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冬の狼  作者: CANDY
喪失の章
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Act43 闇の囁き

 ACT43


 闇の中で幾人もの人の声を聞いた。


 争う声。

 怯える声。

 疑う声。

 悲鳴。


 その度に立ち止まり迷う。


 それでも、私は名乗り出る事ができなかった。


 嘘つき

 弱虫

 人でなし


 心の中に負の感情が渦を巻く

 だって、知らない者まで助ける力など無い。

 私だって助かりたい。

 こんな場所は嫌なのだ。

 助けて欲しいのは私のほうだ。



 チリン




「腹がへったな」




 そして、不覚にも立ち止まる。

 聞こえない振りをして、爺達のところへ行くのだ。


 リン


 そして、ここから逃げ出して


 チリン..リン



 何処へ行くっていうんだよ?

 村はずれの小さな小屋に戻る?

 あの場所で森を眺めながら、閉じこめた男が化け物になって現れるのを毎晩待つのか?



「まったく、馬に食料乗せてあるんだがな」




 その声は、暢気にぼやいていた。

 腹が減ったの、眠いのと。




 娘よ、思い出せ。

 宮から出るのは、お前の村の者とお前だけだ。




 私は片手で口を押さえていた。

 嗚咽のような何かが喉元に上がってきたからだ。

 知らない人間なら無視できる。

 そう、カーンは余所者だ。

 無視できる。

 無視できる。

 一時の関わりに過ぎない、通りすがりの人間の事だ。



 だが、忘れられるか?



 生き延びて、知らぬふりができるか?



 できるさ、誰も選べないんだ。



 ホントウニ?



 私は闇の中で身悶えた。

 闇の中で、男がボヤきながら、誰かと戦っている。

 狂気に駆られた者が手当たり次第に襲いかかっているようだ。

 それにあの男は応じているのか剣戟の音が聞こえた。


「おいおい、死に急ぐ事もあるまい」


 呪詛の声。


「邪魔だ、死ね」


 それに答えるカーンは、やけに楽しそうだった。


「ありがとうよ、ほら、礼を受け取れ」


 そして




「まぁ、俺の最後はこんなもんだよな」




 やけにはっきりと聞こえた。

 笑っている。

 あのニヤニヤとした笑い顔が浮かんだ。

 人殺しの恐ろしい笑顔だ。




 私は不意に、仮面の異形が笑った理由に思い至った。


 私は震える手を戻した。


 ナリスが口を開く前に、私は金属板を懐に入れた。

 そして、何も考えずに足を踏み出した。


 どれを選んでも、誰も救われない。

 番人は対価を望んでいるのだ。

 本当は、こう言っているのだ。

 選択肢ではない。

 己を犠牲にし、相応の犠牲を払わねば、誰一人助からないのだ。

 そして、その助かる者に私は入っていない。



 浅ましい口先だけの偽善者



 私は闇に踏み出した。



「御客人、どこにおいでか?」



 努めて、平坦な口調で語りかけた。

 すると、何事も無かったように返事があった。


「おう、坊主、生きてたか」


 光りの中に、男が立っていた。

 血塗れで、草臥れた姿だ。

 そして、相変わらず、ニヤニヤとした笑いを浮かべていた。

 私も、なんだか笑った。

 悲しいような、懐かしいような、奇妙な心持ちがした。



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