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冬の狼  作者: CANDY
薄明の章
334/355

閑話 千日紅と猫の髭 ①

 猫が増えた。

挿絵(By みてみん)

 じっとりと見つめあってから、空を見上げる。

 襲撃から一月半だ。

 実に平和だ。

 おかしなくらい平和だ。

 もちろん、肉体的な平和であり、その他は目を覆いたくなるような状況だ。俺的に‥。

 まず、アンが館に暮らすようになってから雨が降るようになった。これは素晴らしい。毎晩、桶を出しておくと朝には水がたまっている。素晴らしい。

 で、アンのよくわからない話を聞いて頷くのが仕事になった。これもまぁいい。

 その訳のわからない話を記録するように言われているが、これだって業務日誌みたいなもんだ、許容範囲。

 それで問題はだ、アンが歌うと雨が降って花が咲くのだ。

 知らない者なら、それが?である。

 でもね、石から花がウネウネしちゃうのよ。

 中央公園跡の館の回りは、聖別されたお高いコルテスの石材が使われている。そのお高い石材からウネウネっと可愛い桃色の花が咲く。そりゃもう一面。

 そんで踏まれようが刈り取られようが、ウネウネ、生えてくる。

 軽く恐怖案件。

 それは館の睡蓮というか謎植物の友達らしくて、ウネウネ、ミョンミョン時々何だかやりとりしている。

 寝不足の神殿長が駆けつけて、ギャースカ騒いで結局そのままになった。

 神殿長と花とアンが、ごそごそ話し合いをしてだ。

 花と話し合いとか正気?

 って呟いたら、コンスタンツェ様が謎理論で締め括った。

「姫を守るため、蔦の者が恭順したようだ。気にするでない。ところで、今日は久々にあの甘味の店にでかけるぞ」

 と、娘達への貢ぎ物の方が重要らしい。

 まぁここまでなら、見なかったことにできる、かもしれない。

 次に、襲撃のあと、現場復帰した猪のオジサンが元気だ。

 もとから元気?

 そうだけど、より暑苦しくなった。

 人員が増量されて、お花畑がむさ苦しい男で埋まっている。

 これは公王も許可した。

 究極、館が破壊されたら、お姫様を担いで逃げてよしとなった。

 もう王様、都が腐ってもイイッテ。

 姫を呪ったり襲ったりする人間は死んじゃえって開き直った。まぁ、それもいいと思う。

 俺も、焼き殺されるの二度目は無理。

 次は当分無いと思いたい。止めて、本当にやめて。

 まぁ、お掃除する前に犯人見つかったけどね。

 人を呪わばって言うけどさ、犯人は襲撃後に自分から人前にね。

 そいつ俺が火柱になってた頃、同じく火柱になってたらしい。

「だってミハエルを苛めたんだもの、お姉さまも許さないわ。当たり前でしょ、全身にミョルゲの黒鎖こくさを刻んでやるの」

 ミョルゲって何?って聞かなきゃいいのに聞いた俺は馬鹿だった。

「魂を縛る地獄の蛇よ、お友だちなの」

 お友だちなの、へぇって言った俺をホメテほしい。冗談かどうかは確認してない、コワスギル。

 んで、火柱になって同じく生焼けになったソイツ、俺のように治療を受けても傷は治らなかった。

 火は直ぐに消えたのに、全身が黒い縄目が巻かれたように焼けていく。あまりの痛みに神殿で告解をしたんだそうだ。まぁ神様お助けってなった。

 自分でも、これが火傷とか普通の損傷じゃないことを理解していたんだろう。

 つまり天罰。

 で、貴族の長命種の古い血筋の、まぁ公王自身の親戚筋の殆どが処刑された。

 今回の処刑は凄惨を極めた。

 王都を焼くと言う行為、神殿への冒涜、そして姫の殺害を目論んだ事。住民への被害。

 並べれば、どういった処罰が妥当かわかる。

 特に、貴族であり使徒の家系に手加減は無用となった。

 徒党を組んで呪い?とか集まって、魔導?ってので何かしたというか、誘拐して儀式とかいって地下で民を殺害してたとか。その使徒の貴族を中心に行われていた。

 荷担した者は公開で一族末端まで連座っていう苛烈な処断。

 まったく関与していない者もいたのかもしれない。それとも何か理由があったのかも知れない。

 まぁ、仕方がない話だ。俺的に問題なのは、その後の話。

 処刑が速やかに行われたのは、西の辺境伯御大が都に到着したのもある。大量の犯罪者の審問審判は、有能で冷徹な元宰相閣下が情けなど入り込まない処理を手早く強引にやりとげた。

 その爺い、公王の顔を見る前に館に訪れ、進物を積み上げたのは最近だ。それってどうよって皆思ったが、もとより男の顔なんぞ拝みたくないという爺いである。

 公王なんぞヒネタ若造を見るくらいなら、お姫様とお付きの女の子に、お土産持っていく方が重要って言い切った。

 これは本当に言い切っているのを聞いているので誇張はしていない。

 外見が真面目そうなお堅い貴族の爺のくせして、もう治しようもない男嫌いで女好きだ。

 奥さまを大切にしているからまだいいけど(大切にしなかったら命がないし当然か)。そんで自分の息子でさえ嫌っている。それってどうよともう一度突っ込みたいが、身分が高すぎて誰も何も言えない。

 だからコンスタンツェ様は、親戚の洟垂れ小僧の扱いだ。

 ゲルハルト侯爵は倫理観溢れる紳士だが、この爺は偏屈が極まっている。同じ小僧扱いでも、辺境伯には理屈が通じない。

 会話をする前に、神殿の寄宿棟の一件を持ち出して先制攻撃を受ける事に。

 まぁこの会話がどうなったかは、寄宿棟を新造しないで南に新たな神殿をコンスタンツェが寄贈する話になった。

 誰がその神殿に来るかは、俺的には予想がつく。

 と、こんな感じだが、この爺は財力人力ともに後援者としては最高だ。良い点は奥様が強い、じゃなくて獣人で神殿の巫女だった人だから、色々融通がきく。

 そりゃもう嫁入り道具かって程の貢ぎ物だった。爺は情報収集も余念がない。たぶん、あれは獣人王家の差し金だ。

 話がそれたが、犯人達は先代名無しの残党だった。

 そして東マレイラから落ち延びてきた邪教の者と合流し、今回の事を企てた。

 ある意味、シェルバンの掃討がうまくいっていた事も原因らしい。

 で、王様、激オコ、一族郎党処刑の上、所有する建物を全て破壊。地下部分は焼却後埋め立てるという祭りに。民も加わってちょっとした小遣い稼ぎになった。

 ここまではうまくいっているから良いじゃん?

 まぁ~ねぇ~。

 で、このレギュラス・オラハ・インゲニッツ西方辺境伯ソロン領イルベロン自治地区監督あと何だっけの偉い人は、土産に小さな小瓶をエウロラに渡した。

 これが大問題だった。

「これ凄い奴だっ!アタシ、初めて使うよぉ超高級品だよ。この香辛料さぁお肉は適度な熟成を促すし、腐らせないし、薫製にも使えるし、お肉は柔らかくなるし、クズ肉も内臓もすんごくすんごく美味しくなるんだよ、ねぇアン、アンタが食べたがってた爬虫類も美味しくなるよっ」

 大問題である。

 爬虫類というが、それは良く知られている鰐ではない。

 ボフダン直送の謎の生き物の肉で、どうみても紫色と目に痛い黄緑色の斑点が表皮にある食べてはいけない代物だ。

 アン大興奮。

 俺、撃沈。

 そして熟成期間が終わった謎肉が、そろそろ食卓にあがる頃である。恐怖の晩餐が近々催される運びだが、飼い主としては強制参加だ。獣人の解毒機能が破壊されないことを祈っている。

 オラハ卿(宰相の息子と被るのでインゲニッツは省略)は実に獣人の女を良くわかっている。あぁ長命種だろうと亜人だろうと、女の事はわかっているようであるが、土産物はエウロラの欲しいものとアンの欲しいものを当てたわけだ。

 そして何故か、お爺ちゃんとチャッカリ呼ばれて喜んでいる。お爺ちゃんありがとう、アンが美味しいお肉を食べれるぞ~と爺に飛び付き、エウロラが料理を食べていってほしいなんぞと言うものだから。

 爺、公園の向かい側で焼失した土地に家を建てて暮らし始めた。

 当然、ご飯は一緒だ。

 姫には遠慮して拝謁は最初の一回きりだが、人見知りのリアンともじっくりと腰を落ち着けて色々話を聞いたりしている。

 じっくりと腰を落ち着けるなや爺。という公王とコンスタンツェを無視して、入り浸っている。

 これには公王もコンスタンツェも、羨ましすぎて文句を垂れ続けていた。

 もちろん、今後を見据えてのオラハ卿の行動である。

 彼がここにいる限り、南の兵隊が大量にいても不自然ではないからだ。

 マレイラのアッシュガルトが壊滅した事が、一応の災害という外聞にしているのが原因ね。

 相当数の増員の理由を別に作らねば、首都への軍事侵攻ととられかねない。

 とは分かっていても、同じ変質者である。王様もコンスタンツェ様も変態だから許せないよねぇ。

 すんごい迷惑。

 で、最近、猫が増量している。

 水問題は降雨で何とか凌いでいるし、今も遠くから水を運んでいる。人口は流出しているし処刑も時の鐘のように慣れた。

 だからというわけではないが、小動物が戻ってくると同じくして猫がやけに増えていた。

 お花が咲いたら、余計に館まわりに一日いる。

 時々、巨体の猫が数匹。

 姫の猫より少し大きな、子供でも喰いそうなのが混じっている。近寄ると食いつきそうなので側によらないが、女子供にはなついていた。

 そんなのがお庭に放し飼いになっている。

 糞尿の始末は相変わらず猪のオジサンがやっている。もう、それはいいんだけど、夜になるとだオカアサマがね。

 オカアサマとやらが実態化するようになった。

 大問題でしょ。

 予想道理、頭がお二つもついていてよ、あらいやだ。

 そして猫じゃなくて虎に見えるの、あらいやだ。

 肉体の変異した輩、這いよる者は未だ来るので、オカアサマは夜になると現れて残虐解体興行をしていく。

 お片付けは咲いちゃったお花である。

 都の住民は、夜はお外にでないこと。

 眠りの館の庭には、夜は入っちゃだめだよ。って通知が出た。

 人間慣れる生き物だよね。

 蠢くお花も化け物を食べる双頭の虎も、人間喰わなきゃ良いんじゃないの?て世論に。

 俺は、そんな世論の慣れが怖い。

 たぶん、生きたまま火柱になったり、食いかかってくるような人間擬きのほうが怖いよね~神様から罰をくらうような奴じゃなければいいんじゃね?

 ってところだろう。

 そいで究極の大問題。

「元気そうだね、オロフ。しっかりと稼いでいるかい?まさか遊んでいるなんて事はないだろうねぇ。うん、彼女はできたのかい、孫の顔を早くアタシは見たいんだよ。そこのお嬢ちゃん、この馬鹿の彼女かい?」

「ご冗談を奥様、アタシは姫様のお世話をさせてもらっている者です。そこの旦那とは無関係です」

「はぁ相変わらず、甲斐性がないねぇ。ごめんねぇ可愛い娘だから冗談言っちまったよ。私はフローラだよ、暫く子供達とこっちに仕事に来たんだ。

 街中の治安維持と片付けの手伝いさね。

 もし、何か頼みたいことがあれば気軽に声をかけておくれ。

 費用はお偉いさんから搾ってるからねぇ。この肩の模様が目印だ。どんな奴でも声をかけて使ってくれていいよ。通じなかったら私の名前を出してくれればいい。買い物だろうとゴミ捨てだろうと、そうそう人間でも何でも始末するからね。

 お姫様のお顔を拝んでもいいかい?

 公王様の許可証はこっちにあったな。あぁシャルル久しぶりだねぇ、後で話があるから。これ確認よろしく、おや、この子供はどこの子だい。なに?オロフ、お前子供に手を出したんじゃないだろうね」

 終わった。


 ***


 母ちゃんの挨拶、腹に二発くらって沈んでいるうちに、コンスタンツェ様から話があったようで。

 アンと姫様の顔を見た母ちゃんに元気が注入された。

 たぶん、味の濃い面々との悪巧みを考えている顔だ。

「相変わらず細かい男だね。やっぱり、女の子の方がよっぽど役に立つよ」

 爺に引き続き男嫌いが増えた。やだもう。

「東に兵力を割いた分、暫くは私の所が輸送を受け持つことになったんだよ。戦争も暫くは無いだろうし、小競り合いに下手に手を出すのは不味い時期だ。

 暫くは、ここで指示を出すよ」

「えっここでって」

 殴られた。嫌がってる雰囲気を感じたようだ。あぶない、最近会ってなかったから間合いを読み間違った。

「安心しな、商会にいると頭取が死ぬって言うから、オラハ卿の新しい別邸に滞在するつもりだ」

 いろんな意味で問題である。

 王都のゴート商会の頭取を勤めているのは姉の婿の一人だ。確かにこの母ちゃんがいたら頭髪と胃の危機だ。

 だが、クソ爺と母ちゃんの二人が揃ったら、俺の頭髪と胃が死ぬ。

 つーか頭取、死ぬってよく言えたな。

「忙しすぎて死ぬから、そっちの裏仕事は別に場所を借りてやってくれってさ。アイツも中々言うようになったよ。安心したわ」

 ガハハと笑う母ちゃんから、目をそらす。

 過労死寸前で取り繕えなくなったんだ義兄。

「オラハ卿との打ち合わせも頻度が上がりそうだしね。コンスタンツェ様、神殿建てるって?その仕事にも噛むことになるから、私も忙しくなりそうだ。」

 水の運搬の下請けに、神殿の建築をするなら護衛に運送にと、仕事はいくらでもある。儲け話に母ちゃんは目の色を変えている。

「まぁ、仕事の事だけじゃなく、お前の事も見にきたんだ。お前、二度も死にかけたね。弛んでるんじゃないかい?」

 心配という優しさがほしいが、母ちゃんにはそういった物は装備されていない。これは心配発言ではない。そして下手に口答えしないのが秘訣。

「暫くここにいるんだ、ちょっくら鍛え直そうと思ってな。シャルルもな、部下を鍛え直したいと」

 口答えしなくても最悪だった。

 それから姫様のご機嫌を伺いに館に来ると、そこに訓練という名の拷問が加わる事になった。

 深夜の当番の奴だけは外されるので、何気に夜勤が大人気になる惨状だ。

 訓練は、母ちゃんの鞭をひたすら避けるのと、猪のオジサンの斧の振り下ろしを耐えるのと倒れるまでの組手だ。イジメダとオモウの。

 母ちゃん早く実家に帰って欲しい。

 そんな母ちゃんは、何故かアンと猫とオカアサマに大変気に入られていた。

 謎だった。

 アンは最初から母ちゃんの言うことをおとなしくきく。そして何故か側に寄っていく。非常に友好的だ、食べたいのか?

 次に猫だ。

 猫も母ちゃんの命令を聞いた。

 そこ邪魔だよ、って言うと整然と動いて、母ちゃんの方へ参りましたの腹みせ可愛いでしょをする。

 ちなみに、猫とも言えない巨大な奴もだ。

 そして極めつけはオカアサマだ。

 一度、オカアサマが気合いを入れすぎて、館に汚物の破片が飛んだ。たまたま、分派長と一緒にいた母ちゃんが、虎に向かって怒鳴り散らした。

 館に汚いもんを飛ばすんじゃないよ、このクソ猫が云々だ。

 青ざめる回りの兵士と俺たち傭兵。

 そしたらオカアサマが服従腹みせをした。

 コロンってして、ごめんなさいである。

 猛獣のそれは勘弁して欲しい。

 母ちゃん、さっさとゴミを始末しなって、鞭で追いたてるもんだから、俺たちも追いたてられた気になって怖かった。

 自分の母親だろうが、と言われても。普通は年々親の老いに向き合っていくのが普通でさ。自分の面倒以外にも親の面倒も見なくちゃなぁなんて考える訳よ。

 俺以外ね。

 何人もいる姉ちゃんもそうだけど、歳をとる度に何でか元気になっていく。

 でもさ、双頭の虎の化け物が腹を見せるって、つまりあの虎より確実に俺の母ちゃんは強いって事になる。

 だから毎日、館回りの猫と見つめあうわけよ。がっかりだよな。

 俺に腹を見せろ~(魂の叫び)

 現実は厳しいね。

 母ちゃん>オカアサマ>ネコ>俺なのか?

 見つめあうと猫が俺の靴に前足を置く。

 元気出せよ、兄ちゃん。ってな感じで不細工な雄猫がフミフミしていく。

 まぁいいけど。

 最近の行動予定は、まずはコンスタンツェ様と朝御飯。お家を出発して市中を視察。

 お昼後に館に顔だし、警備の確認と館の中の様子を見る。

 そこでオラハ卿がいれば情報確認とコンスタンツェ様との楽しくない茶会。俺はここで訓練という名の拷問。それからコンスタンツェ様の予定があれば、それにあわせる。

 夕方のご飯前にもう一度、俺だけ拷問、じゃなくて訓練して、オラハ卿と一緒に館で夕御飯。ここで帰宅するならコンスタンツェ様を自宅へって感じである。

 訓練は母ちゃんか分派長が指導する。

 最近は鞭避けから体術の攻撃もくるようになって、身体中が痛い。

 母ちゃんは俺と同じぐらいの大きな女だ。そして見た目より骨が頑丈だから、殴られると鉄棒でやられた感じだ。

 バキッじゃなくてドグゥッって感じ。

 ボカッじゃなくてゴボッってなる。

 もっと優しい世の中でいいと思うの。丁寧な暮らしってのをしたいと思うの。

 二度も死にかけたんだからさぁ、もう、引退してもいいと思うのよ。

「何で、私の所に来て言うのかわからないんだが」

「はい、林檎~兎さんにしてみましたぁ」

「だから、何でここに」

「子爵継承おめでとうございますぅノクサス・ドラ・ベルキナ子爵様ぁこれ良かったらお納めくださいぃ」

 この間、ボコった人の病室に潜入して愚痴っていた。

 審問官の強請ネタ手帳の人で、雑貨屋の主のノクサスさんね。

 見舞いと称して息抜きに、商会の保養所に来ていた。

 今日は母ちゃんとコンスタンツェ様が一緒にいる。王様と1日お話があるから、俺は無理やり休んだ。代わりに姉さん達の旦那を付けた。たまには義母と交流した方がとか言っておいた。覚えてろよって言う捨て台詞は聞いてない。義兄達の背後に母ちゃんがいたのも見ていない。

 商会の裏手にある従業員の宿舎と繋がっていて、専従医師を置いた医療施設だ。保養所としているのは、本来医者を囲い込んで高度な外科治療をするのは違法だからだ。

「日持ちのする焼き菓子と、こちらが美しい陶器の入れ物つきの飴ちゃんが入った奴。あと、綺麗な飾り剥きした俺作の果物っす。どうぞお納めください。ほらほら、食べて食べて」

 有無を言わさず、果物を口に突っ込む。

 ぼやぼや~としている奴なので、そのままシャクシャク食べている。

 もうすでに、誤解で折り畳んだ事は謝っている。許しの言葉は無いが許されても困るのでちょうど良かった。

「このままだと肥太って動けなくなりそうだ」

 いつも眠そうに半分瞼が閉じている。

 事実、昼は眠気が強く、陽射しにあたると皮膚が爛れるという肉体の変化を遂げていた。

 性格は自覚するほどの変化は無く、もともと、ぼんやりとした性格のようだ。

「今度、その訓練、リハビリも兼ねてやんない?」

「そこまで愚痴った拷問に、どうして参加すると思うんだ」

「だって心得がなくて、俺とショボい武器で戦えたじゃん。素質あるし、それ以上に体の限界を試しておいた方が良いと思ってね」

「限界?」

「たぶん、今までと同じと思ってると、困るはずだよ。ちなみに、この病室も建物も、南の重量獣種用建築ね」

「それは何だ?」

「短命種人族を基準とした建築の倍以上の強度と重さで作られてるのよこれね。んで、力加減ができる大人なら人族のお家でも暮らせるんだけど、俺のような重量の獣人は、子供とか病人とか力加減ができない状態だと、破壊しちゃうの」

「はじめて聞いた」

「そりゃ、手加減できないような重量獣種の大人がこっちで暮らしてる方が珍しいっしょ。扉の取っ手を開ける度に粉々にしたり、食事の器がもてないとか、暮らせないし」

「つまり今の私がその状態か」

「食器も強度の高い硬い木とか金属でしょ。それこそ便器も特注だよん」

「困ったな」

「子爵家に入る前に解決しないと、向こうの人たち捻り潰しかねないよ。向こうのご家族でまともに残ってるの、叔父さん夫婦だっけ?肉体の変化も少なくて良かったね」

 短命種人族に傾いている血族だけが残っていた。

 そして今回の襲撃犯の連座で空いた貴族席に彼らとノクサスが座る事になったのだ。ちなみに本家は壊滅だ。

「甥と姪も残っている、子供がアブナイ、私が一番危険物だと..」

 眉間にシワを寄せて唸るノクサス氏。

 それでも果物を食べ続けている。

 食欲は落ちたようだが、甘味と果物と野菜は食べた。

 一部、吸血行動をする輩も現れたが、今の所、統計的には吸血行動をする者は、処刑対象になるような行為もしていた。

 肉食以外に傾いた者は、そうした狂暴残虐な嗜好にはなっていない。

 このまま菓子や果物で生きていけるようなら、監視対象から外れるだろう。

「人生ままならないよねぇ、まぁ人生設計の見直しをする時期なんだよ子爵様。で、これからどうするつもりなの?」

「聞いてどうする」

「監視も兼ねてるけど、助力をするつもりだ。」

「もう、十分だと思っている。感謝はしないが、血縁の問題の解決を肩代わりしてもらった。」

「調査と監視が目的で、殿下の意向だからねん」

「それ以上は必要がない」

「まぁまぁ、それで子爵様になって、叔父さん家族と暮らすわけでしょ」

「叔父は官吏だが、その収入だけでは引き継いだ物を維持できまい。叔父が渡された支配地は主要な産業が無い。税収も低く前の持ち主が非道な輩だった。なのでベルキナ家の方に入ってもらうつもりだ。私は全く、領地経営も統治も門外漢だ。貴族教育というより教育さえもろくに受けていない。叔父とそのあたりも相談せねば」

「商会でその辺は対応できるけど」

「どういう感じにだ」

「ノクサス氏は財産はあれど持て余す状態。叔父さんは貴族の家系だけれど繰り上がり継承した土地がゴミ」

「そうだ」

「ベルキナ家の都の屋敷は更地で、叔父さんの家に入る事になるんだよね。良い叔父さんだよね、そんで叔父さんは今の所、ベルキナ家の領地から送られてくる仕事や決済を一人でこなしている。」

「申し訳ない限りだ」

「で、ノクサス氏の希望を聞いてみたいわけだ。」

「ん?」

「お金は欲しいですか?」

「ほどほどに」

「親戚と仲良くしたいですか?」

「ほどほどに」

「お仕事と自由、どっちが大切ですか?」

「どちらもほどほどにか」

「もし、自由にできるなら何をやりたいですか?」

 新しく剥かれた林檎を凝視すると、眠そうな目がカッと見開かれた。

「小間物を扱っていたが、菓子の修行がしたい」

「おぉぅ」

「菓子には金がかかるので財産は必要だが、貴族が直接の商売や労働をしてよいものか。

 しかしこのような世の中だ、思い残して死ぬのも悔しい」

「もとから好きなんっすか?」

「子供の頃は、食えなかった。自分で稼げるようになってからか。だが、男が甘味や菓子を手に入れようとするには中々世間の目があってな。そして何故か贔屓の店で揉め事に巻き込まれる。」

 この人、こう見えて悲惨な子供時代を送っている。ぼんやりとした性格からは伺い知れないが、殺されかけた事は片手ではすまない。

 本家の義母、祖母からの刺客に、兄弟達。

 原因はノクサス氏の顔だ。

 婚外子のノクサス氏は、ベルキナ家の祖父の母親にそっくりなのである。直流の曾祖母に生き写しで、何かの切っ掛けで爵位が継承されるかもしれないと、目の敵になったのだ。

 ノクサス氏の曾祖母は傑物であった事と、祖父が自分の母親にべったりだった事とか、色々、気持ちの悪い事も拍車をかけていた。

 子供の時から母親と隠れるように暮らし、実の父親は腑抜けだし。

 で、お菓子を買うのが難しいのは、別に男が買いにいくのが恥ずかしいだけではない。

 これもノクサス氏の顔に原因がある。

 そりゃもう絶世の美青年ってやつだ。それも気だるい無意識に女に貢がせる系統のだ。羨ましくないんだからなっ(泣)

 元気一杯の男より、こうなんだろう少し貧血ぎみのほっとくと死にそうな感じ?

 もう黙っていても女の方が、ご飯食べさせてお小遣いを無意識に渡してるっての?羨ましくないからなっ(怒)

 で、お気に入りのお菓子屋にノクサス氏が出現する。親切な女の子が集る。勝ち抜いた女が恋人になる。それでもノクサス氏に女の子が集る。もめる、もめる、もめる。で、菓子屋に出入り禁止。

 じゃぁ彼女にお菓子買ってきて~で、出先で女の子が揉める。ノクサス氏の店にも来る。でも、お店だから話をする。そうすると彼女がキレる。もめる、もめる、もめる。

 もう、面倒だから菓子は食べない。

 友達作れよ、男のよぉ(怒×2)

 男の友達が少ない可哀想なノクサス氏には、一緒に死にましょうと迫る女の子がたくさんいた。

 それがあの小間物屋の店先の蠢くお肉だった。

 いや、一緒に滅びれば良かったんじゃないの?とは少しも思ってないよ、ホントダヨ..。


「了解したっす。その熱い思いに商会は全力で答えますよぉ」

「不安しかないが、どういうことだ」

「まぁ色々手を回してみるっす、つーことで訓練参加しましょうよぉ、貴族の嗜みもかねて」

「..貴族の嗜みが傭兵の訓練なわけないだろう」

挿絵(By みてみん)

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