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冬の狼  作者: CANDY
喪失の章
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Act21 人の理

ACT21


 この世には人と獣が生きている。

 大地があり太陽があり水があり、生き物は命を巡らせている。

 人は獣の一部であり、獣は大地の一部であり、大地は世界の一部である。



 この世は生きて巡る。

 そして、死して巡る。

 この世とあの世。

 過ぎ去った時と今がある。

 人の理には、乱れが生まれると必ず正す働きがある。



「そいつはよくある正しい教えとか言う奴か」



 今の人間の話ではない。

 人神と呼ばれる者が生き物の輪に現れた時。この世に新たな理が生まれた。

 善悪の話ではない。

 神は理を越えようとした。この時、人神が生まれ輪の流れに乗らぬ異物となった。

 人神は輪に入ることができない。

 輪に入らない。とは、常に喰らうだけで戻さない。



「盗人だな」



 そうだ。

 輪に入らない人を何という?



「輪?俺は神学はさっぱりだ。坊主、お前、厭な餓鬼だな」



 死なない人だ。



 私の答えに、初めてカーンが動きを止めた。

 それに頷くと、私は続けた。



 神は、人から見れば化け物だ。

 神が人の世を欲しがった。

 つまり、化け物はこの世を欲しがり、人間の女に自分の子供を生ませた。

 幾人もこの世の理から外れた化け物を。

 死なない人は、常に喰らった。

 それは文字通り食べたのか、利を求めたのかはわからない。

 だが、生きた人間の、普通の者には耐え難い苦痛と恐怖と汚辱にまみれていた。



「難しい言葉を知ってんな」


「村の語りのそのままですよ、御客人」



 そうしたこの世の理から外れた行いによって、この地は汚れ、いよいよ神の世界が近くなった。



「そりゃ、神っていうのとは違うんじゃねぇのか」



 いよいよ、この地が瘴気に覆われた時。



「救いがきたか、それともぶっ壊しに誰かきたのか?」



 この世には、異物を廃する理があるそうです。

 この世とあの世、そして神の世を交わらせぬように。

 理を表すのは三つの領域。

 しかし、この三つの調和をとるには、もう一つ必要になる。

 この地に現れたのは、まごう事なき虚無だった。



「そーいう落ちか」



 人神は虚無という理を得て、地に沈んだ。

 この地は神が沈んだ場所。

 忌み地であり、理を顕現した証拠。


「昔、ここに人がいたって話か」


「この場所には今でいう人ではない種族が暮らしていたそうです。中央大陸の人種や種族とは異なるようで」


「お前等の先祖じゃねぇのか」


「先祖を同じくした人の集落が昔は森の中にあったそうですが。それも死に絶えて、今の王国の入植者がここに集落を開いたそうです。忌み地の意味も、その森の集落から引き継いだそうですよ」


 私の話はこれで終わり。


「で、ここはその人神の住処?」


「昔話を真に受けないでくださいよ、御客人」


 私のぼやきに、男は肩を竦めた。



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