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冬の狼  作者: CANDY
欺瞞の章
104/355

Act94 英雄は来ない 中

 ACT94


 サーレルにとって、私は疑わしい存在である。


 確かに、私は怪しい。

 と自分でも同意する。

 すると、ワタシがニヤニヤと笑うのを感じた。

 だが、私が、彼らの標的から某かの物を受け継いだと話す事は、馬鹿な行いだと(二人)とも解っていた。


「何者と言われましても、私は普通の村人ですが」


「少なくとも、貴方のような(普通の)子供を見たことが無い。昨夜の状況で、貴方の立ち回りの何処が普通です?」


「だとしたら何です?もとより、旦那方が私を雇ったのが始まりです。私から、旦那方を追いかけ回した訳ではない。」


「わかっていますよ。だから私は、貴方が何者かと聞いているのです。

 一つに、貴方は子供ではない。子供のような姿の種族なんでしょう。それに、その入れ墨は何ですか?言葉も知識も、辺境の民にしてはおかしいのですよ。指揮官も何故か気にしていない。」


「私は生まれてこの方、村からも出たことがない田舎者ですよ。ただ」


「ただ?」


「私は孤児でした。村人に拾われ、御領主の御好意で教育を施されました。それが私を普通ではなく見せるのでしょう。それにカーンの旦那は、変わり者が好きなんです。旦那も変ですから」


 それにサーレルは確かに、と、言って笑った。

 元より答えなど期待していないのだろう。勝手に調べるつもりだろうし。


「では、疑わしく子供らしくもない身ながら、呪について話しましょうか」





 呪とは何か?


 私の口は滑らかに答える。

 初めてであり、良く知る事を思い出す。



「呪とは何かと問われれば、伝統、技術、風習という答えになります。様々な現在の宗教儀式や民族毎の慣習もです。その中で、特に人の精神や、現実の事象に影響を与えるものを呪と呼びます。」


「現実ですか」


「思考の規範に影響を与える意味では」


 それにサーレルは答えず、指を顎に添えて考え込んだ。


「逆に思考の規範に適合するものを、祈りと言います。呪と祈りは同一ですが、それが与える影響は違います。付け加えるなら、今現在の中央大陸の文化は祈りの文化ですね」


「では、呪の文化という物があると?」


「主流民族により淘汰された中央大陸文化は、均一化されています。ですが統一前の大陸には、少なくとも民族紛争の激しい頃までは当たり前に使われていた。と、考えられます」


 ライナルトは、顔の布を解いた。

 彼の片方の眼は灰色に濁っていた。毒の影響だろうか。

 エリは、手を伸ばすと濁った眼に手を当てた。


「邪教というものか?」


「民族の文化と言いませんでしたか?」


 片目を閉じたライナルトはエリに撫でられている。どうやら、エリはライナルトが気に入ったようだ。

 ふと、青い男を思い出す。

 あの男に似ている。

 もちろん、姿形ではない。

 ライナルトも、子供を庇い続けていた。


 ふと、エリをつれた青い男は、どこへ行ったのか、そして、エリは何故、あの場所に据えられていたのかを考える。


 一つ、二つと、それらしい考えが浮かぶ。

 ただ、エリとライナルトを見ていると、奇妙な図式が見えてくる。


 婆様の、本当の考えという物に。

 もし、その考えが本当になったら?







 物語には救い主が必要だ。

 たとえ、英雄が死ぬ運命でも。



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