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冬の狼  作者: CANDY
喪失の章
48/355

Act45 さようなら

 ACT45


 碧い色の道を選ぶ。


 すると、化け物にも人にも遭遇しない。

 奇妙な色は中空で踊りながら、私に道を示す。

 よくよく眼を凝らすと、小さな人型が踊っている。

 この宮には、沢山の色が踊っている。

 浸食が進んでいるのか、私の視界には沢山の色が飛び回っている。

 寂しい場所のはずなのに、とても賑やかだ。

 もしかしたら、ここの住人は何時もこんな色の中に暮らしていたのかも知れい。だから、陽の光りもいらないし、石の都で十分だったのかも知れない。

 あれから、カーンは静かに私の後ろを付いてくる。

 周りを警戒しながら、努めて気楽にしている。


 たぶん、私を疑っている。


 そして、彼も宮の呪いにかかり始めている。

 他の人間は、恐怖故か疑心に取り付かれたようだ。カーンもおかしくなるのだろうか。この男の戦闘能力を思えば、私は一瞬で骸だ。

 だが、骸になる事ができるのか、供物の私がどうなるのか、今は分からない。

 私自身が呪われ浸食を受けたら、もう、何も分からない。分からなくなりたい。

 だから、早く、この男を宮から出さねばならない。


 その結果が正しいかは別にして。


 果てのない迷路に見えたが、碧の道を選ぶと終わりが見えた。


 壁が見える。


 どうやら人の眼を欺く何かが、ここには満ちているようだ。

 色で言うなら、黄色と赤色が遊んでいる。

 そういえば、死霊術師の円環の陣も赤かった。

 そう考えると、この色には力が流れているのかも知れない。文字ではなく人型だが。

 通路の道幅も終わりにあわせたのか広くなり、先が見通せた。

 壁に大きな石の門があり、手前が広場になっている。

 整えられた石畳を下に、精緻な紋様が刻まれた巨大な門だ。

 二枚扉も石なのか、表面の彫刻は磨き立てられている。

 私は足を止めた。

 確かに色は碧だ。

 だが、もう一つ門に色がかぶっている。

 紫だ。

 転移する陣の色と同じである。

 厭な感じだ。


「どうした、坊主」


 問われても、分からない。

 私は、その広場に眼を凝らした。

 敷石の一つ一つに色が付いていた。

 だが、どれも碧を含んでいて間違いには見えない。


「御客人、まずは、私が先に行きますので」


「何言ってんだ、化け物が出てきたら、お前は喰われるだろうが。それにあれが出口なんだろう?」



 分からない。



 あれが罠だったら、一つの答えがある。

 この男が望む場所に繋がっているのだ。

 言えば、この男は逃げ道など見向きもしないで、獲物のところへ走り出す。

 そうなると、この男が助からないだけでなく、爺達も助からない。

 私は素早く考えを巡らせる。

 たぶん、私が先に逃げ出すのを、何かするのをこの男は警戒しているのだ。

 その時、なんとかこの男を言いくるめようとしていた。

 だが、何を言っても伝わらないのだとも分かっていた。だから、同じ思いだろう誰かと同じ事をした。


 私は睨んでくる男に、微笑んだ。


 それは多分、ぎこちなくひきつっていたことだろう。

 私はそれを首から外すと、男の握り込まれた手にねじ込んだ。



「どうか、私の家族にお慈悲をお願いいたします。血塗れの騎士よ。」



 鉄手袋の指が開く。乗せられた小さな鈴がリンと鳴った。



「魔除けです。ナリスは私が、それを貴方が持っていてください。無事に帰れますよ」




  カーンが口を開く。

  だが、子供の事と油断があったのか、手をのばす事はなかった。 だから、言葉を交わすのを避け、逃げた。

 広場へ門へ駆け出した。

 逃げ足は早いのだ。

 背後で男が何かを言ったが聞こえない。

 石畳を踏む度に、様々な色が踊り出す。予想通り、ただの終着点ではなさそうだ。

 一踏みするごとに何かがわき上がる。

 私の周りを色が渦を巻いた。

 すると、見上げる石の門が輝きだした。

 生き生きとした輝きだ。

 天にも通じるような輝きだ。

 そして、無数の亡霊がその門の内で泣き叫んでいる。

 私は、扉に手をかけた。

 私の力では開かないだろう巨大な石は、音もたてずに隙間を開けた。



 光りを放つ門の中は、思った通り闇だった。



 私が向かう、闇だ。

 静かな闇に異形がいた。

 私を見ると、仮面の異形が頷いた。

 どうやら、正解だったらしい。

 私が戻れば一人助かる。

 私が一人を助ければ、爺達が助かる。

 振り返ると、広場に吹き荒れる色の嵐にカーンが体を動かせずにいた。

 私を凝視している。

 逃げ出すように見えるのだろうか。

 私は片手を上げると、振った。



 さようなら。



 鈴を渡した時に彼も、あの死霊術師も思ったのかも知れない。

 さようなら、私のかわりに生きてあがけと。



「供物になるよ。だから、あの男は帰る」



 すると、異形達が私を囲んだ。



 こわくない。






 寂しいだけだ。



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