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冬の狼  作者: CANDY
喪失の章
5/355

Act5 蛇の兵隊

ACT5


 状況はあまりよくない。

 鷹の爺達は、一昨日の明け方に領主館に呼ばれたそうだ。

 冬の夜に領主館を訪れた客の所望だった。

 客とは、王国軍の旗を掲げた騎馬数騎と歩兵。

 兵を率いていたのは、二人の男。

 片方は貴族階級の煌びやかな兵装。片方は金のかかった長衣を着ていたそうだ。

 辺境の平民にその装いの意味は分からない。

が、領主の北領辺境伯は腰を折って出迎えたそうだ。それを見るだけで、どれほどの権力階層かは分かる。

 付き従っている兵も馬も、豊かであったため、領主の兵も迎え入れるに不審はなかった。何しろ、王の使者たる正式な依頼書があったからだ。

 彼らは鷹の爺らを呼びつけ、領主を従え森に向かったという。


 どんな話し合いがあったのかは分からない。


 鷹の爺らを呼んだ後、領主を取り囲むとそのまま森に分け入ってしまったそうだ。


 慌ただしい様子だったそうだ。


 婆が言うには、日頃泰然とした旦那であっが、その時の顔色は白かった。まるで、もう一人の自分を見たような様子だったそうだ。

 婆は村の狩人のお召しを不審に思い館に来ていたのだ。

 領主は決して後を追ってはならないと、奥方と姫、そして館に常駐する領主兵に言い聞かせたという。

 彼らは、確かに王国の使者だったからだ。

 しかし、戻ってこない事に不安が増す。

 狼狽する家令や家臣、奥方が話し合いをしていると、到着したのが彼らだ

った。

 そして婆は、次に来た男達を見て悟った。


 蛇だ。


 領主や爺達には悪いが読みを間違った。

 王国の兵隊だろうが王命だろうが、話を聞いてはいけなかった。


 蛇の兵隊。


 つまり、粛正者と呼ばれる者共だ。

 戦犯や犯罪者、貴族や王族など、難しい立場の人間を粛正する集団である。


 追い返す事ができなかった。

 そして、森で死なせる訳にもいかない。


 鷹の爺の孫が言ったように、森に喰わせるのは簡単だ。

 だが、彼らを生きて戻さねば、どんな祟り神が出てくるか分からない。

 粛正者を使うのは王家ではない。

 古参貴族の集団でもない。

 支配層は貴族の上にもう一つ存在している。

 本来は、古参貴族や功績のある人間が選ばれる元老院という制度がある。

 この元老院という制度の中で長期の戦争を続けるに当たり、階層を無視した、実行政治組織ができあがっていた。この組織は軍部と国教の宗教団体が

主導権を握っており、本来の政治形態を破壊。

 元老院という名の別組織が組み上がっていた。

 こんな辺境の狩人の耳にまで、威勢が届くのだ。

 久方ぶりの停戦も、彼らが成したのだ。

 そんな今現在、主流にいる権力者が彼らである。戦争をするのも、貧民に施すのも、彼らだ。

 なら、粛正者を使うのも元老院であってもおかしくはない。

 子蛇を殺して、大蛇が湧くなどあってはならない。


 蛇など春まで寝ていればいいものを。



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