政を取り仕切る役人である。

 その役人仕事の傍ら、商家を営んでおり、時折トゥーラアモンまで、使用人が商売に来る。

 フリュデンは先住民の城塞があった場所に、そのまま入植者が住み着いた小さな町である。

 領主の城がある城下の半分の人口もない。

 ただ、古い町であるため、トゥーラアモンと同じく、美しく、行き届いた環境になっている。

 フリュデンは川の側にあり、その川が城の堀に注いでいる。

 だから、町に向かうとは、その川を上流に進む事になる。



 サーレルは、時折、トゥーラアモンの方角と川に目をはしらせている。

 私と視線が合うと、相変わらず本意の見えない笑みを浮かべる。

 この笑みは、カーン達と共にいる時に浮かべる微笑みとは違う。

 その区別が付いてくると、彼は少しもトゥーラアモンでの滞在を喜んではいないとわかる。悟られぬように警戒しているのだ。


 それから、先を行くラースの背を見ながら思う。



 そもそも侯爵の側から、我々が離れてもよいのだろうか?



 私達三人とラースと二人の侯爵の兵士でフリュデンへ向かう。

 しかし、ラースは私兵の長である。

 一緒に来る必要があるのだろうか?

 サーレルの動向を気にしての事か、それとも侯爵の言う溝掃除の都合だろうか。


 それか私達が餌か、侯爵自身が餌か。



 夢見が悪いと、考えが悲観的になる。



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