Act24 侵食
ACT24
膝を落として腕を掻い潜る。無意識の動作で右手を尽きだして走り抜けた。
投擲用の針は小枝程の太さで掌ぐらいの長さだ。
首を通すほどは、突き込めなかった。
しかし、意外なことに普通の人間のように致命傷になったのか、白目をむいて倒れた。
全身を痙攣させてのたうっている。
私の方は、嘔吐感を堪えるので精一杯だ。
上だ
再び、胸元からの囁きをカーンに怒鳴る。
間一髪、男が地面に転がると、黒い刃が通り過ぎた。
ちょうど組みしていた血塗れの姿に蝙蝠が群がる。
化け物同士が絶叫を上げて食い合い始めた。
残りの三匹は半円を描くように私たちを囲んだ。
「きたねぇなぁ、まったく。見る影もねぇ」
よっ、と、かけ声をかけて、カーンが起きあがった。
見たところ、怪我はないようだ。
「ちったぁ、言葉が通じるかと思ったが、無理そうだな。しょうがねぇ」
ビチビチと肉に群がる蝙蝠の黒い山から、骨が見える。
口で息をして、臭いを逃がす。
「まだ、飛ぶようなら教えろよ」
再び手元で剣を回すと、カーンは三匹の方へ踏み込んだ。
最初の動きとは比べられない俊敏な動きだった。
踏み込んだ一歩から加速し、剣が水平に振られた。
その一歩から剣の軌跡はゆっくりと見えた。空気に乗るようなふわりとした動きに見えて、実は目で追うよりも早かった。
その証拠に、三つの頭部が空に舞うのと肉を断つ音は、腐肉と血飛沫が吹き上げてから耳に届いた。
斬首の腕前は確かだ。
斬った男は、飛び上がる蝙蝠を避けて何でもないように下がる。
汚い汚いとしきりに言っている。
蝙蝠は血に呼び寄せられるように、転がった肉に群がった。
じりじりと私達は後退した。
「どうやら、上に穴がある。壁沿いに上がるか、川底を潜ってみるかだ。どっちがいいんだ」
無論、私ではなく、ナリスに聞いているのだろう。
「出口を聞くのか?それとも、爺達の行き先を聞くのか」
「そりゃもちろん、地獄へ行くに決まってんだろ」
「地獄なんですか、御客人」
一人で行ってください。
「だって、お前、アレが人間かよ。見て見ろよ、元はご立派な近衛だぞ。剥き身の海老みたいになっちまって、笑っちまうぜ」
その言葉に赤黒い肉にその片鱗を探す。
「よく見てみろ、あいつ等の下履きに刺繍がある。色は変わっちまったが、獅子と錫杖だ。喋れるかと思ったんだがな、脳味噌はどうなってんだろうな。まぁ、喰われちまってわからんだろうがよ」
饒舌な説明に、私は無言で返した。
肉に辛うじて残る衣類迄は、見えていなかった。
「さぁ、上か下か、どっちなんだ」
私は懐から智者の鏡を取り出した。