表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冬の狼  作者: CANDY
欺瞞の章
120/355

Act110 我は悪霊なり 中

 ACT110


 弓を構えて放つ。


 私の矢は、普通の物よりも矢羽根が小さく、先端は鋼鉄を使用している。

 三本ほど、連続して顔を射た。


 だが、太い触手が取り巻き、矢は刺さらずに落ちる。


 蛇ではない。


 もっと醜い生き物だ。


 ちょうど腸詰めの肉が白い脂肪を蓄えているように見えた。

 蛇ではなく、蚯蚓だ。


 その触手が持ち上がり、死体も生きている者も潰しながら浮かび上がる。


 一つ二つ、数えると五本の触手は、その先端が石榴のように弾けている。


 弾けているが、その中の肉に繊毛と牙が見えるところを考えると、アレは口でもあるようだ。


 それが持ち上がると、私達めがけて振り落とされた。


 その場から、なりふり構わず転がって逃げる。


 血に肉に、そして生きているかも知れない人の体を踏み、足場を探す。



 ただ、その触手を操っているのは、中心の人の部分のようだ。

 それの意識する方向から逃れると、触手も追っては来ない。


 侯爵とサーレルも、死角に入ろうと動き回っている。


 その間に後ろに回り込むと、今一度矢をつがえた。


 今度は人面ではない方に狙いつける。


 蜘蛛のような手が体を移動させるので、頭部がギクシャクと上下した。


 それでも、風の影響がない室内だ。


 三本連続して放つと、鳥の口と目に命中。黄緑色の体液を飛ばしながら、鳥の頭が萎んだ。


 女の口が絶叫に強ばる。


 触手も暴れ周り、壁を壊し、転がる遺骸を叩き潰した。


 ところが、暫くそうして暴れていると、触手が手近の肉を食い始めた。

 ゴリゴリと音をたてて、半死半生の者も、遺骸の一部も、その触手の口が飲み込み咀嚼し飲み込んだ。


 すると、鳥の面があった所が盛り上がり、やがて顔になった。


 今度の顔は、半分ほど人で、後の半分は犬のようなモノになった。


 警戒するかのように、触手を蠢かせ、それは影に下がった。




 異形の神像を真似ている。

 だが、これは違う。

 下等な霊が集まっているだけだ。

 女は選択を再び誤った。

 だとしたら?


「一度、お二人はお戻りください」


「そうしたら、君はどうなる?帰る鍵もなければ、エリもいない。いるのは、化け物だ」


「彼女が入り込んだ通路がある筈です。」


「ここは、城の地下か?」


 侯爵は、明かりの影に下がった姿を見ていた。


「多分。ここはフリュデンの城塞跡と繋がっているのでしょう。彼女を見失ったのは、地下水路でしたから。河とは別に地下道が何処かにあるのではないでしょうか。」


「あれはやはり、アレンカなのか」



 私にはわからない。



「神の血肉に何を願ったのか。金を積むように命を積んで、答えるのは神の筈が無かろうに」


「どうします?鐘の音は聞こえませんが、多分、上はそろそろ崩落するのでは。戻るにしろ、何にしろ、決めないと不味いですよ」


「こうなれば、これを始末する他無い。いよいよなれば、上は息子が、イエレミアスとライナルトがおる」


「だ、そうだよ。さて、どうする?」


 問いかけられ、問う。





 そうだね。

 ボクに聞くように、彼らに聞いたらいい。

 誰かって?

 いっぱいいるじゃないか。

 君とボクの友達さ。



 あぁ、そうか。怖いんだね。


 大丈夫だよ。


 友達に聞いてごらんよ。


 それとも、ボクが片付ける方がいいかい?


 そうしたら、ここもきれいになるけど。


 いいのかい?




「聞いてみます」


「誰に?あの化け物にかい」


「いいえ」




 呪陣は何処か?


 頭蓋の柱を中心に、血と肉の合間に微かに見える。


 元よりの祭壇は何処か?


 影に潜む化け物とは反対の場所に見える。


 では、血肉を捧げたのは何処か?


 ふと、視界がこの部屋の天井から見下ろすよう変わった。


 そして、これほどの人肉が積まれた部屋に、一点円を描くように小さな場所が見えた。

 そこだけは、血にも肉にも、そして化け物となった彼女も寄りついてはいない。


 その場所は祭壇のすぐ側にあった。


 私が動くと触手も蠢くように近づく。

 それをサーレルと侯爵が剣を抜き牽制した。

 その場所は、特に人が折り重なるように倒れていた。

 それは小さな円を描き、ぽっかりと床が見える。



「どうしたらいいのか、わからない」


 その場所に両手を翳した。


「上の化け物を退治すれば終わるのか?」


 体中の皮膚に痛みがはしる。


「そこの者を殺せば終わるのか?」


 問いかける間も触手は私達の周りを蠢き、口を開いては飲み込む仕草を繰り返した。


「全てを無に帰せば、終わるのか?教えてほしい、エリは?」


 触手が大きく口を開く。

 私達の体を飲もうと覆いかぶさり



 止まった。




 血肉の海で、全てが止まる。



 部屋いっぱいの怨嗟を受けて、黒い影が輪になって踊っていた。


 影の輪は二重になっており、フリュデンの呪陣と同じように外と内側が逆に回転していた。


 輪は、ゆっくりと動きを止めた。


 すると、部屋の隅から小さな影が出てきた。

 それが輪の中で蹲る影の側にたった。

 影はその小さな影に手を引かれて、二重の輪の内側に混じる。


 すると、輪は再び動き出した。


 そして、再び、世界は傾いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ