Act46 男の答え
ACT46
異形は暴力を振るうこともなく、私を促した。
改めて眺める彼らは、大きく恐ろしい。
だが、その気配は静かで、何も含んでいない。
促されるまま闇を進むと、どこからか音が聞こえた。
雅な音だ。
村の祭りや教会で聴く音ではない。
今まで聴いた音で言うと吟遊詩人の竪琴だろうか。
やがて、闇の中に青白い輝きが見えた。
水晶で造られた壮麗な部屋だ。
物語の中の宮殿のように見える。
冷ややかでとても美しい。
凝った調度も全て水晶でできている。
見回して中央に座る者に気が付いた。
蝶だ。
あの蝶が座っている。
あの時は、水の中にいるように見えたが、実際はこうして水晶の広間で玉座に座っていたのだ。
静かに座り、肩肘をついて、羽を揺らしている。
私は膝をつき、頭を垂れた。
慈悲を願う以外、私には道はない。
過去、この地に栄えた者は選んだ
故に、人はある
では、この先はどうか
我が子は、十分に勤めを果たした
そろそろ、始原の理に戻るのも一興
何が滅び何が栄えるか
その齋の混沌は実に飽きない
我は始原の理である宮の主
故に本質は滅びである
だが、供物により
我の眠りは保たれる
されど、人は人故に
我を求める
見るがよい
お主の問いの答えだ
穏やかな声音に顔を上げる。
目の前の水晶の床は鏡となり、答えを写した。
爺達は縦穴を昇っていた。
厳しい表情であるが、生きている。
夜明け前の光が彼らを射している。
彼らは生きながらえた。
私は安堵し、両手を床に着けた。
「安堵するには早いのである」
側にいた仮面の異形が笑った。
それに主もひっそりと口元を引き上げた。
何もこの男を選ぶことはなかろうに
よりにもよって、もっとも人らしい人を選ぶとは
鏡はあの門を写していた。
カーンが押し開くと門の先は、雪原であった。
夜明け前の神聖な空気をまとった静寂の世界が横たわっている。
足を踏み出せばいい。
そして、人の世に戻ればいい。
私がそう思っていると、急にカーンが振り向いた。
激怒
その表情はまさしく、それであった。
何故だか分からない。
私の戸惑いに、仮面の異形は大声で笑い、物言わぬ兄弟も身を揺らした。
久方ぶりの供物、確かに受け取った
主は至極満足そうだった。