Act10 迷信
ACT10
注視していると、再びもぞもぞと金属板は動き出した。
気持ちが悪い。
「壁か、何かの建物か」
男の呟きに、私は頭を振った。
「ここから半刻の距離に垂直に穴が開いている。洞穴なのか亀裂なのか分からない。その周りが壁のように隆起している」
私は降る雪を眺めながら、どこか夢を見ているような不確かな感覚に包まれた。
「穴には入れるのか?」
金属板の盛り上がりの一端に皹のような亀裂が入っている。
「ここから底の方に向かって、緩やかな下りが続いている。脆いが通れないことはない。」
「では、ここだな。」
思わず乾いた笑いが浮かぶ。
「何だ?」
黙って、笑った。
村の者も領主館の者も、皆、思ったが否定していたのだ。
まさか、そんなと。
確かに、領主も顔を白くしたはずだ。
忌み地に向かう、罰当たりめ。
後を追うなとは、この事か。
領主も爺達も、暫くは村には戻れない。
忌み地に入った後は、災厄を持ち込まぬように神の家で禊ぎをせねばならない。
供物も無しに、祭祀の時期でもなしに忌み地へ余所者を運ぶのだ。
人の世を救う神は居ずとも、災厄はあるのだ。
忌み地とは汚れた場所である。
神が跡をつけた場であり、汚れが湧いた地である。
理が生まれた場所であり、死が与えられたと村では言われている。
辺境の迷信。
その一言で片付くのなら良いのだが。
「何だ、この穴に何かあるのか?」
ある。
この地で生きるのなら、迷信も現実だ。