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冬の狼  作者: CANDY
喪失の章
23/355

Act23 血と肉

ACT23


 片手で私を引きずると、カーンは壁際の灯りの下にしゃがむ。

 あの白い靄は見えない。

 蝙蝠は天井を旋回している。

 胸の中に何か冷たい固まりがある。

 溺れて、水を飲んだような感じがする。


 気持ちが悪い。



 来るぞ



 つぶやきが胸元から聞こえた。

 吐き気を堪えて、周りを見回す。

 何が、何が来るんだ。

 耳障りな鳴き声が、天井からする。

 蝙蝠が鳴く。

 カーンが低い姿勢でいろと、身振りしてきた。

 それで気がついた。

 蝙蝠とは別の影が天井に湧いていた。

 人の大人ぐらいの大きさの黒い物がいる。

 一つ、二つと数えて、それが天井の崩れた岩壁の割れ目から、次々とわき出てくるのが見えた。

 腰の小刀を抜いた。

 どう、見ても良いものではない。

 四つに這う姿は爬虫類のようだ。

 だが、自然界にそんな大きさのモノはいない。

 精神に異常をきたしたのだろうか。



侵食された者共だ



 胸元からの囁きに、私は問うた。



「アレは何だ」



群、喰らうモノ



ボタボタと広間の中央に、それは落ちてきた。



見たままのモノ



 未だ、蝙蝠が頭上を旋回する中、それは地に落ちて一震えして立ち上がった。

 ぶるぶると震える、赤黒い肉だ。

 皮のない、剥き身の人間である。

 調理する前の動物の肉のように、筋肉と筋がむき出しになっている。

 血抜きはされていないようだ。

 吐き気を押さえながら、そのモノの足下を見る。

 赤黒い血溜まりができていた。

 まるで、今、皮を剥いたような具合だ。

 むき出しの肉をさらす、顔、眼球も瞼がない。

 皮膚と一緒に髪も無かった。

 青白い血管に白い脂肪も見える。

 白い歯を剥き出すと、低いうなり声が聞こえた。

 人のようだが、動きは獣のようだ。

 ボタボタと落ちた数は五つ。



「蝙蝠が来たら知らせろ」



 カーンは剣を両手で握ると、クルリと手首を回した。

 剣先を向けると中腰のまま、血塗れの姿に向かう。

 私は頭上を旋回する影の動きを追った。

 小刀を左に、右手に革帯から投擲用の針を抜いた。

 吐き気が止まらない。

 胸を塞ぐような冷気が体の中を巡っている。それに加えて、生臭い臭いが血塗れの姿から漂ってくるからだ。

 武器を持っている男と無腰のモノ。勝敗は見えている筈なのだが。

 剣は血塗れの姿を捉えられない。

 四つ足の獣のように素早く逃げる。

 そして歯と爪で掴みかかってくる。

 それを拳と盾で押し返すのだが、その度に肉と血が飛び散り、不快な状況になる。

 私は頭上の蝙蝠の位置を教えながら、常にカーンの後ろに回るように動いた。

 もちろん、逃げきれるものでもない。



後ろをとられるぞ、娘よ



 限りなく、他人事の言葉に私は恐怖より怒りを覚えた。

 何故、こんな厄介事につきあわされるのか。

 振り返ると目の前に、汚らしい腕が伸ばされていた。



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