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冬の狼  作者: CANDY
喪失の章
24/355

Act24 侵食

ACT24


 膝を落として腕を掻い潜る。無意識の動作で右手を尽きだして走り抜けた。

 投擲用の針は小枝程の太さで掌ぐらいの長さだ。

 首を通すほどは、突き込めなかった。

 しかし、意外なことに普通の人間のように致命傷になったのか、白目をむいて倒れた。

 全身を痙攣させてのたうっている。

 私の方は、嘔吐感を堪えるので精一杯だ。



 上だ



 再び、胸元からの囁きをカーンに怒鳴る。

 間一髪、男が地面に転がると、黒い刃が通り過ぎた。

 ちょうど組みしていた血塗れの姿に蝙蝠が群がる。

 化け物同士が絶叫を上げて食い合い始めた。

 残りの三匹は半円を描くように私たちを囲んだ。



「きたねぇなぁ、まったく。見る影もねぇ」



 よっ、と、かけ声をかけて、カーンが起きあがった。

 見たところ、怪我はないようだ。



「ちったぁ、言葉が通じるかと思ったが、無理そうだな。しょうがねぇ」



 ビチビチと肉に群がる蝙蝠の黒い山から、骨が見える。

 口で息をして、臭いを逃がす。



「まだ、飛ぶようなら教えろよ」



 再び手元で剣を回すと、カーンは三匹の方へ踏み込んだ。

 最初の動きとは比べられない俊敏な動きだった。

 踏み込んだ一歩から加速し、剣が水平に振られた。

 その一歩から剣の軌跡はゆっくりと見えた。空気に乗るようなふわりとした動きに見えて、実は目で追うよりも早かった。

 その証拠に、三つの頭部が空に舞うのと肉を断つ音は、腐肉と血飛沫が吹き上げてから耳に届いた。


 斬首の腕前は確かだ。


 斬った男は、飛び上がる蝙蝠を避けて何でもないように下がる。

 汚い汚いとしきりに言っている。

 蝙蝠は血に呼び寄せられるように、転がった肉に群がった。

 じりじりと私達は後退した。



「どうやら、上に穴がある。壁沿いに上がるか、川底を潜ってみるかだ。どっちがいいんだ」



 無論、私ではなく、ナリスに聞いているのだろう。



「出口を聞くのか?それとも、爺達の行き先を聞くのか」


「そりゃもちろん、地獄へ行くに決まってんだろ」


「地獄なんですか、御客人」


 一人で行ってください。


「だって、お前、アレが人間かよ。見て見ろよ、元はご立派な近衛だぞ。剥き身の海老みたいになっちまって、笑っちまうぜ」



 その言葉に赤黒い肉にその片鱗を探す。



「よく見てみろ、あいつ等の下履きに刺繍がある。色は変わっちまったが、獅子と錫杖だ。喋れるかと思ったんだがな、脳味噌はどうなってんだろうな。まぁ、喰われちまってわからんだろうがよ」


 饒舌な説明に、私は無言で返した。

 肉に辛うじて残る衣類迄は、見えていなかった。


「さぁ、上か下か、どっちなんだ」


 私は懐から智者の鏡を取り出した。



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