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冬の狼  作者: CANDY
喪失の章
16/355

Act16 地下道

ACT16


 一瞬の目眩、そして浮遊。

 薄い紫の光が足下に降りていく。それは壁の紋様と同じ円を描いている。

 私とカーンは薄暗い場所に立っていた。

 私達、二人だけだった。

 穴の底ではない。

 足下には明滅する円。

 低い天井に、背後は壁、前方には闇へと続く地下道。

 背後の壁を探ろうとして、カーンに引き留められた。

 背後の壁際の床の部分がない。

 覗くと底の見えない穴が開いていた。

 私は慌てて、智者の鏡を見た。


「出口は」



 供物は捧げられた



 思わず隣の男を見上げた。

 私の焦った様子に、男はニヤニヤと笑っていた。

 笑っている場合ではない。


「やっと面白くなってきたな、で、獲物は何処か聞いてくれ」


 どちらも、おかしい。


「爺達は、何処にいる?」


 宮の底


「下ればいいのか」


 亡者はいずれも招かれる


 もう嫌だな、と、思い金属板をカーンに返そうとしたが、既に嬉々として道を下っていた。

 ゆっくりとその背を追う。

 振り返ると闇の中に薄ぼんやりと紫の光が見えた。

 あれから元に戻れないのだろうか?



 あれは呼び込むだけだ



 鏡の答えに、うんざりする。

 考えを読むのだろうか。


 ここは魔が満ちている。故に、我の力が増す。それは触れた人も同じ。

 魔に触れたモノは変化する


 変化?



 我はグリモアの欠片

 グリモアは狂気の主の物

 狂気の主は宮の王

 王は完全なる形を創る

 創られし形は番人が護る

 番人は常に静寂の中に

 それは怠惰であり虚無

 彼らはそれに浸り常に求める

 絶望、苦痛、恐怖

 番人は常に求める

 故に、変化をする

 人は死者の宮に生きて入れば

 彼らを迎えるべく生きたまま変わるのだ



 あのように



 饒舌なナリスの口上が途切れる。

 前を行くカーンの背中が止まった。

 道の遙か先に薄ぼんやりと白い物が見えた。


細長い白い影。


 角灯の火は、この場所に立った時から消えている。考えてみれば、光はないのに、道も壁も見えている。

 壁自体が浮き上がって見えるのだ。

 だから、あの暗闇の先にも、何か自らが光る物があるのだ。

 しかし、目を凝らしてもそれが、天井すれすれの大きさの白い物である。としか、判別できない。

 カーンがゆっくりと剣を抜いた。

 擦れる音がして、見るだけで怖じ気るような金属の固まりが引き出された。

 斬るというより叩き潰すのが似合いの両刃の大剣だ。彼のような偉丈夫ならば取り回しも出来るが、普通の身長なら腰から引き抜くのも一苦労だろう。

 その剣域から身を離す。

 あんな物で殴られたら頭が飛ぶ。

 こんな場所や気持ち悪い金属板より怖い。

 まるで散歩のように歩み寄る背中に続く。

 すると、前方の闇が揺らいだ。

 はっきりと、その空気ごと身震いするのが分かる。そして、カタカタと乾いた音が響いた。



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