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冬の狼  作者: CANDY
喪失の章
32/355

Act0 グリモアの主 中編

 ACT0


 ジグから中央大陸に戻ると、直ぐに東南の戦闘地域に送り出された。

 野戦から、男は英雄と呼ばれるようになっていたが、再び、死ねとばかりに前線に送られたわけだ。

 俺達は、当然男について行った。

 何故か?


 ジグの生き残りは、殺されるからだ。


 余所の部隊に配置された者は皆死んだ。敵に殺される前に。

 男は俺達を集めると、敵と味方の見分け方を楽しそうに教えてくれた。

 それは簡単な見分け方だ。


 死人は敵ではない。


 男は、少しでも時間がとれると俺達に話した。

 この世の本当の姿を。

 この苦しみの意味を。

 殆ど、俺には意味が分からない。だが、男の戯言が始まると、皆、ぼんやりとして楽しい気分になった。

 男は片手で本を持ち、俺達に説く。

 俺達は、塹壕の中で死体に座って聞き入る。



 この世は偽りなのだ。

 肉体は檻であり、魂の頸木である。

 故に偽りに生きる者は苦しむのである。

 その苦しみは生ある限り続く。

 では、死は安らぎであるのか?

 間違ってはいけない。苦しむことを恐れてはいけない。

 この苦しさこそが、魂を解放するのだ。

 苦痛や恐怖は偽りである。

 苦痛こそが快楽であり、恐怖こそが喜びであるのだ。

 それを苦しみと感じさせるのは、偽りが支配しているからに過ぎない。

 我々は、今こそ、願わねばならない。

 この場でこそ願わねば、偽りは覆せないのだ。



 寂しくて虚しい日々を過ごしていた俺は、男の戯れ言に惑わされていると楽だった。

 自分より哀れな人間に安らぎを得ていたんだろう。

 哀れなだけだったらよかったのに。


 男の率いる勢力は徐々に勢いを増し、敵を押し返すまでになった。

 何故か?

 戦場の異常に国が気付いたよ。

 停戦の最初の切っ掛けだ。


 俺達が進軍すると、土地が腐るのさ。


 そう絶滅領域の出現だ。


 中央大陸は様々な勢力が争い続けている。宗教、思想、民族、階級、人が人である限り争うものだ。その中央大陸が集結して戦う敵対勢力と言えば、北方の山脈を境に広がる高地民族が一般的だ。

 多民族国家唯一の統一見解という奴だ。だが、地理的に絶滅領域が間にある。

 お陰で、高地民族との戦は早々起きない。高地民族と中央民族の戦は大侵攻と呼ばれているが、そんなモノが度々起きていたら人間は既に滅んでいる。

 否、滅んでいればよかったのかな。

 あぁ絶滅領域だったな。

 絶滅領域とは、生物が生命を維持できない場所って奴だ。

 長期戦の戦場が一時的に不毛化するのとは違う。

 自然で言えば溶岩の流れの中とかの事だ。

 有名なのは、北の絶滅領域だ。村からも見える通年凍り付いた空気の薄い山脈だ。

 高地も寒いが、向こうは火山帯で暖かいらしい。

 西の砂漠は絶滅領域じゃないかって?あんな場所でも動植物はいるし、暮らそうと思えば暮らせる。

 何が言いたいかって?

 絶滅領域と言えば、北の国境を意味していたが、今では東南の国境にもあるのさ。

 肥沃で温暖な土地を奪い合っていたはずが、立ち入り禁止の場所ができあがっていた。

 停戦が本格的になったのはその頃だよ。

 敵も味方も殺し合うどころじゃなくなったから。




 生者と死者の区別が無くなったら、殺し合う意味もないだろ?



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