Act11 忌み地
ACT11
陽が落ちる前に、穴に辿り着く事。
そう相談すると再び歩を進めた。
穴は口よりも中が広く、その分雪を避けることもできる。
獣も穴の中には入らないので、夜はそこに逃げ込む事になった。
何故、獣が中に入らないのか。
何故、こんな穴があるのか。
余所者ではなくとも、普通に聞きたいだろう。
しかし、雪が思ったよりも激しい。
話すのは穴でとなった。
何を言ったところで、爺達も領主も穴に向かったのなら、私も行くだけだ。
横殴りの激しい雪が顔に吹き付ける。
凍傷を防ぐのに顔を覆い、目のところまで頭巾を下げた。
毛皮の帽子を新調した甲斐があった。
耳から顎下に結ぶ帽子の襞が気に入っている。
自慢の耳なので、ぽろりともげたら、悲しい。だから、いつも耳当て付きにする。
時々、手足の指を確かめる。
狩人の衣装は、すべて村の職人が作っている。
軽く暖かく、湿気を通さずと
、北ではちょっと有名だ。
毛皮を使った防寒具や織物が村の産業でもある。
大陸の御者協会の冬装備指定も戴いている。辺境伯の領地収入でもある。
だから、少なくとも私の後を着いてくる男達よりは、格段に暖かだ。
時々、振り返る。
人も馬も数を数える。
中々、根性と体力はあるようだ。
私より大きな男達が弱音を吐いたら、嘲笑してやろうと思ったのに。
どこかで、根をあげて欲しいとも思っていた。
その願いとは逆に、頭目は楽しそうに雪を踏んでいる。初めて雪を見たのか、表情は見えないが楽しそうだ。
南国生まれなのかな。
確かにちらりと見えた口元の肌は浅黒かった。
そんな余所事を考えながらも、見えない地割れを避け樹氷の間を縫って進んだ。
まだ、それほど積もっていないが、これはひょっとすると二三日降り続くかも知れない。
鷹の爺なら、忌み地に人を入れたせいだと、すかさず答えたろう。
私からすれば、肉食獣が巣穴に籠もってよかったと憎まれ口を叩くか。
やがて灌木と雪の白の向こうに、黒い壁が見えた。
私が指を指すと、後ろの男達も気がついた。
馬が鼻を鳴らした。
子供の頃から思っていた事がある。
人は、死んだら、ここに来るんだと。
根拠は無い。
只、死んだら、忌み地に還るのだと。
子供らしからぬ、妙な考えであった。