Act8 人工遺物
ACT8
怪しげな金属板を握らされて、私は唸った。
薄気味悪い事に手の中の板から、何者かの呟きが聞こえる。
頭目が言うには、この板が行き先を教えるそうだ。
告げると言うが、恨みがましい苦悶を浮かべた顔や指が方向を指すのだ。
悪趣味としか言いようがない。
物の不思議を問う前に、不気味過ぎた。
本来なら驚き興味を示す...のかも知れないが私には無理だった。
本当に子供だったら喜んだのかも知れないが。こんな見るからに物騒な男の懐から現れた物に、感動などしない。
むしろ、金属板に触れている手袋ごと焼き捨てたい。
だが、これは男の首より価値があるのだ。無くしたりしたら、私は生きたまま皮を剥がさる。否、死んでも許してもらえそうにない。
人馬はこの智者の鏡によって、方向をやはり西南に変えた。
方位磁針だと思えばいいのか。
囁きとか表面に時々顔みたいなのが浮かぶとか、気にしなければ?
余所者ならいざ知らず、村の狩人に方位磁針程度なら必要ない。
現に鷹の爺らは迷わない。生き残っているのが証拠だ。彼らと常人の違いは、経験と技術。それに犬と鳥を従えている事だ。
私は経験が劣るが、人より感覚が鋭い。
段々と本降りになる雪に、今夜何処で休むと、今から考える。
視界が悪すぎて、気が抜けない。
障害物を教え、避ける方向を指図する。
さらさらと流れる雪が、あっという間に足跡を消していく。
爺達は、何処にいるのだろうか?
雪は凌げているだろうか?
板はずっと深部を指している。
森の奥には何がある?
それを考えると私は息が苦しくなった。
村人も領主館の者も、考えたはずだ。
そして、考えて打ち消して、怯えた。
「どうした、坊主。急に止まって」
私は真っ白な空を見つめて、男達に休憩場所に向かう事を知らせた。
何か口にしなければ、そろそろ凍え始めるだろう
。