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冬の狼  作者: CANDY
喪失の章
33/355

Act31 生け贄の意味

 ACT31


 私の混乱に、彼は笑った。


「こいつらも俺も、ジグで死んでいるんだよ。それに気がついたのは、絶滅領域だ」


「でも」


「新しい領域は、死者が動くんだよ。この世の理が失せたんだ。国の偉いさんは、腐った土地、腐土領域と呼んでいる。」


「でも、喋って」


「俺以外は喋らないし、もう、何も感じないよ。ここに来るまでは、飢えを感じていたけど、それも消えた。ジグ帰りが始末されるのは、人間じゃ無いからさ。」



 俺達はジグで仲間を喰ってた。

 最後の頃は、もう、飢えてなくても喰ってた。



「生きてるじゃないか」


 私の困惑と不安に、彼は黙った。

 彼が黙ると、とても静かで、静かすぎて嫌だった。

 私は再び彼らを縛る鉄の輪に手を伸ばした。


「何でこんな事に、何がどうなっているんだ」


「人が死んだら自然に帰る。魂が何処に行くのかは誰も知らない。でも、あの男は、その魂を捕まえて飼うんだ。」


「そんな事できるわけないよ」


「捕まえられた魂は、壊れるんだ。もう、生きていた頃とは違う。彼女の顔を起こしてみろ」


 彼の隣に繋がれているのは、濃い色の髪をした女性だ。長い巻き毛が肩からこぼれている。眠っているのだろうか、青白い面が片側に傾いでいる。

 その傾いた顔を正面に向ける。

 すると、瞼が震えてゆっくりと、開いた。


 睫の影が揺れて現れた眼は、黄金色の複眼だった。


 両手が震えたが、彼女は何も応じなかった。

 ひっそりと、私の方に顔を向けたまま動かない。


「俺達はあの男から逃げようとした。生き延びようとしたんじゃない。ちゃんと死にたかったんだよ。おかしいだろ」



 ちゃんと死にたいなんてさ。

 生きてる頃は、生きたいとあがいて。

 死んでからは、死にたいともがく。

 せめて、故郷の土になりたかったんだ。



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