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冬の狼  作者: CANDY
喪失の章
58/355

幕間 吹雪の夜

[吹雪の夜]


 保存食にしては量も質も良かった。


 美食とは縁がないが、不味いより旨いものが良いのは当然だ。


 頭領は娘に薬湯を含ませている。


 未だ意識はなく、少しずつ含ませては寝かせている。

 寝かせた後、蟀谷の入れ墨を指で撫でる。

 薪の燃え朽ちる音に微かな囁き。

 指で入れ墨を撫でながら、頭領は何かを呟き続けている。

 方言なのか、大陸の共通語では無いらしく、さっぱり分からない。

 只、涙を溜めて娘を撫でる姿から、体を癒す言葉に思える。


 もしくは、詫びか。


 何気なく、その姿を眺める。

 他に見る物もない。

 雑魚寝する仲間も、馬も、煤けた天井の梁も、眺め続ける程の物でもない。

 娘の顔の入れ墨は、芸術を理解しない身にも美しかった。

 花のように、蔓のように、白い小さな顔を縁取っている。

 頭を打ったのか、それとも見えない傷でもあるのか、娘は目覚めない。

 落ちて生き残ったのは、自分と娘だけ。


 落ちて


 おちて


挿絵(By みてみん)



 一際、激しく吹雪が戸を打った。


 粗方、仲間と今後の予定を話し合い、吹雪明けに帰路へ着こうと結論を出していた。

 凍え死ぬより、確実に首を持ち帰るのが最善である。

 囂々と吹雪く外とは別に、室内は暖かく静かである。

 皆、疲れて眠り、頭領と自分以外は、馬達も目を閉じていた。


「一つ、お伺いをしてもよろしいか」


 首級の袋を見つつ、頭領の年寄りが聞いてきた。


「御領主様方は、罪に問われますか?」


 同じ言葉を娘に聞かれた覚えがある。


「早めに、領主交代の届けを出すことだ。直系の跡継ぎはいるのか?」


「はい、甥子もおりますれば、問題はないと」


「では、見聞きした事を忘れることだ、人間、余計なことは黙っているのが得策だ」


 暖炉の炎だけに照らされて、対する年寄りの顔は陰になる。

 何か言いたいこと、問いたいことがあるらしい。

 彼らにしてみれば領主を失い、客として迎え入れた者が死んだのである。事は大きく、何がどう彼ら自身の身に降りかかるかわからない。


 自分の身分は告げている。

 これは国の事であり、秘事である。

 村一つ、辺境伯一族を一つ、抹殺しても良いのだ。


 だが、秘事に関わったからこそ、生かすこともある。

 人は、後ろめたい事の一つや二つなければ、裏切る。

 自分が正しいと信じている者こそ、裏切るのだ。新しい者を入れるより、今ある者を使う。多分、ではあるが、我らの主はそう判断する。


 それに、一々、人の首を狩る度に何処の村を焼いていては、税を納める人間がいなくなる。

 簡単に言えば、面倒であり、人の口を閉ざす程の秘事ではない。


 現王族の内部分裂は今に始まったことではない。

 そして、血族内での闘争は常にある。

 当たり前の事を、真実を、誰がどう言おうと、強い者が生き残るだけの事なのだ。

 例え蛮族を引き入れようと画策をした上に、殺戮者の狂人を信仰するような男が、王家の血族であった事実など。


 死人に口なしである。





 ホントウニ?



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