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冬の狼  作者: CANDY
喪失の章
34/355

Act0 グリモアの主 後編

 ACT0


 普通に戻れると思ってた。


 でも、俺は、俺達は、戻れなかった。

 何も考えないんじゃない。もう、何も考える事ができなくなっていた。

 考える事は、生きる事だ。

 生きていない、囚われの魂は、飢えているだけだ。


 飢えたるモノの眷属。


 ジグの森からあふれ出た黒い影は、俺達だ。

 腐土領域の出現と共に、中央大陸とその周辺諸国は戦争行為を中止した。

 殺し合いは腐土領域を拡大する。

 死体が一つあれば、実体のない死霊と蠢く死肉の二つができる。すると、死霊は遺骸にとりつき蠢き、死肉は生きた人間を襲う。鼠のように増えていく。

 死者が群をなすと、近隣の動植物が死に絶える。土地や水が腐る。

 そうして一つ二つと村や町が腐ると、周辺の様相が一変する。

 昼夜無く大気が澱み、正常な人間が活動すると常に消耗する。

 絶滅領域のような、人間の生存が難しい空間になるのだ。


 信じられない?


 俺もだよ。

 温い夢の中にいるみたいだ。

 中央に戻った俺達は、男の言うままに動いた。

 男の言うままに、人を殺し、奪った。

 何故、司直に渡されなかったか?

 死人をどうやって裁くんだ?

 それに証拠が無い。

 犯人は戦死者だし、死体は食われて無い。奪ってきたモノは、日の目に出せるようなものじゃない。


 何を盗んだか?


 腐土領域に入ると人間は具合が悪くなる。

 まぁ聞くんだ。

 しかし、一部の人間は逆に戦闘力があがる。俺達、死人と同じに、生きたまま体が変わるんだ。

 腐土領域は人間が名付けたが、もっと簡単な言葉で言えば、冥土だ。

 この世の理が変質した場所で、人間も変質する。

 男は、その変質を望んだ。


 何故か?


 俺には推測もできない理由だろう。

 あの男が何なのか?

 俺の知る男は、貴族の頭のおかしい男でしかない。

 今の男が何者なのか?

 変質を望むその理由は?

 変質させるには、俺達のような化け物が、領域を腐らせる必要がある。

 でも、腐らせるには、たくさんの死が必要だ。新鮮な死体が欲しいと男が思っても、中々難しいし、国も馬鹿ではない。むしろ、中央は死人より貪欲だ。


 では、どうするか?


 男は古来よりの方法で、この世を腐らせる手段を得ようとした。


 それにはオラクルが必要になる。


 入植以前にこの大陸にあったとされるオラクルの書だ。

 そう、男の手にいつもあるのは、不完全なオラクルだ。

 その頁は白紙だ。

 しかし、ある者が触れ、失われた断片が戻ると力を取り戻し、道が開かれる。

 そして、オラクルの失われた部分を補うのは血だ。


 血は、歌が聞こえる。


 ジグで聞いたあの歌は、オラクルだ。

 俺達の村には、神の話が伝わっている。

 その神は何だった?

 俺達にはいくばくかの血が混じっている。この場所に関わっていた昔の人間の血だ。

 俺達は言われるまま、人を浚い、血を抜き、食った。

 男は力を増した。


 だが、俺も、変わった。


 俺は血肉を啜る毎に、オラクルの断片をも取り込んでいた。

 他の奴と何かが違って、どんどん、男の呪縛が薄れた。

 それに気がついた奴が、俺達をここに縛った。

 縛って番人の注意を引くようにした。

 あの目玉の事じゃない。

 ここにいるのは墓守で、番人は門番のことさ。この忘れられた場所には理を守る門番がいる。


 ここにはちゃんと理がある。


 爺達が、この世の理を守っている。

 普通の人間によって、ちゃんと世界は保たれている。だから、番人がいて、腐らないようにしている。

 その番人の目をそらすのが、俺達餌って訳だ。

 罪を犯した死人の俺達は、ここに繋がれている。

 だから、ここの理も徐々に覆され始めている。



 男は何者か?



 死人だよ。


 俺と同じ、哀れな普通の人間だったモノだ。



 今は何者かって?



 オラクルの書を使う者は、グリモアの主と呼ばれている。

 そして、死人を使役する者は、こう呼ばれている。




 死霊術師だよ。




 ご大層な呼び名だよな。



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