覚醒
ルカは走り続けていた。
影が床を這い、壁を裂き、天井から黒い杭が降り注ぐ。
その全てを紙一重で避けながら、ルカの視線は戦場ではなく――空間そのものを見ていた。
(まだ……)
崩れた地下通路。
砕けた天井。
流れ込む地下水。
星空が映る水面。
そして。
「――ここだ」
ルカが足を止めた。
そこは崩落した大広間。
天井の大半が崩れ落ち、夜空が大きく露出している。
床には地下水が広がり、鏡のように星空を映していた。
黒布の男が笑う。
「やっと諦めた?」
「……違う」
ルカは静かに杖を構える。
星核石が淡く輝いた。
「ここからだよ」
瞬間。
ルカは杖へ膨大な魔力を流し込む。
ゴォォォッ――!!
夜空の星々が呼応するように輝きを増した。
水面へ映る星。
空にある本物の星。
その両方から、細い光が一本ずつ伸びていく。
黒布の男の笑みが消える。
「……は?」
光が。
集まっていた。
杖の先端へ。
一本。
また一本。
無数の星光が、水面反射を利用しながら収束していく。
まるで夜空そのものを吸い上げているようだった。
ルカの足元の水面が輝く。
空間全体へ、星の魔法陣が浮かび上がる。
「夜魔法――」
ルカの青い瞳が強く光る。
「《星塵の軌跡》」
キィィィィィン――!!
魔法陣から巨大な星の光が放たれた。
それは一直線ではない。
流星群のように。
空間全体へ広がっていく。
蒼白い星の帯が地下空間を覆い尽くした。
壁。
床。
天井。
その全てに星光が行き渡る。
まるで夜空が地上へ降りてきたかのような幻想的な光景。
そして。
「――ッ!?」
黒布の男の表情が変わる。
闇が。
薄れていく。
星の光が空間全体を照らしたことで、影の隠れる場所が消え始めていた。
黒布の男の身体が、闇の中から浮かび上がる。
「見つけた」
ルカが杖を向ける。
その周囲へ無数の星光が集束した。
一つ。
二つ。
三つ。
星の弾丸が形成されていく。
今までとは比べ物にならない密度。
圧縮された星光が震える。
黒布の男が舌打ちした。
「チッ……!」
影へ潜ろうとする。
だが。
空間全体へ星光が満ちているせいで、完全に隠れ切れない。
ルカは静かに告げた。
「――《星光弾》」
ドォォォォンッ!!
無数の星光が一斉に放たれた。
光の雨。
流星群。
それらが一直線に黒布の男へ襲い掛かる。
影を裂き。
闇を貫き。
地下空間を蒼白い閃光が染め上げた。




