表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冬の狼  作者: CANDY
欺瞞の章
107/355

Act97 血にて誓う

 ACT97


「どういうことだ?こんな」


 何の痕跡も見あたらない地面を指さして、ライナルトが怒鳴る。


 私は自分の荷物を探しに、館に向かい歩き出した。


「何処に行く!」


「もちろんエリを探しにですよ」


 噴火山の山鳴りのような音と振動が体を揺らす。

 ライナルトは血相を変えた兵士達に囲まれ、連れて行かれた。私を尋問したいのだろうが、今はそれどころではない。トゥーラアモンのアレを兵士も見たのだろう。


「あてはあるのですか?」


「サーレルの旦那、いいですか。アレは人間を喰う」


 私は荷物のある部屋に小走りに向かいながら、ついて来たサーレルに耳打ちした。


「アレは一応、シュランゲの呪陣によって理の内にいるはずです。」


「アレとは何です?」


「あぁ、見てないんでしたね。今、トゥーラアモンはシュランゲにいたモノに襲われている」


「もっとわかりやすく言いなさい」


 小部屋までたどり着くと、自分の荷物の中から弓と矢筒を取り出だした。


「村には化け物がいたんです。それが盗人を追いかけてトゥーラアモンを襲っている」


「化け物ね、で、エリは何処へ」


「化け物の側でしょう。誰が呼んだにせよ、化け物に働きかけるにはエリが必要です」


「何故です」


「井戸で生きていたのは、偶然ではないと言うことです」


「頭痛がしそうだ。化け物ね」


「シュランゲは、青馬の王、つまり、この地方の祟り神を封じていた祭司の一族なんでしょう」


「青馬は比喩表現の昔話でしょう」


「えぇ、ただし、この地方には、人を喰う神がいた。それを呪によって封じていた。だからこそ、この地の侯爵、青馬候は、彼ら祭司の一族とつき合いがあった。」


 バリバリと窓が震える。


「昔話です。実際は、昔の慣習にしたがい貴重な金属、それも物騒な金属を加工する一族を庇護していただけでしょう。」


 私が忙しなく支度を整える間、サーレルは窓際に立った。


 空に黒煙が見える。

 トゥーラアモンの森が燃えているのだ。


「その貴重な金属は、たぶん、その化け物の一部なんです。だから、奥方が外に出ても良かった。ただし、エリやエリの一族はダメだった」


「何故ですか?」


「彼女は特殊な血を持っていた。だから、呪術師の祭司に隠されて育てられた。推論になりますが、彼女の姉や家族も同じように特殊な血を持っていた。短命種の突然変異、先祖返り、そして、たぶん、侯爵と同じ一族です。」


 侯爵家の紋章は、毒と病と汚れた神を押さえるという意味だ。

 昔々、この血には青馬がいた。

 病と争いを呼ぶ神がいた。

 領主は、家族を犠牲にし、先住の民は神を見張る役目を負った。

 長い年月が、それを全て過去とした。

 過去となるはずだったのに、小さな争いが大きくなり、昔々の約束が破られた。



 サーレルは振り返ると、準備の整った私を見て首を傾けた。


「トゥーラアモンに行くのですね」


 私達は厩に向かった。


「昔話によれば、この地の新しい領主は家族を殺した。解釈を広げれば、この地に来た事による、何らかの犠牲を払ったのです」


 絶え間なく空気に奇妙な揺れが走る。


「君の馬では駄目でしょう。私と一緒に乗りなさい」


 厩舎の馬達は、怯えと興奮で浮き足立っていた。

 その点、軍馬は落ち着いている。

 鞍をつける間、私は、自分の装備を確認した。


「で、何が暴れているんです?心構えが必要ですかね」


 いつもの調子に、私は手袋に堅く革紐を巻きながら答えた。


「旦那は、竜退治の経験はお有りか?」




 サーレルは私の顔を見てから、暫し考えこんだ。

 そして、馬を外に引き出した。


「竜ね、竜、..世も末ですね。仕事の選択を間違えましたね。ほんと」


 走り回る兵士、隊列を整え、トゥーラアモンに戻るのだろう。

 絶え間なく響く地鳴りと咆哮。

 私達は馬首をトゥーラアモンに向けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ