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冬の狼  作者: CANDY
欺瞞の章
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Act62 トゥーラアモン

 ACT62


 私とエリはトゥーラアモンに向かうことになった。


 正確にはサーレルと私とエリだ。

 カーン達一行は、このまま首都へと向かう。




 荷物を手にして、ふと、思う。


 もう二度とあの男と会うことは無いだろう。

 身に受けた呪いは、私に留まり、カーンは忘れる。そして、生きる。


 何故か、寂しいと思いながら安堵していた。


 おかしな男だった。


 そして、これが別れと思うと、ほっとした。


 自分一人の身の始末なら、何とかなる。




 そこまで考えて、自分の中で、あの余所者を庇護しようとしていた事に気がつく。


 つまり、宮の怪人達に言わせれば、私はカーンを守ろうとしていた...らしい。


 大凡、可愛らしさとは無縁の人殺しに庇護とは何たる増上慢。

 幻のカーンが激怒するはずである。


 自分がなんだか滑稽に思えた。



 最後にエリの髪をすくと、外へ向かう。

 既に宿の前に馬が引かれていた。

 それぞれに馬具を調節したりと忙しそうだ。

 私の馬も準備してくれていたようだ。礼を言いつつ荷物を載せる。

 既に男達はいつもの支度になっており、顔は覆われ表情は伺えない。

 それでも、一言二言、気をつけていくようにと声をかけてくれた。


 人は不思議なもので、最初の頃に比べれば関係性は格段に穏やかで円滑である。

 特に、イグナシオは、私とエリの二人だけでは心許ないと苛ついていた。サーレルの存在は無視している。

 もちろん、サーレルはいつも通り穏やかに聞こえないふりをしていた。

 エリはそんな男共に、ペコリと頭を下げた。

 礼のようだ。


 カーンは何もいわなかった。

 ただ、口元だけを埃除けから除かせ、ニヤッと笑った。

 そして、胸元に拳を当てて騎士の返礼をすると出発した。


 騎影が見えなくなるまで見送った。


 そして、エリと私もサーレルの馬に続いた。

 トゥーラアモンは、藍色の常緑樹に囲まれた古い町だ。

 ゆっくりと道を進みながら、サーレルが語る。


「中原の貴族領の中では小領だけど、代々の領主は古参貴族ですね」


「由緒正しいと言うことですか?」


「はい、由緒正しい人族の方です」


 つまり、長命種で血統主義者である可能性が高い。


 人族でも特に長命な種は、獣人種と同等の年月を生きる。

 彼らの多くは、その寿命の長さに価値を見いだしており、短命種を下等と見なす差別意識があった。

 獣人には、その特徴故に全てが長命な者ばかりではなく、極端に短命な種も居たため、その考えは定着していない。

 あくまで、人族種の一部階級の差別意識である。


 血統主義者は、亜人を下等種とし、なかでも混血種に対しては憎悪と敵意を向けてきた。と、いう歴史がある。


 エリには告げなかったが、青馬の話は、突き詰めて言えば、王国からの侵略への抵抗であり、血統主義者への批判でもあるのだ。


「トゥーラアモンの現領主は、アイヒベルガー侯ですね」


 では、現在の青馬候はアイヒベルガー様というわけだ。

 因みに、トゥーラアモンの領主は青馬候と呼ばれる。

 現在は、昔話とは違い名馬の産地として、良い意味で青馬候と呼ばれているようだ。


「シュランゲから嫁いだお方は、どちらに縁付いたのですか」


「アイヒベルガー候の甥ですね。甥といっても身分は無い。無位無冠の商人との話ですよ。」


 良かった。

 少なくとも、貴族の奥方にエリを頼むのは躊躇われた。


 サーレルの話を聞きながら、むず痒い感じを覚える。

 宿場で聞き込んだというには、トゥーラアモンに詳しい。


「訪れた事があるので?」


「まさか、観光地とまではいかずとも、馬の産地としては有名ですからね」


 常識ですと、微笑まれた。


 サーレルも含め、彼らはその辺の破落戸ではないと言うことか。

 当然といえば当然なのか?

 微妙な気分は口に出さずに、先を急いだ。





 やがて陽射しが高くなる頃、木々の向こうに低い石の壁が見えた。


「トゥーラアモンの境界壁ですよ。低く見えますが長さを考えれば良くできていますね」


「領地を全て囲んでいるのですか?」


「主立った人の住む場所はね。石積の壁はお金がかかりますから」


 道は壁に沿って東へ切れている。

 人が出入りしている場所がその先に見えた。

 町への入り口のようだ。

 出入り口には、門番というのだろうか、兵士が立っている。


「妙だな」


 サーレルが馬を止めた。

 門までは大分あり、数人が列をなしている。


「何ですか」


「いつもより、物々しい」


 どうやら、槍を片手に出入りを確かめている兵士がいつもと違うようだ。


「物々しいのですか?」


 サーレルは、馬を少し戻した。

 出入り口は見えなくなり、人の話し声も聞こえない。


「ここはトゥーラアモンの外郭だ。君たちの村で言う境界だね。つまり、本来は出入り口を絞っているだけで、あんなに兵士を置きはしない。諍いがなければね」


 つまり、諍いがおきているのだ。


「なんだか嫌な予感がするなぁ」


 言葉は深刻そうだが、そういう男はヘラヘラと笑っていた。


 さすが、あの男の従者だ。厄介ごとが好きそうである。



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