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冬の狼  作者: CANDY
欺瞞の章
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Act59 噂

 ACT59


 朝食の粥が不味かった。


 食べられるだけありがたい話だが、この味では、むしろ携帯している干し芋のほうが旨い。

 それがわかっているのか、男達は宿の食事はとらずに、宿場の飯屋に繰り出している。

 私達も誘われたが辞退した。宿代込みの食事を選んだのは、遠慮もある。

 しかし、この泥状の生臭い固まりは、家畜の乳が入っているからなのか?

 独特の臭みに、私がへこんでいると、エリが食卓の小さな容器を差し出した。

 私が受け取らずにいると、エリはその容器を振って粥に何かをかけた。


 茶色い粉だ。


 私の粥にたっぷりとかけると木匙でぐりぐりとかき混ぜる。

 それからたっぷりすくい上げると、私に差し出した。

 食えという身振り。

 仕方なく匙にかじり付く。


 ...。


 不味い、が、食べられる。

 確かに不味いが塩辛いので食べられる。

 調味料らしいそれをかけて何とか粥を食べきる。

 後で吐かないか心配だ。食卓に着く他の客の様子から、これが朝の常食らしい。

 私の様子に、となりの席に座る壮年の商人が笑っている。

 同じ食卓の客達が教えてくれたが、これは家畜の乳を発酵させた乾酪が入っている。

 この独特の臭いを我慢すれば、大変栄養価の高い食品らしい。

 中原の旅の宿の定番らしい。

 元々は中原の騎馬民族の朝食で、馬に乗っての行軍に適しているらしい。

 腹持ちというより、腹の負担を減らすのだとか。

 ただ、初めて食べる者には試練だ。

 だから、粥の朝食には苦手な人の為に、岩塩と香草の調味料が置かれている。

 慣れるとその地方毎の粥の味がわかるようになるとか。


 なりたくない。


 と、私が薄い茶をガブガブと飲んで流し込む。

 エリはそんな私を見て少し口を曲げた。笑ってくれたようだ。



 朝の開門には、まだまだ時間があった。

 外の様子から、天気は薄曇りで朝陽はまだ見えない。

 周りの客達もゆっくりと茶を飲んで雑談に興じている。


 穏やかだ。


 何もかもが夢のように感じる。

 ただただ、寂しく物珍しい。

 男達が戻ってくるまで、私達は宿に待機だ。エリを預ける良い場所を役場に問い合わせている。

 夜に用件を告げただけなので、近在の村や町の様子を今日教えてもらうのだ。

 そうしたら、エリはそこへ送る。

 従者の一人が付き添ってだ。

 多分、私もそれに従い、その身の振り何処を見届けたら。


 消えよう。


 消える。

 何故か、良い言葉に感じて、窓から外を眺めた。

 薄暗い夜明けに、凍り付いている。

 呪いのついた身なれど、まさに消えるは自由だ。

 皮肉な事に、不自由になった今こそ、辺境の人間社会から自由になってしまった。

 まぁ、自由とは方便であるが。

 そんな私のぼやけた耳に、奇妙な言葉が入り込んだ。



 青馬がでたんだよ



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