ACT279 傍らの闇
ACT279
街に居たモノ。
残された骸。
炎に炙られ、姿を現す怪異。
だがそれも、夜明けを待つだけ。
この重苦しい夜は、もうすぐ明ける。
夜明けこそが、救い、否、停戦の合図だ。
まぁそもそも、何も解決はしていないが。
罠から逃れたところで、その罠に潜んでいた蜘蛛は、まだ、目にもしていないのだ。
群青色の空は、黒い雲を流し、微かな光りを混じらせていたが、いつの間にやら、再び闇が降りる。
目を覆うように暗い幕が下がる。
それは街を眺める自分たちにも少しづつ降りかかり、いつのまにか辺りを包む。
闇は静けさを運んできた。
それは身を守ろうとするかのように息を潜め、体を包む。
音が消える。
すると、暗い色に塗りつぶされた視界に、白い影が浮かぶ。
炎が消えた街から、こちらに出てきた人の影だ。
街の者はいない。
出てきたのは、あらかじめこちら側に来る手はずの兵士だ。
一人二人と煤けた姿で出てくるのだが、何故か不思議に感じた。
既視感とも違う何か。
これは何だ?
と、街を見る。
すると、揺らぎが見えた。
音もなく視界が揺れる。
二度、三度と視界が揺れ、続いてやっと足下が揺れた。
それから外壁がゆっくりと崩れた。
降りた闇の中、白い煙をあげて。
音がしない。
ただ、崩れていく。
何だこれは?
音と風が吹き付けたのは、壁が内と外へ無秩序に崩れて山となってからだ。
その後に、ゴンゴンと何か大きな堅い物がぶつかり合う音が下から続く。
地下の空洞が潰れた訳ではなさそうだ。
外壁が崩れて見えるようになった街の中は、未だに建物が空に向けて突き出している。
炎は完全に消えていた。
消えるには早い。
だが、消えた。
外に出た者、中にまだ残る者。
何かが揺らぎ、そして変化しつつあった。
イアドの露出ではない。
イアドは地面という境界を守っている。
それはわかった。
この揺らぎは違う。
兎も角も、外に出ようと仲間が瓦礫を押しのけて走る。
その内、数人は住人の残骸を持っていた。
「蟲が、出るぞ」
ミダスが槍を手に立ち上がる。
少しの水と休息で、何とか力を出しているのだろう、怠そうだ。
「蟲は潰さねば」
ミダスの言葉を受けたように、街の中の建物がゆっくりと崩れた。
薄闇の中、黒い建物が傾ぎ倒れていく。
すると、こうして街の外にいるというのに大気が揺らぐ。
「やはり、こちらもか」
「どういう意味だ?」
ミダスは、薄暗い街を見上げる。
「子供を頼む」
戯言、と感じた。
安い覚悟にも思えた。
それでいて、必死だとも。
「サーレル」
「打ち合わせ通りに動いています。どうします?」
「出したか?」
「そちらは大丈夫ですよ、むしろこちらが危ない」
「わかっているな?」
それには苦笑が返る。
「わかっていますが、わかってないのは、カーン、寧ろ貴方のほうでは?」
「街から距離をとる。ゆっくりと下がるぞ」
「では、我が足止めをする」
「後退だ。子供はお前が守るのだ。今更、役割を放棄するな」
街の建物が崩れていく。
だが、見えない。
何がいる?
「何も見えないぞ」
ジェレマイアも目を凝らしているが、同じく定かでは無いようだ。
建物の黒い影が崩れていく。
「ミダス」
「蟲に定まった姿は無い。
多くが腔腸動物に似ている。
口には多数の触手があり、体は細長い。
地上の物と融合すると、変化する。」
「..腔腸動物って何だ?」
ジェレマイアの問いに、ミダスは唸った。
(まぁ、見ればわかるよね)
言葉を発しない子供たちが、初めて息をひきつらせた。
瓦礫の向こうに、ちょっとした黄緑色の山が見える。
それは淡水の生き物とは似ているようで似ていない。
やはり蟲に見えた。
昆虫のような多肢に尖った口元。
蟹の目玉のような物が頭頂に生えている。
甲殻と腹部は多節に分かれており、歩脚、遊泳脚と見る限り節足動物にも見えた。
ミダスの言う腔腸動物の部分と言えば、尻の触手の事だろう。
「アレの攻撃方法は何だ」
森の木立に下がりながら、街を練り歩く蟲の姿を眺める。
「蟲だけなら、単純な捕食行動だけだ。個体差があり、それぞれに攻撃方法は違うが。大型の害虫だと思えばいい」
忙しなくミダスが辺りを見回す。
「だが蟲には、寄生者がいる」
「説明しろ」
「蟲を使う者だ」
「人か?」
「成り代わりだ」
「成り代わりねぇ」
「成り代わり、寄生者だ。
この世界の生き物に寄生して変態する。
だから、厄介だ。
知能の高い成り代わりだと、我々と区別がつかない。
中身は冷酷非道、邪悪の化身だ」
(芝居がかっているね。邪悪ってそもそもなんだろうね)
「なぜ、この世界に来る?」
その問いに、ミダスは息を止めた。
それから、ゆっくりと街を蝕む異形を見つめた。
「..憶測だけよ」
(まぁ、理由を知って解決できるなら、とうに穴は塞がっているよね)
「アレは食い物があれば落ち着くのか?」
「存在自体が地上にあっては、ならない」
「危険な害獣だからか?」
「人喰いだけなら、対処もできる。
だが、アレが長く居座ると領域が汚濁する。
成り代わりが望んでいるのは、滅びだ」
滅びとは何だ?
(領域の破綻は、目に見える現象としては説明するのは難しいね。
その領域の住人からすれば、認識できない部分だ。
まぁあえて言うなら、全部が砂になるのさ。
この景色全てが砂になる。
もちろん、これは分かりやすく当てはめただけだよ。
何もなくなるのさ。
代わりに何かができるけど、君には認識できないし、君はそもそも生きられない。
あぁ、困ったなぁ。
グリモアは十六次元層までなら耐久効果があるんだけど。
実は、多層次元での意識集合体の保持ができないんだよね。
そうなると僕も消滅だね。
何しろ、君達の存在ありきの調律..)
お前が滅ぶほどの化け物なのか?
(違うよ。
淡水と海水を混ぜても生きていられるかどうかさ。
実際は、淡水の魚の方が悪食な場合もある。
つまり、環境が変化してしまうから困るのさ。
で、彼に聞くといい。
ニナンはどうなったかね)
「..ニナンにも出たのか?」
「武装蜂起を装っていた。
内部の争いは確かにあった。
それを利用されたのか、もとより異物が混じっていたのか。
死滅ならば一時的放棄もできたが。
それもできない。
ニナンの住人は、まだ確かに、残っている。」
(今までは無事だった。
どうしてだろうね?
だが、今回は何かが違った。
街の住人が負けてしまう何かがあった。
汚染と自失。
さて、どういう意味だろうか?
人間が変化して。
共食いして。
街も村もなくなった。
女や子供が消えて、連れ去られ。
領主は発狂し、住んでた場所はもぬけの殻。
汚物まみれの廃墟だ。
さて、何だか、そっくりな事が最近あったよね。
訪れる場所には、干からびた死体と泥しかない空っぽのお城とか。
それをもたらしたのは、何だったのか?
奇妙な花が咲いていただけだ。
そして都の地下では、巣を作っていた。
何をしていたんだろうね。
害虫は、どんなところにも巣を作る
さて、主よ。
どうするかな?)
「アレは街に居座るか?」
「当然、居座るだろう。
そして下から出てくるモノを増やす。
居座り巣を作れば、この辺りが改変を起こす。
道をつくってしまうだろう。」
「エルベはどうする」
「どうもしない。イアドの拡張は地面の下までだ。
そうしなければ、人が暮らせなくなる」
「下からエルベの化け物を呼ぶことはできないのか」
「そもそも、下からあがってくるのは網からこぼれた小物だけのはずだ。大物はイアド以外から突如としてできた偶然の穴か、夏至の晩の綻びだけ。
多くは対処できるのだ。
下から這いだしてくる事なぞ、本来は無理な話だ。
まして置かれている異形は、イアドの中の存在であり、外では存在しない」
(正しい理だからね。
楽しいお庭のお花は、外では生えないのさ。
だから、この大物を逃すまいと、イアドを組み替えていたのかも知れないね。
もしくは、イアドに異物が入り込んで、それを排斥しようとしていた。
ところが、何か今回は違っていた。
うん、急げと言う理由は、エルベ自身の危機かもしれないね)
うんざりするようなグリモアの推論に重ねて、蟲が何かを吐き出した。
吐き出したのが毒なのか鳴き声なのか、この世界には未だに反映されずに、揺らぎだけが届く。
嘘やごまかしを叩き出そうとしたはずが、出てきたのは異形の蟲。
恐れ入る前に、笑いがでそうだ。
ここに人間が入り込む余地があったのか?
人間同士を争わせて。
「光りだしたぞ」
瓦礫の隙間から見えるのは、薄黄緑色の軟体だ。
それが朧に明滅する。
堅い外皮に見えていたが、それが波打ち中身を動かしている。
半透明の寒天のようだ。
外皮から粘液のようなモノが滴る。
相変わらず音はしないが、それが滴り落ちると、当たった何かが崩れた。
そして..
「ありゃぁ何だ?」
落ちたモノが、雫のように地面でもりあがる。
やがてそれは半透明の中身を蠢かせると、形を作った。
薄い粘液の膜の中で、芋虫になり、蛹のようになり、無数の蚯蚓のようになり、そして剥き身の鼠の子のようになった。
それは見る間に四つに足になり、次に虫の胴や足を生やしては消し。
虫の頭、蜻蛉のような頭をした人になった。
「アレが寄生者か?」
「違う、見たことが無い」
ミダスの言葉に、オーレが頷く。
「我々が対するのは、人喰いと蟲。人喰いを人から遠ざけ始末する。蟲も犬程の物が群となって押し寄せるが、対処できない事も無い。
始末に負えないのは、成り代わりが手引きする群だ。
こんな、モノは知ら..アレは」
オーレが目を見開く。
瓦礫に手をかけた蟲人の頭部が歪む。
すると、人間の男の顔に変わった。
「モレッツアだ、ミダス。奴の顔だっ」
口泡を飛ばして彼女は怒鳴った。
恐慌に陥っているのか、彼女は子供らの手を握ると森の奥へと後ずさった。
「落ち着け、オーレ。
どうやら、あの個体は特殊だ。
成り代わりと同じく模倣をするようだ」
「あの顔は知り合いか?」
「喰われた仲間だ。
それもここではない。
どういうことだ..」
瓦礫から這いだしたソレは、ヨロヨロと歩き出した。
肉体も変化を始めているのか、それまで性別も定かではなかった体が、壮年の男のものへと形を変えていく。
だが、形が定まる前に、その眉間に矢が突きたつ。
モルダレオが火矢を射たのだ。
ボウッと青白い炎があがる。
するとソレは人間らしい部分を溶かし、一息に地面に崩れた。
汚らしい液の跡は、黒い煮凝りのような汚物だ。
「火も矢も通用するのだな」
それにミダスは表情を歪めたまま答えた。
「模倣が成り代わりと同じ性能だと、本物と寸分違わぬ力を持つ。変態の途中だから、崩れただけかもしれぬ。
アレから分かれたモノも掃討する必要がある。」
「足場も弱そうです。
街ごと潰すのが容易では?」
モルダレオの言葉に、ミダスが頭を振った。
「イアドの入り口は保持しなければならない。
街を潰す事で済むなら、疾うの昔に塞いでいた。」
「なら、何故塞がない」
「穴は何処にでも開くのだ」
なるほど。
つまり、固定の穴を二つ、シリスとニナンに作り、エルベが庭を置いたから安定したのだ。
今更、それを塞げば、このオルタスの何処かに穴が開く。
それもどこに開くかもわからない。
(まぁ、それだけが塞がない理由じゃないだろうけどね~。
さて、早く、あの蟲をどうにかしないと。
それに僕にも、ご馳走してくれるんでしょ、はやくはやく)
はやし立てる悪霊と自分の視界には、同じ景色がうつっている。
人擬きが、次々と喰われた者の姿を似せて蘇る。
そうして悪霊が喜ぶと、重なるように不愉快になった。
(ねぇ、腐土領域の死人もさ。
死者の宮に逝けたのかな?
どう思う?)
「俺とミダス、それにモルダレオは中だ。
それ以外はサーレルの誘導に従え。行くぞ」
「カーン」
振り返るとジェレマイアが何かを投げて寄越した。
「お守りだ」
暗い森の中に、青白いジェレマイアの顔と子供らの顔が浮かぶ。
まるで亡霊ように見えた。
「カーン、忘れないでくれ」
ソレを胸元にねじ込む。
ソレは、優しく音をたて、慰める代わりに、怒りをかきたてた。
忘れるものか。
こんな事がまかり通ってよいものか。
腹立たしいなぁ、おい。
「こんな所まで来て、害虫だとよ。
面倒くせぇなぁ、モルダレオ。
邪魔くせぇよなぁ、おい」
「はい、確かに。不愉快ですね」
得物抜いて、肩をゆっくりと回す。
「ミダス、蟲は燃やすのか、潰すのか?」
「近寄ると正気が失せるぞ」
「楽しいじゃねぇかよ、で?」
「蟲は喰った物を粉砕してまき散らす。
毒の霧ではないが、それが大気を淀ませる。
血肉をまき散らすのだ。
だから、接近して戦うのは愚策だ。
できれば遠方より、大砲などで潰すのが良い。
もしくは飛ぶ物でなければ、穴に落として潰す。
火が通る個体は少ない。
そうして対処している間に、先導する寄生者を殺すのだ」
「どうやって見つける?」
「外見では区別はできない」
「いつもはどうしてる?」
それにミダスは口を閉じた。
(明らかに、その場所にいてはいけない者や怪しいと思う者を殺したんだろうね。
つまり、不審と覚しき者は皆殺しって訳だ。
彼らが死者というのも、納得だね。
そうしなければ因果が重すぎて狂ってしまう。)
「神の使いも騙されたのだな?見抜く前に殺された。つまり生中者では、わからない」
ミダスは頷いた。
「獣人には化けるにも難しかろう。俺たち以外で動いている奴は、殺せ。あぁ俺達の連れの人族は殺すなよ」
それにもミダスは頷いた。
ひとつ疑問がある。
シリスとニナンは、蝕まれた。
そして近隣の村々を襲った物は、人喰い?という物であり、成り代わりが扇動している。と、ミダスは言う。
では、それは何処から這いだして来たのだ?
シリスとニナンはイアドの穴蔵が破られた。
だが、異変は領地の全てで起きている。
つまり、今までと違う方法がとられたのだ。
あの出口の村には、蟲とやらが湧いた痕だとする。
魚どもは、領域を喰らわれた痕だとする。
人を変えたのが成り代わりだと。
(そう苛つく必要はないよ。すべて、不確実な話ではあるけれどね。
でも、君が、そう考えたのなら、それが答えであり、道になる。
正解ではなくても、道ができる。
それが君の力だ。)
仮定ばかりだが、本来は、その成り代わりとや等は、浚われた子供の器に寄生した物という事で、そいつ等は、やっぱり地面の下から湧く訳である。
イアドからだ。
巡回の兵士や、影竜騎士達による穴埋めと殺戮で、滅多に取りこぼしは無い。
(うんうん、考えるのは良いことだね。
で、主は、わかっている答えに道をつけようとしているけれど。
答えは言わないのかい?)
嘘も、俺が言えば真実になるだけの力がある。
グリモアの主の言葉は、軽々しく使えない。
ってのが、お約束らしいからな。
(よくわかっているね、主。
では、僕が代わりに語ろう。
グリモアは従える者がいれば、ちゃんと答えるのさ。
どうして、こうなったのか?
例えばの、話ばかりだけれど。
誰かが、寄生虫の卵、子供を連れだしたんだよね。
何処に?
そりゃぁ、昔々の事さ。
彼は、その卵を持ち出す代わりに、力を得たのさ。
では、誰が彼に、卵を渡したのか?
もちろん、正しい道を知る守護者ではない。
彼らは、そんな愚挙に荷担する理由がないからね。
つまり、確かに裏切り者はいたのさ。
それも、悪意無き裏切り者だ。
そして、卵は羽化した。
遠い地にて、魔女、は、生まれたのさ。
さて、魔女とは誰か?
これが答えであり、君は、君達は朧気ながら悟っている。
それはいつも事の渦中にありながら、一歩影の中にいた。
君達は目にし耳にするが、それは主役の背景で通り過ぎる景色だ。
だから、幾度も幾度も目にし耳にしても、その存在が原因だという理由が無い。
だから、イヤな気配は感じても、それが答えだとは認められない。
人は、それを勘というが、事実を重ねなければ妄言だ。
故に、君も君の部下も存在をあげなかった。
そして偶然をつなげる危険を避けた。
けれど、その影に名前がついた。
彼女の名前が、存在が、一応の形を得た。
シェルバンの魔女だ。
君達が、ぼんやりと感じ取っていた存在はいたのさ。
彼女の痕跡は、あらゆる場所にあった。
けれど、全ての出来事の原因とするには、そこに至る道程がみつからない。
疑惑だけだった。
君が最初に魔女の存在を感じたのは、何処かな?)
タンタルだ。
(そうだね。
君は、砦の側にあった奇妙な物を見て、捕虜に問いただした。
これは何だと?
彼らは、墓だと答えた。
小さな墓のような何かだ。
たくさんの小さな盛り土に木の板が刺さっていた。
そして囲むように大きな杭が刺さり、その杭には布が巻き付けられていた。
掘り起こすと、小さな壷に何かが入っていたね。
享年と名前の書かれた板。
中身は、遺体の一部と得体の知れない液体だ。
杭に巻かれた布には、古い奇妙な文字が描かれていて。
捕虜は言ったね。
神への捧げ物だと。
女子供を切り刻んで、少しづつ埋める。
指一本とか、手首とか、少しづつ切り刻んで埋めるんだ。
死ぬまで時間がかかるね。
苦しめながら、腐らせながら、殺すんだ。
獣人だったから死にきれずに、さぞや苦しんだろうって、君達は考えた。
ところがだ、板切れの名前を調べると、どこから調達してきたのか、皆、人族だった。
話が変わってくるだろう?
何故、こんな事をするのだと問いただすと、捕虜は言ったね。
彼女が、そうすべきだと、皆に言ったからだと。)
あの内乱の狂気の一つとして、意味のない行為だと、その時は思った。
ロッドベインの反乱が起きた時に、常に一緒にいた長衣の女。
彼の妻と混同していた。
(だが、彼女の痕跡は、再び時を越えて君達の前に現れた。
君達は、再び同じ物を見つけてしまった。
もちろん、同じ存在なのか彼なのか彼女なのかは不明だった。
けれど君は、君達は、唐突に時を巻き戻されたかのように、あの時感じたんだろう。
なぜ、ここに同じ物があるのだ?ってね。
ニコル姫の墓に向かう道のりに、突如として現れた、小さな塚、墓のような何かを見て、君達は同じ存在のニオイを感じた。
でも、意味がつながらない。
だって、すべては過去だ。)
アッシュガルトでの布教にも、女の存在が見え隠れしていた。
今となっては、こじつけにも思えるが。
長衣の女、巫女と自称する女がいたのだ。
ニルダヌスとレンティーヌが、容疑者だった。
(地下で儀式をしていた女に接近した神官は、死んだ。
そうだね。
ニコル姫が先に殺された事にも意味はあったのかもしれない。
先に、女が殺される。)
だが、彼らではなかった。
(存在の相似が誤認を呼ぶ。
そして誰も彼もが関係者だ。
全てが別種ではないが、これこそが解決の糸口ともいえる。
君が主となり、少なからずエイジャ・バルディスの思考を読みとれれば、疑問は解消するだろう。
イアドしかり、この目の前の化け物も、そして..)
東マレイラを腐らせる意味とは何だ?
(答えたいけれど、まぁお喋りもここまでだね。
ひとまず、ご褒美を頂戴よ。
ほら、美味しそうな
魂のニオイがするよ。
あんなに業をため込んで、何て醜くて美味しそうなんだろねぇ)
化け物の違いなんて、わかるかよ。