Act29 始まり
ACT29
彼らは、戦争で死んだ。
村には、そう連絡が来ていた。
二人の女性と三人の男。
いずれも、村から戦争へ駆り出された者達だ。
当時十四・五だったろうか。
顔立ちは変わっていない。
いずれも、石碑に括り付けられていた。
両手と両足は鉄の輪で固定されている。
生きているのか死んでいるのか、それぞれ目を閉じうつむいている。
私は、理解できずに立ち尽くした。
国からは、彼らは戦死したと報告されていた。それももう、十年以上前の話だ。
こんな場所で会うとは思えない。
本物なのだろうか。私の幻覚なのだと思う方が納得できた。
どれほど、私は立ち尽くしていたのだろうか。
左端の男が顔を上げた。
彼は虚ろな目で辺りを見回した。
そして、私を認めたのか驚いたように目を見開いた。
「あぁ、なんて事だ」
粉屋の次男だ。
記憶の中の快活な表情は無かった。
「覚えているよ、どうして、こんな場所にいるんだ。早く帰るんだよ、奴らが来る前に、早く」
幻覚なのか、それとも、生きていたのか。
私は恐る恐る近寄ると、拘束具に手を伸ばした。
「無駄だよ。これには魅了の言葉がかかっている」
「魅了の言葉?」
鉄の輪には継ぎ目も鍵穴も見あたらない。
「それよりも、どうして生け贄の間にいるんだい。村は無事なのか」
「生け贄って」
混乱する私に、彼は深呼吸をした。
「まだ、時間はある。奴らが来るまで、話をしよう。出口を教えるから」
拘束具を破壊しようと、手近な硬い物を探す私に、諦めたような声が告げた。
「いいんだよ。俺達はもう、死んでいるんだから」