Act15 死面
ACT15
智者の鏡を翳す。
すると囁きが掌からあふれ出した。
沢山の笑い声や会話の断片があふれ出す。
どれも意味が拾えないし、聞き込んでは混乱しそうになる。
とても不愉快な囁きだ。
その悪意に満ちた板が蠢く。
すると、今までの様な紋様ではなく、人の顔が浮かんだ。
目を閉じた人の顔だ。
「智者のナリスだ」
気持ち悪い。目が開いたら、投げ捨てる。
「聞いてみろ。子供と女には優しいらしいからな」
子供ではない。が、女であるから優しいことを祈る。
「何を聞けば」
我が知りうる限りの事を
喋った。
気持ち悪さが倍になった。
「..気にいらねぇ、何で俺の時は無視したんだ、こいつ」
我、獣に言葉無し
「いつか炉にくべてやる」
ぶつぶつと文句を言う頭目、改めカーンから意識を戻すと、私は訪ねた。
「鷹の爺のところへ行きたい」
その者を知らず
「五番目と一緒にいる北方領辺境伯とその連れだ」
ここより、地下に
「入り口はあるのか」
カーンの問いにそれは無言で返した。
男は舌打ちをして、私の肩を抱いた。
ぎりぎりと握られて痛い。
あたるのは不気味な板にして欲しい。
「お前が聞け、獣とは喋りたくねぇんだと」
「..入り口はどこ?」
ヒトガタの六
それに控えていたカーンの部下が壁の煤を端からなぞる。すると、その一つからぱらぱらと表面が削れ、、丸い紋様が現れた。
岩肌とは違う、砂色の複雑な紋様を刻んだ小さな物だ。
表面の彫刻は動物や人が細かく描かれていた。
丁寧に表面の煤や土を払っていた部下が振り返った。
「石に彫ってあるようです。特に仕掛けは見あたりません」
カーンに引き摺等れなが、又も壁に顔を突きつけられる。
「こいつは何だ?扉か」
私に聞く方が間違っている。
そもそも、私は森の案内をするだ
けで良いのではないか。否、この罰当たりな余所者につきあわねば、連れ帰れない。
連れ帰る必要があるのか?
そんな事を考えていたら
死者の宮に出口なし
招かれるは亡者のみ
宮は悪鬼が集い
女は四人の番人にあう
苦痛 恐怖 絶望そして慈悲
選んだ者だけが見えざる出口をつくる
欲望は番人へ招待される
故に強く願えば扉となる
ここまで囁くと顔は声を消して口だけを動かした。
森の娘よ
この獣は悪鬼にまさるが欲には負ける
宮の番人はさぞや喜ぶであろう
お主一人なら冥府を戻るもできるであろう
一人なら
智者のナリスは唇を笑みの形にした。
形だけだ。
不意にこれがナリスという死面だと悟った。悍ましい物が宿っているに違いない。
気持ち悪いと思ったのも知っているのか。笑い顔は、そのままとぷりと板に消えた。
池から顔を出した魚の様だと思った。
それに答えるように足下が沈んだ。