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冬の狼  作者: CANDY
喪失の章
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Act17 名を問う

ACT17


 武装した兵の重さは如何ほどか。

 カーンの動きに鎖帷子が鳴り、胸当てが軋む。

 重歩兵の装備よりは軽そうだ。

 ゆったりと歩く姿は、少し前屈みである。白い影が視認できると私は立ち止まった。

 甲冑だ。

 白い。

 全身を覆う甲冑はカーンと同じぐらいの背丈で通路を塞いでいる。

 異形と言えばいいのか。

 その白い兜は骸骨だ。

 中身は見えない。

 兜、骸骨の両脇からは水牛のように立派な角がつきだしている。

 体をよく見れば、全身が白い骨のような姿の鎧だ。

 その表面はつるりとしており、継ぎ目も細かな骨のような細工が施されている。

 中身は、見えない。

 隙間は鈍色の鎖帷子が覗き、頭部も兜で覆われ隙間もない。

 剣と盾も帯びており、ただ立ち尽くしている姿は、彫像の様だ。

 が、カーンの様子を見る限り、彫像ではないのだろう。

 あと数歩のところで立ち止まる。男の体に力みはないが、圧力..威圧を感じた。

 その威圧に対し、骸骨兵は動かない。

 背丈は同じだが、厚みは骸骨兵の方がある。私は息を殺して身を屈めた。あの白い鎧の後ろには暗い広がりが見えた。

 あれが、飾り物だとしても、押しのけて通らねばならない。

 カーンが剣を振り上げるのを眼の端に捉える。

 両刃の大剣が風を切る。

 すると、微動だにしなかった骸骨兵の中型剣が放たれた。

 青白い火花がチリチリと舞う。

 片手で重い金属の固まりを受けた。

 そのまま激しい打ち合いが続く。

 私の中では無言で斬りかかるのは如何なものか。と、の躊躇いがあったが、異形の戦いぶりに不安の方が勝った。

 言葉が通じるモノではないだろう。

 動きが人間ではない。

 生き物の動きには筋肉や腱を無視することは出来ない。人体の関節の動きに妙な間がある。何より、気配がおかしい。

 姿勢を低くしながら、腰から外した角灯に火を入れた。

 生き物は須く気配がある。

 人間の感覚で言う気配ならば、誤魔化されもしよう。だが、ここで言う気配とは、生き物の湯気のようなものだ。

 吹雪の中で方向を見るように、この感覚は私独特のものだ。

 草木にも水にも含まれる。

 その気配がしないもの、人の手による建造物や石、そして、死骸。

 件の兵を異形と感じたのは、そこに生き物らしい揺らぎが見受けられなかったからだ。

 石や岩のような感じでもない。

 敢えて言うなら泥のようだ。

 逃げ道を探して辺りを見回す。

 カーンが殺し合いに負ければ、一人でアレを撒かなければ。

 空気の流れは無い。

 澱み腐る感じも無い。

 光は無い。

 方向は?

 私の種族特性としての感覚がここを、先程までいた穴の底と同じと告げている。

 あの場所より下なのか?

 わからない。

 どちらを向いているのか、壁に手を当ててみる。

 岩や地面なら地脈もたどれるのだが、この壁は見たこともない薄板の様な物が貼られている。眼を凝らすと薄青白い表面に灰色の精緻な紋様が描かれている。その紋様と地色が浮き出るように光を纏っている。その自らの発光で辛うじてこの地下道を照らしているのだ。

 鋭く重い音がして意識を戻す。

 カーンが骸骨兵の剣を叩き折った。その勢いのままに相手の頭部を剣の平で殴りつけ、体を浮き上がらせる。そして、上半身が浮いたところで、肩口から相手の腹に突進した。

 グシャっと嫌な音と共に、壁に骸骨兵が叩きつけられる。

 肩の半盾で骸骨兵の臓器をつぶしたのだ。

 騎士の戦い様とは言い難い。

 二度三度と壁に叩きつけて引きずり倒す、殺すより中身を確かめたいのだろう。相手の力が抜けた所で、カーンは相手の胸に足を乗せて押さえ込んだ。

 どうやら、一人で逃げる事は出来ないようだ。


「坊主、顔の防具をとれ」


 そう言った当人は相変わらず口元しか見えない。

 外套の頭巾はとうに脱げているが、簡易な兜と面頬が鼻筋を覆っている。目元は影になっており、首回りは精緻な鎖で覆われていた。

 相変わらず、口元には嘲笑があった。


「死んでますか?」


「それを確かめるんだよ。ほら、面白い兜だ。まるで本物の化け物みたいじゃねぇか」



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