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冬の狼  作者: CANDY
欺瞞の章
80/355

Act70 死にあらず

 ACT70


 冒険の為には、近くにいる事が重要。


 と、ばかりに侯爵の寝室に近い部屋に通される。

 暫く、私達は三人で一部屋だ。


 これも冒険の為には、必要な処置であるらしい。


 冒険、つまり、命の危険の回避に。


 侯爵の私兵が部屋に必ず付き、出歩く時も随行する。

 その私兵を呼び寄せる間、ラースが状況を語るのだった。


 運び込まれた荷物を整理しながら、私達は落ち着かない気分を味わっている。


 この後、私達は楽しくもない城の、冒険、に出かけるのだ。

 足下が砂地のような気分、というのだろうか。

 本来の、エリの身の振り方を決めるだけの話が、どんどん違う方向へ向かっている。

 それこそ、力ずくで。



 ラースの説明によると、領地の執務や政治的な決議は、氏族で代行している。

 最終的な判断は、侯爵自身がしていたが、領内の政治に停滞は無い。

 只、今現在、侯爵が没した場合、内乱の危機が全く無いとは言い難いという。


 内情を話すのは苦痛であろうが、ラースは室内の調度を点検しながら続けた。


 継承順位から言えば、現在、領主代行をしている侯爵の弟が妥当である。

 しかし、侯爵には、亡くなった正嫡子以外に廃嫡した男子がいる。


「レイバンテール様ですね」


 サーレルは未だ腰も下ろさず、窓から外を見ている。


「ご存じでしたか」


「領民は、知っておりましたよ。公然の秘密でしょうか。案外、高貴な身分のお方以外、当たり前に知っているのが世間です」


 そう言う意味では無いのだろう。ラースは、唇を噛むと言葉を飲んだ。

 言外の意を汲んで、サーレルは肩を竦めた。


「アイヒベルガー様のご子息がお亡くなりとは、知りませんでしたよ。我々も、何かと忙しい身ですから」


「隠していた訳ではないのです。ご存じかもしれませんが、古き血の方々の死は、認めるのに時間がかかるのです」


 居心地の悪い思いが顔にでていたのか、私とエリを見ると、彼は少し微笑んだ。


「感情的な、と言う意味ではありません。」


「と、言うと?」


「子供に聞かせる話では」


 それに、サーレルが窓際から振り返った。


「どうします?」


 私はエリを見た。

 エリは、自分の耳を指さした。


「もう、秘密でも何でもないんでしょう?どうせ城下の民が逃げだそうとしているのは、いろんな意味で、ご子息の死が原因なんでしょうから」


 それにラースは、唇を引き結んだ。


「我々を撒き餌にするのなら、情報は開示して欲しいですね。自分の命が秤に乗せられるのなら、聞いて置かなくてはね」


 男の顔には様々な思いが浮かんだ。

 たぶん、善良な部類の者なのだろう。

 しかし、一瞬で感情を殺すと、ラースは喋り出した。

 彼の声は、とても優しい色だが、話は少しも優しくはない。



「血を抜かれても、遺骸が朽ちねば死んだことにはなりません。」


 それにサーレルは、少し頭を傾けた。不審であるとの意味だろう。


「長命なお方は、死ぬと数日中に朽ちるのでは?」


「本来なら、焼く必要はありません。死後、数日で朽ちます。状態は砂です」


 よく、死体を見つけられたものだ。だが、そもそも一人で嫡子が行動し、殺害される状況がわからないが。


「ですが、発見時より、ご遺体は生前の時のように朽ちずに。朽ちぬ体は神の意志であると、侯爵様は火葬を認めません。



 長命なお方の死は、朽ちる事ですから」



 長命種とは、普通の者と死に様も違うようだ。


「ですが、国からの通達で、遺骸は全て火葬にする事になっているはずです」


「医師が死を認め、僧侶が儀式を行いました。ですが、朽ちる事なき体は、死を受け入れてはいません。侯爵様は公的な死亡宣言を却下なさいました。」


 認める訳にはいかない。


 と、言うことだ。

 つまり侯爵が生きている限り、正嫡子も存命なのだ。


「難儀な事ですね」


「そして侯爵様が倒れた後、同じように病に伏す者がでました。城下の民が動揺しているのは、噂を流した輩がいるのです」


「どんな噂ですか?」


「青馬の呪いです」


「呪いですか?」


 その言葉自体が意味を為さないかのように、サーレルが繰り返す。

 日常で使われる事のない言葉が馬鹿らしく聞こえるのだろう。


「使者殿は、どちらのご出身ですか?」


 それにラースは少し微笑んで問うた。


「こんな肌ですが、南領です。東寄りですが」


 北に多い白い肌をしているが、南国生まれのようだ。


「このトゥーラアモンの青馬の呪いは、ご存じでない?」


「名馬の産地としか聞き及んでいませんね」


 すると、エリが腰掛けていた椅子を叩いた。

 男達が見るのを待って、私を指さした。


「知っていますか?」


 私の代わりにエリが頷いた。どうやら、話が途中で終わっていたのを思い出したらしい。



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