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冬の狼  作者: CANDY
欺瞞の章
75/355

Act65 瞳の中に

 ACT65


 確かめるといっても、死体の照会は難しい。


 シュランゲが壊滅したという事、火葬された女と子供の数が書類に記されるに留まる。

 そしてカーン達が残した記録もそこに加わり、小さな村の名が消える。

 いずれまた、新しい人間が村に入るのだろう。


 しかし、問題は残る。

 シュランゲの虐殺、女子供以外の住人の行方と犯人。


 事件その物の経緯である。


 小村とはいえ、トゥーラアモンの領地内である。

 事の次第を明らかにする事。犯人の捕縛、及び損害の回復などだ。

 一小村で事がすむのならばよし、これが盗賊など犯罪行為のはしりとなれば、領兵の常駐しない小さな村々には大問題である。

 そして、小さな村を抱える地主にも警告を出さねばならない。

 それは、この目の前の侯爵の兵士の仕事であるが。


 そして、生き残りであるエリは、犯人への道でもあり、犯人にとっての邪魔者でもある。


 そこで保護をする事と、事情の聞き取りが必要になる。


 問題は、エリが何者であるかだ。


 そう、シュランゲの人別には、エリに該当する子供がいないのだ。


 人別は、姓名(隠し名ではない通称である)と、その氏族。外見的特徴が記される。

 生誕日と髪と目と肌の色、そして人種が記されているのだ。

 だから見た目で大凡の、あたりをつけることができる。


 ところが、エリのような外見の子供は人別には一人としていない。


 まず、砂色と白髪の混じった髪色の子供がいない。

 そこで、灰色又は白、もしくは銀髪の薄い色合いの子供を捜す。

 ところが、村の子供の多くが茶色、もしくは黒髪の子供であった。

 よしんば、病気などで脱色した事にして、瞳の色で探す。

 エリの瞳は美しい藍色である。

 それも夜明けの夜空のような群青を含んでいた。

 そしてよくのぞき込むと、夜空の星のように銀色がはしっている。成長したら、さぞや美しい娘になるだろう。


 だが、藍色の瞳という者が、そもそも村にはいなかった。


 シュランゲは、亜人と呼ばれる人々の集落で、エリのような長命種の特徴を備えた人族は少数だった。




 亜人と一口に言うが、外見は人族に近い。

 ただし、決定的な違いがある。

 彼らは手の指が長命種より少ない。しかし、指が少なくとも、長命種よりも遙かに器用で、職人になる者が多い。

 そして、身長は人族より低い。

 エリの指の数は長命種と同じであり、体の大きさも子供としては長身になる。

 私が自身を亜人と長らく思っていたのは、このせいである。

 そして、亜人との混血種だとしても、彼女のような瞳の色の子供はできない。

 亜人は、どの種族と交わっても亜人種の子供しか産まれない。

 そして、亜人の子供は、薄い瞳の色をしている。




「お嬢さん、君は誰なんだい?」


 トゥーラアモンの騎士は、エリの頭を撫でながら問いかける。

 子供の扱いが上手らしく、エリは黙って撫でられていた。


「しばらく、我々の所で預かる事になるでしょう」


「それは構いませんが、この子と同じ村の者がいるそうですね」


 サーレルの問いに、男はエリを見つめながら答えた。


「この街から、更に北東に昔の城塞跡があります。今現在は、町になっているのですが。」


 彼は、言葉を選ぶように、いったん口を閉じた。


「レイバンテール殿という侯爵様の甥が、その町を治めております。その方の奥方がシュランゲの出身です」


「では、その奥方に、この子を見せれば直ぐに身元も割れましょう」


 サーレルの言葉に、騎士は顎を掻いた。


「そうしたいのは山々なのですが。」


「おや、何があるのですか?」


 もちろん、粛正者に自領の話を漏らしたくないのだろう。

 微笑みながら二人はにらみ合う。


 その時、水を差したのは、城からの使いだった。


 レイバンテールの奥方にお会いするのは、まだまだ先になりそうだった。



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