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冬の狼  作者: CANDY
欺瞞の章
76/355

Act66 侯爵

 ACT66


 冬の陽射しが城の回廊を暖める。


 トゥーラアモンの城内は、想像していたよりも美しく生活感があった。

 たぶん、戦の城ではない事と、傷つく事無く長い時を経ているので、陰鬱な空気が薄れているのだろう。


 何処か、修道院にも似た静けさがある。


 そう感じるのは、内郭の内側も外側も、兵達が慌ただしく動いていたからだ。

 未だに私達は、その騒々しさの外にいた。

 そして何故高級な絨毯を踏んでいるかというと、侯爵が面会を望んだからだ。

 私とエリも込みで。


「益々、厄介ごとの匂いがしますねぇ」


 サーレルは楽しそうだ。


 趣味の良い落ち着いた内装は、気分を落ち着かせる色合いだ。

 建物の奥へと案内を受けながら、廊下の外の景色に目を奪われる。

 自然を損なわない美しい緑がある。

 この冬の時期に緑である。

 計算された配置なのだろう。

 本当の金持ちは、気付き難い部分に手間をかけている。

 城の使用人も、皆、健康そうでお仕着せも清潔だ。

 もちろん、使用人が薄汚れているようなら、その領地も先がない。


 複雑な回廊を抜け、城の奥まった所に案内される。

 どちらかというと、人を招く場所とは言い難く、裏側という感じだ。

 徐々に細い通路になり、使用人にも会わなくなる。

 その分、高貴な身分の人間がいるに相応しい調度が目に付いた。

 つまり、本当に侯爵の私的な部屋へと案内されているのかもしれない。


 やがて、通路は終わり、武装した男が一人立つ扉にたどり着いた。

 黒い兵装は案内してきた騎士と同じ物だった。

 領内で見かけた兵装とは違うことから、彼らが侯爵の私兵なのだろう。


 護衛は私達を認めると扉を軽く叩いた。

 それに微かな声が答える。


「ラースとお連れ様です」


 ラースとは騎士の事のようだ。

 先に立つ騎士は、護衛の耳元で何事かを囁く。そして、中に声をかけると扉に手をかけた。

 そして私達を振り返ると、少し微笑みを浮かべた。

 心配そうだ。

 と、その顔を見て思う。

 答えは、扉の中にあった。




 アイヒベルガー候は、臥せっていた。


 長命種の特徴である、年齢のわからない青白い顔の男だ。

 しかし、青白い顔の中の目を見れば、侯爵が老年であると気がつく。


 部屋の中には、身の回りの世話をする年輩の女性が一人いた。

 候が身を起こすのを手伝い、喉を潤すためにお茶を口元にあてる。

 私達は下座にて長椅子に腰掛け、それを見ていた。

 侯爵は先に、臥せる身を詫びていた。

 そして、我々に対しての歓迎の意を途切れ途切れに告げた。

 ラースは心配そうに扉の側に立っている。

 そう、アイヒベルガー候は酷く弱っていた。




「本来、私が候にお目にかかる必要は無いのですが。何故、わざわざ、お会いになるのか。お尋ねしてもよろしいか?」


 サーレルは喜劇でも眺めるように、侯爵に問いかけた。

 それに侯爵も苦しい息を吐きながら笑った。


「今更、何を隠した所で、この痛みが薄れる訳ではない。それに使者よ。どうやら、貴公のお陰でようやく事が動く」


 それにサーレルは、少し頭を傾げた。


 当然の疑問に、侯爵は侍女を退出させ、ラースを側に呼んだ。


「ラースよ、事の始まりを使者と、連れに語るのだ」


 それにラースは逡巡した。

 特に私を見てだ。

 私は言葉を発する身分ではないため、退出すべく腰を上げようとした。


「動くでない。その子供の側にいるのだ。話は大したことではない。

 何、我の倅が死に、我も死にかかっているに過ぎない。その話だ」


 大したことである。

 聞きたくない話でもある。


「それに、皆、もう知っているのだ。我が青馬の呪いにかかっていることを」


 浮かしかけた腰が、椅子に沈んだ。



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