ACT250 準備はいいか?
ACT250
「鬱陶しい男だね!」
背後から衝撃を受ける。
振り返ると、獣人の女が拳を振り抜いていた。
痛みと衝撃に体が固まる。
背後をとられた事と、殴られるまで気がつかなかった事。
更に女に殴られて息が詰まるという事に、頭が追いつかない。
そんなシュナイに、再び女は拳を振り上げ..
「ぐっ!」
避けた筈なのに、彼は片膝をついていた。
殴られると思ったのは騙しで、蹴りが深々と腹を抉る。
「あぁ、すっきりした。
辛気くさい奴は、目障りなんだよ。
他の奴らの士気が下がる。
どうしてもウダウダしたいんなら、神様の所にいきな!
あぁ、文句あるのかい?
文句があるなら言ってみな、ただし、泣き言だったら容赦しないよ!」
実に横暴な女である。
「いきなり殴る蹴るか」
「あぁ?笑えるねぇ。
簡単に殴られるような奴が悪いんだよ。
よぉ~く、覚えておくんだね。
さも世の中全部の不幸を背負ったような顔しやがって、胸くそ悪いんだよ!
不幸自慢がしたいなら、ここに来るなや、お坊ちゃん。
ここに弱腰の足手纏いはいらないんだよ。
それでも一緒に来るっていうなら、憂さ晴らしに付き合うのが当然だ。違うか、あぁ?
特にアンタは長命種だ。
よくよく覚えておきな、同道するつもりなら覚悟するんだね。」
女はニヤリと笑った。
シュナイは、改めて己の周りを見回す。
探索隊とはいえ、それは偽装だ。
ここはバルドルバ卿の群の中。
兵士は全て獣人だった。
もちろん、この女のように直接暴力をしかけては来ない。
だが確かに現状、長命種に良い感情を持つ方がおかしい。
「わかった」
そうシュナイが言うと、女は、ミ・アーハ・バザムは背を向けた。
と、思った所でシュナイは気絶した。
目覚めると、獣人の男がのぞき込んでいる。
「気分は、吐き気は無いか?」
「あぁ」
曖昧な答えに、相手は気の毒そうな表情を浮かべた。
「回し蹴りが決まって、アンタ、沈んだんだよ。
アレは、俺でも沈む。」
どうやら、蹴り倒されたようだ。
シュナイは体を起こして胡座をかいた。
「何でだ、イヤ、まぁ、アレか」
意味不明の呟きに、それでも男はシュナイの後頭部を確かめながら返事をした。
「違うと思うよ。多分、憂さ晴らしをしたくなっただけだ。アンタの種族とかは関係ない。
肉食系の女にとって、男は玩具なだけだ」
「何だそれは」
「深遠なる真実って奴よ~」
「嫌な真実だな」
「それよりアンタ、女の兵士と戦った事がなさそうだな。」
「どうしてそう思う?」
「実力が同程度の獣人の男なら、蹴りなんぞ避けていた筈だ」
それにシュナイは顔をしかめた。
「そうなると、アンタ、ヤバいよ」
「何がだ?」
それにユベルノートがヘラッと表情を崩した。
「当分、ミアに狙われる」
目を見開くシュナイに、ユベルはケラケラと笑い声をあげた。
その言葉に嘘偽りはなかった。
探索隊の準備を手伝いに顔を出すと、何処からともなくミアが襲撃をしてくるのだ。
実に多彩な攻撃で、体術が基本だが時折刃物も飛んでくる。
そして連戦連敗、シュナイは地面に沈む事になる。
もちろん、シュナイも馬鹿ではない。
移動組と呼ばれる彼らの中でも、士官であるミアが何を考えているのか理解している。
シュナイも人を使う立場だ。
これが憂さ晴らしではなく、配慮である事など簡単に推測できる。
できるが、感情は別だ。
如何に配慮であっても、女に地面に叩き伏せられる事を繰り返されると、余計に気持ちが暗くなった。
「本当、アンタ、鬱陶しい男だね」
今日も、夜間に訪れては準備を手伝い、ミアに地面に沈められるを繰り返していた。
相変わらず相手が女だと思うと隙ができるようで、自分でも情けなかった。
呆れたような声を聞きながら、確かに。と、思う。
実に己は暗い。
そして、どうしようもなく馬鹿で使えない男だと。
「しょうがないねぇ、モルド、ユベル、他の奴も来な」
いよいよ、私刑か?
と、地面に沈んでいるシュナイを獣人兵士が囲む。
「この鬱陶しい兄ちゃんを、どうにかしな。ツケはザムでいいや」
「何で俺!」
「わかった、ザムとトリッシュ、補佐官におねだりしてこい」
「それ虐めだと思う!」
「理由を言えば出すだろ、早くいきな。さもないと、お前等二人のツケな」
「横暴!」
「せっかく、アタシの友達呼ぼうと思ったのになぁ」
「了解!超ぱやで行ってくるぜぃ」
「トリッシュ、お前..」
奇声をあげて走り出した男を見送り、ザムが嫌そうに後を追う。
シュナイはユベルに手を借りて立ち上がりながら、首を傾げた。
私刑にしては、何故か男達は優しい。
それとも、この後、ボコボコにされるのか?
「多分、兄ちゃんは、すごい勘違いをしていると思うぜ」
相変わらずヘラッと表情を崩してユベルが笑った。
嫌な記憶ばかりが蘇る。
勘気に触れた父親の処刑。
連座で苦しい生活に落ちる家族。
同情されての騎士見習いの日々。
だが、一番心に刺さっているのは、そんな事ではない。
自分でもわかっている。
幼稚な感情だ。
とても、情けない。
(主が姿を消した。
普通にお役目により不在なのではない。
奥方様が心を痛めている。
戻らぬだろうとな、シュナイ)
思い出すのは、宿舎の厩での会話。
最後の会話だ。
(探しに行きたいところだが、奥方様のお命が一番だ。
これからは色々あろう。
お前をグリューフィウスとして届け出てある。
後はよろしく頼むぞ。)
普通ならば、親子の情による愁嘆場だろう。
だが、現実は違った。
父は、実に、楽しそうだった。
生き生きと、家族と平穏な暮らしを捨て去った。
実に、実に。
「実に、薄情な男だった。
子にも妻にも情など無い。
一番は仕える主人、二番はその主人の家族。
実に薄情だが、騎士の本分としては、本道。
故に、怒りの矛先が鈍る。」
次に心に刺さる景色は、処刑の場面だ。
騎士団の仲間は、己を庇い隠した。
処刑を対面で執り行おうとした王より隠してくれた。
だが、シュナイは、隠れていたが見ていた。
膝をつき後ろ手に縛られた父親の姿。
実に堂々と不敵に笑う姿。
落ちた首でさえ、笑顔。
まさに、鬼気迫るあの姿。
家族は、そんな男の人質にはならなかった。
なぜなら、男は、家族を殺すと脅されても頓着しなかったのだ。
そして家族は、使徒の家系である事が考慮され、処刑をやっと免れたのだ。
「助命嘆願を行ったのは他人だ。
実の親は、母も含めて、子の行く末も、祖母の老後も考えない。
正しい事をしていると。
これもまた騎士の本道、騎士の家族の良き姿と、無理矢理納得させられた。」
悲しみと悔しさと、生き残らねばという思い。
毎日が恐ろしく、苦しかった。
母は乱調子になり、行動と言動がおかしくなった。
それでも生きていかねばならない。
助けてくれた人達へ報いねばならない。
家族を守ろうと、それまでの暮らしを守ろうとした。
「やがて、リアンが生まれた」
子が産まれるまでは、地獄だった。
誰の子供かと、祖母とシュナイは案じた。
狂った母親が、誰と子供を作ったのか。
不幸に不幸が重なるのではと恐れた。
「恐れた。
心底恐れた。
だが、産まれてみれば、リアンは救いだった。
弱い赤子は、祖母にも自分にも、唯一の光りだった。
そして半信半疑ながら、父の子だという神官の言葉にすがった。
信じられずとも、それでよかった。
守る者があれば、祖母も自分も生きていけるような気がした。」
そして公王は代替わりし、グリューフィウスの不遇は終わった。
生活は安定し、家族はやっと家庭らしさを取り戻す。
だが同時に、この頃から、時々、ぼんやりとするようになった。
酷く投げやりな気分に襲われる。
真夜中に鏡を見ると、そこにはそっくりな顔が見えるのだ。
「情に薄く、身勝手、世間は許そうが、私は許せない。
現実味のない話を繰り返す、母も同じだ。
否、母と呼ぶのも厭わしい。
毎夜、窓辺で待つのは死んだ父で、そこにはリアンも私もいないのだ。
繰り返し繰り返し、この世を滅ぼそうとする邪悪を語り、死んだ夫の素晴らしさを話し続ける。
だから何だ?
私もリアンも、彼らの人生の付録ではない。
苦心し、少しでも幸せになろうとする私達から、何度奪えば気が済むのだ。
金を稼ぎ、日々生きるための糧を探し、少しでもリアンが、妹が苦痛を感じないようにしようとすればするほど、あの女は。」
(何れ、私がいなくなったら、今度はお前がつくるのよ)
「リアンは、お前じゃない。
妹は、妹の人生があるんだ。
お前が、あの男の女でいるのはいいんだ。
俺たち子供を捨て去ったお前たち夫婦がどう生きようと関係ない。
勝手に生きて死ねばいい。
そうじゃないか?
お前たちが何をしてくれた?
何もしていない。
何もだ。」
そう恨み言を言い続け、親を見捨てられたなら、このような苦痛を心が感じずにすんだろう。
「だが、事実は、違った。
俺は、くだらない人間だ」
不意に襟首を誰かが掴んだ。
朦朧とした視界に、実に勝ち気な女の顔がある。
母親とは似てもにつかない、実に、不遜な女の顔だ。
「..こいつ、殴っていいよね」
「頼む、ミア、酔っぱらいだから」
「酔ってなくても、コイツ、じめじめじめじめ」
「顔は良いのにねぇ~人族の女は、こーいう湿っぽい男が好きなんじゃないのぉ」
「えぇ~私は嫌だなぁ。こんな男養うのヤダ」
何故か、獣人の女達に囲まれていた。
ダバダバと杯に酒が注がれる。
「何だかねぇ、こいつ人族大公家の女に付きまとわれてるらしいよぉ」
「うわぁ、気持ち悪い」
「姫の館に一緒に行ったら、何だか難癖付けられたよ。
ウザいから、そいつ等の従者共々ぶちかましてやったけどさぁ」
「ミア、それ初耳。ヤバいから、ともかく、暴れんのやめて、報告して。俺、補佐官に殺される」
「モルド煩い」
「モルド、爺くさい」
「モルド、酒お代わり」
「モルド、つまみ」
「..酷い。俺、何かした?」
獣人用の酒は、長命種の腰を抜かす作用があるようだ。
シュナイは左右に揺れながら首を捻った。
「私は、何を?」
「否、お前、その湿っぽい面の原因を聞いたら、まぁ、ガキの頃からの長い話が始まったんだよ。どんだけ、根が暗いんだよ。
つーか、反抗期長すぎ。
で、結論は何だよ。
嫌ってた原因がなくなって衝撃?
今までグレてたのに、原因なくなっちゃって困る?」
女達の視線に、シュナイは頷いた。
酔っぱらっているので素直だ。
「父親の行動は、妥当だった。
親としてはどうかと思うが、邪悪な者はいたのだ。
そして、母は、母の最後は」
部屋一面が肉片で赤黒く染まり、砕けた骨が壁に食い込んでいた。
あの無惨な死に様が証拠だ。
「よく聞きな、お坊ちゃん」
酒杯を手に揺れている男に、ミアは大声で怒鳴った。
「アンタに足りないもんを教えてやる」
「..」
酒杯が三つに見えているので、なかなか、口まで運べない。
「じめじめした男だけれど、アンタは、妹と婆ちゃんをちゃんと養ってきたんじゃないか。
多分、アンタは、良い息子過ぎたんだ。
なぁ、グリューフィウスの坊ちゃんよ。
アンタは、もっと怒りをもたなきゃぁダメだ。
まさか、憎んだり怒ったりするのは間違いだとでも、思ってるのかい?
嫌だよ、このじめじめ男。
聖人じゃぁないんだ、馬鹿じゃないの?」
「怒る..何に」
ダバダバと膝に酒が落ちる。
酩酊している頭に、ミアの怒鳴り声だけが響く。
「あぁお前に怒りはねぇのか?
お前の親は誰に殺された!
お前の妹や家族から幸せを取り上げたのは誰だ!
こうしてアタシに怒鳴られてるのは何故だ!
ちゃんと怒るんだよ、坊ちゃん。
一人前の男なら、しっかり腹に力を入れろ、この馬鹿野郎が!」
がくがくと揺さぶられているうちに、シュナイの意識は不思議と澄んでいく。
「男なら、テメェの敵は殺すんだ!
あぁ、目ぇ覚ませ、ど阿呆がっ。
アタシはねぇ、自己憐憫に浸る男が一番虫唾が走るんだよ、わかったか!
敵はブッ潰すんだ、いいな、わかったかっ!」
間違っているとここまで全否定されると言葉もない。
納得と共に、耐えきれなくなり胃液がせり上がる。
「..吐く」
「わぁ、ミア、手を離せ!トリッシュ、桶、桶もってこい!
兄ちゃんが吐く!」
「うわぁ、ミアの説教酔いが出たぁ」
「ユベル、酒もっともってこいや」
「はいはぁーい」
目が覚めると、何故かターク公がのぞき込んでいた。
虫を見るような視線というのだろうか。
休憩室に放り込まれていたシュナイは、ぼんやりと瞬きをした。
「水を」
ターク公の奴隷が水を手渡してくる。
それを受け取り、ゆっくりと飲んだ。
「長命種を昏倒させる酒とは、獣人の酒はすごいですね」
「間違っても飲もうなんて考えないでください。中毒死しかねません」
「シュナイ殿は大丈夫だったようだよ」
「水で割った物でしょう。原液は死にます」
「..原液だったと思います」
「失礼、瞼を見せてください。」
ニルダヌスの顔が近づく。
瞼をひっくり返され、舌を見せるように言われる。
素直に従っていると、大きなため息をつかれた。
「金輪際飲まないように。
バルドルバ卿に申し送りしておきます。
たぶん、毒物中和剤が使われた筈です。
本当に、死にますから、ターク様もシュナイ殿も、飲まないでください。」
と、言いながら休憩室の棚をニルダヌスは漁りだした。
「これを一応飲んでください。
時間経過からすれば、彼らも考えて飲ませたようですが、念のため追加で中和剤を飲んでください。
稀釈してありますから、飲めるでしょう」
渡された液体は、柑橘類の味がした。
「中和剤とは何だね」
「毒物全般を中和する薬品です。
万能薬とまではいきませんが、多くの薬物に対して中和の効果があります。
獣人対応の薬ですが、中和剤だけは、どの種族にも適応があります。
薬の薬効を阻害するので、治療等を行っている場合は使えません。
副作用は、臭いですね」
「臭い?」
「全身から代謝される老廃物に臭いがつきます。強制的に体外排出する為に、尿量も増えますので、水分を多くとらねば脱水にもなりますか」
中和剤は旨かった。
その薬の所為なのか、酒の所為なのか。
昨日まであった心の重石が消えていた。
悲しみも息苦しさも、確かにあるのに、今は、とても気持ちが静かだ。
飲み干した杯に、今度は水差しから水が注がれる。
黙って飲んでいると、ターク公が言った。
「私としては、つまらないのですが」
顔を上げ、ターク公を見る。
そこには、やはり冷たく無機質な顔がある。
「少しは、選ぶ方向が見えてきたようですね」
虫かごの虫を見るような視線だ。
「あの晩、現れたのはゲオルグだと思いましたか?」
それにシュナイは、少しだけ笑ってしまった。
「死人は死人です。
あれが何者かなど、私にはどうでもいいのです」
それにターク公は、満足そうに頷いた。
「貴方は、親の過ちを認めるだけの大人になりました。
許せる事は大切です。
他者を許せる事、そして貴方自身をも許す事もです。
自分自身を許す事は楽な場合もあります。
ですが、貴方には楽ではなかった。
気持ちはわかりますよ。
自分が憎いという感情は、許す許さないではないのですから。
もったいない生き方をするのは、どこかで、貴方は罰を与えられる事を望んでいたからですかね。
ですが貴方は貴方という個人であり、親とは別の存在です。
親の人生の悲劇を、貴方が取り繕う事も正す必要もない。
貴方に非は無いのです。」
「私は情けない男です。どうしようもなく、怖いのです」
「怖い?」
「自分の事は、どうにか折り合いをつける事ができそうです。
ですが、私は怖い。
リアンの、これからを思うと、どうしてよいかわからなくなる。」
「彼女が、魔神に魅入られたからですか?」
「それもありますが、それよりも使徒の使命を引き継ごうとしている事が怖いのです」
「使徒の使命?」
「グリューフィウスではなく、ボルネフェルト公爵家に伝わる慣習です」
「私は東の者ですので、首都の家系の使命は知らぬのですよ」
「グリューフィウスは、父のように命を主に捧げようとするのが本道。しかし、ボルネフェルト公爵家は元々、使徒の儀式を担っていました。
母の人形作りもその一つだったのです。」
「女児の生誕祝いのですか?」
「女児を喰らう化け物を退けるというのが、本来の役目です。
人形は魔除けであり、女児の命を守る事が、人々から災厄を退けると考えていたのです。
私は古よりの慣習、祝い事に連なる季節行事みたいなものだと考えていました。ですが」
ターク公は、意味を察した。
「ボルネフェルトとグリューフィウスが潰されたのは、故意であったと?」
「父母の最後は、普通ではありませんでした。
特に、母の最後は、死体が四散するという恐ろしいもの。
リアンが、父母の最後の女児であるリアンが、どうなるのか怖いのです。
ボルネフェルト家は滅亡しました。
縁戚である母が一番、血が濃いことになります。
私はいいのです。
私は、戦う事を父から仕込まれました。
痛みにも強い、殺される最後もあるだろうと覚悟ができます。
ですが、妹は」
「今の話を誰かにしましたか?」
「いえ」
「祭司長殿に、すぐに言いなさい。
バルドルバ卿にもです。
もちろん、オリヴィア姫の側にいるのが良いでしょう。
私の方も、一つ策を施しましたから、あの館に姫といれば、手出しはできない。
腐った輩は近寄れないでしょう。
まして、殿下も見ておられる。
貴方は正直に話し、そして、できる事をするのですよ。」
「できる事、ですか」
「ゲオルグの息子、ではなく。
シュナイ・グリューフィウスという男ができる事です」
深夜、出発前に装備の点検をする。
隣同士で相手の装備を確認していると、癇癪持ちで暴力的な女がシュナイの前に立った。
「準備はいいかい、お坊ちゃん?」
ニヤリと牙を剥き出しにして笑う。
「準備整いました。」
答えると、強烈な打撃が肝臓に決まる。
よろけずに耐えるとミアは怒鳴った。
「さぁ、邪魔者をぶっ殺しにいくよ!
立ちふさがるモンはブッ壊せ!
化け物はブッ潰せ!
暴れてやるぜ野郎ども!」
「ミア、都を出るまでは自粛でお願いします。」
「さぁいくぜ!」
それに興奮気味の兵隊達が奇声をあげる。
「やはり、あの娘から何かでているんでしょうか。まったく」
ブツブツ言う補佐官に続いてシュナイは踏み出した。
「立ちふさがる物はブッ壊せ、か」
亡き父親に通じる暴力論理に、シュナイは苦笑がもれる。
そして、それが疲れ果てた心に、しっくりとおさまるのだった。




