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冬の狼  作者: CANDY
喪失の章
40/355

Act37 本性

 ACT37



 或る日、少年は死んだ

 そして...





 誰かの笑い声がする。


 暖かい午後の陽射しに眼を細めた。


 静かだ。


 館を歩くと、そこここに、躯が転がっている。


 家族、親族、使用人達、皆、真っ赤に染まっている。


 美しい館は、花が飾られ、麗らかな陽射しが満ちている。


 私は、南側の庭に面した部屋に向かう。


 私の大切な人がいるからだ。


 美しい庭が見える部屋には、バラバラになった愛しい人がいた。


 玩具を分解して並べたような姿は、白いシーツに順序よく並べられている。


 私の愛しい人の眼球は、抉られても美しい色をしていた。


 私は、悲しむべきか?

 私は、憎むべきか?

 私は午後の光の中で考える。


 従順にした結果が目の前にある。

 では、偽りを正すのが本意。

 個人の復讐など易い。

 では、私はどうするか?



 チリンと鈴が鳴った。



 それを手にしたのは文字も読めない頃だ。

 暁の空と泥に塗れた石壁と草木

 誰かと一緒にいた

 そして、手にしたときは一人夜の闇の中だ。

 それを開くと、声がする。

 いろいろな話をした。

 寂しい時、辛い時、嬉しい時。

 そして、だんだんと遠くなった。

 わかっている。

 元から私は違っていた。

 価値観の違い?

 とでも言うのだろうか。

 他人に合わせる事はできたが、理解できなかった。

 特に、命というものに関して。

 人間は人間を特別と考えている。

 人生や命を重いという。

 生きる事が重要と考えている。

 だが、人間も強者が生き弱者が死ぬだけの話だ。

 命に理屈も理由もない。

 雑草や虫と変わらず、死は死でしかない。

 誰の命が重要で、誰の命が無意味かなどは無い。

 死は特別ではない。

 そして生も重要ではない。

 物と人の区別は、壊れるか死ぬかだけだ。

 口には出さなかったが、私は常に傍観者となり、人の言う人生を無意味だと知っていた。

 だからこそ、生きている間は、私は普通であることだけを意識した。

 穏やかに思いやりを持って・・いる誰かの真似をして。


 偽りも続ければ本当になる。


 大切だと思える人間もたくさんできた。多分、何事もなければ、私も普通に死んだのだ。

 ただ、何事かが起きたとき、今更ながら、己の異質を悟った。


 誰の死も悲しくは無かった。


 ただ、自分が自由になったと感じただけだ。




 この領域は循環を促す装置である

 絶滅領域は、その循環装置の不備によるものだ

 即ち、循環する熱量によって領域は保たれる

 熱量を構成するのは生命である

 生命の循環によって熱量を発生させる

 熱量とは人のいう魂である

 それに対する人の認識は偏ったものだ

 人間を上位と考えている

 しかし、循環する生命に等級はない

 あるのは熱量である

 そこに人の考えは無意味だ



 人の言う神はいない


 では、何がこの循環を作り上げたか

 そして、何がそれを支えているのか

 生命が途絶えた後はどうなるのか

 領域が破綻した後はどうなるのか


 私は意味の無い存在であるが

 この疑問には執着した

 命に意味は無いとしながらも死に意味を見いだそうとしたのだろうか

 命の全てが還元されるわけではない

 それは絶滅領域がしめしている

 あれは自然にできたわけではない

 では、通常の循環からそれた熱の行き先はあるのか

 領域は多層に渡るとの説もある

 では、循環に乗らない熱量は




 答えはいつもそばにある




 私の手の中にあるそれは、命でもなければ物でもない

 ただ、ただ、私に命じるのだ


 刈り取り支配せよと


 それは正しい

 なぜなら、私は知っている

 この循環する領域が変則的産物であることを

 この世こそが異物なのだ

 本来ならば、もっと、単純で素朴なものだ

 知性を人は尊ぶが、考える事こそが悪なのだ

 生きるのは本能であり、知はそれを阻害する

 強ければ生き、弱ければ死ぬ

 それだけならば、憎悪も悲しみもないのだ

 この世界こそが間違っているのだ

 間違いは正さなければならない

 そうすれば、循環は断ち切られる


 すばらしい


 生も死もなくなる


 すばらしい


 彼らも私と同じになる

 命に重きを置くこともない

 変わることなく私のそばにいるのだ




 ずっとそばに




 鈴の音は聞こえない







 その魂は喰われ、残ったのは歪な心



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