Act31 生け贄の意味
ACT31
私の混乱に、彼は笑った。
「こいつらも俺も、ジグで死んでいるんだよ。それに気がついたのは、絶滅領域だ」
「でも」
「新しい領域は、死者が動くんだよ。この世の理が失せたんだ。国の偉いさんは、腐った土地、腐土領域と呼んでいる。」
「でも、喋って」
「俺以外は喋らないし、もう、何も感じないよ。ここに来るまでは、飢えを感じていたけど、それも消えた。ジグ帰りが始末されるのは、人間じゃ無いからさ。」
俺達はジグで仲間を喰ってた。
最後の頃は、もう、飢えてなくても喰ってた。
「生きてるじゃないか」
私の困惑と不安に、彼は黙った。
彼が黙ると、とても静かで、静かすぎて嫌だった。
私は再び彼らを縛る鉄の輪に手を伸ばした。
「何でこんな事に、何がどうなっているんだ」
「人が死んだら自然に帰る。魂が何処に行くのかは誰も知らない。でも、あの男は、その魂を捕まえて飼うんだ。」
「そんな事できるわけないよ」
「捕まえられた魂は、壊れるんだ。もう、生きていた頃とは違う。彼女の顔を起こしてみろ」
彼の隣に繋がれているのは、濃い色の髪をした女性だ。長い巻き毛が肩からこぼれている。眠っているのだろうか、青白い面が片側に傾いでいる。
その傾いた顔を正面に向ける。
すると、瞼が震えてゆっくりと、開いた。
睫の影が揺れて現れた眼は、黄金色の複眼だった。
両手が震えたが、彼女は何も応じなかった。
ひっそりと、私の方に顔を向けたまま動かない。
「俺達はあの男から逃げようとした。生き延びようとしたんじゃない。ちゃんと死にたかったんだよ。おかしいだろ」
ちゃんと死にたいなんてさ。
生きてる頃は、生きたいとあがいて。
死んでからは、死にたいともがく。
せめて、故郷の土になりたかったんだ。