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ルカ・マーフィーは夜魔法の継承者  作者: 如月


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裏切り

真実の扉へ続く地下深部。


崩れた通路を抜けながら、レオ、ルカ、アクアは先を急いでいた。


地下へ進むほど空気は重くなる。


肌へまとわりつくような嫌な魔力。


ルカは無意識に拳を握りしめていた。


この先にいる。


そう確信できるほど、濃密な闇の気配が流れてきていた。


その時だった。


通路の奥。


薄暗い灯りの中に、一人の人影が立っている。


黒いフード。


静かにこちらを見つめていた。


レオが足を止める。


その瞬間。


彼の表情が僅かに揺れた。


そこには隠しきれない動揺が滲んでいた。


「まさか……」


フードの男は静かに笑う。


そして。


ゆっくりとフードへ手をかけた。


ルカとアクアが目を見開く。


フードが外される。


現れた顔を見た瞬間――。


「……ソジュン先輩」


ルカの声が小さく漏れた。


そこにいたのは。


ブラック寮の仲間。


ソジュンだった。



レオは言葉を失っていた。


普段なら決して感情を崩さない彼が、珍しく目を見開いている。


「……お前…っ」


拳が強く握られていた。


怒りではない。


信じたくないという感情。


ソジュンはそんなレオを見て、どこか寂しそうに笑った。


「そのようなお顔をなさらないでください、レオ先輩」


静かな敬語。


だが、その声には深い疲れが滲んでいた。


「……説明しろ」


レオの声が僅かに震える。


「なぜお前が、こんなことをしている」


数秒の沈黙。


そして、震える手で杖を握る。


ゴォォォォ……。


黒い魔法陣が足元へ広がった。


死霊魔法。


禍々しく揺れる魔力が地下通路を覆っていく。


ルカは静かにソジュンを見つめていた。


ソジュンはゆっくり口を開く。


「僕は遠い小国で生まれました」


低い声が地下通路へ響く。


「小さいながらも、自分たちの生活を大事にしている国でした」


その瞳には遠い過去が映っていた。


「皆優しかった。貧しくても笑っていた。家族も……いました」


ルカたちは黙って聞いていた。


「ですが、ある日突然。同盟国だったはずの国が攻めてきたのです」


ソジュンの声が少しだけ低くなる。


「理由は笑えるほどくだらないものでした」

「俺達の国が、この国の魔法石を狙っている。世界を支配しようとしている……そう言われたのです」


ルカの瞳が揺れた。


真実の扉。


世界を制御すると言われる巨大な魔法石。


ソジュンは苦く笑った。


「もちろん否定しました。ですが向こうは聞く耳など持たなかった」


「その後魔法戦争が始まりました」


空気が重く沈む。


「街は燃え、人は死にました。僕は両親、家族……全て失いました」


レオの表情が歪む。


ソジュンは続けた。


「気づけば俺一人でした」


静かな声。


「その後、僕は戦争孤児として施設で育ちました」


「毎日考えていました。なぜ俺達だけがこんな目に遭わなければならなかったのか、と」


重い沈黙が流れる。


「そんな時、この学園の存在を知りました」


ソジュンは小さく目を細めた。


「世界最高峰の魔法学校」


「ここで学べば、自分の国を復興できるかもしれないと思ったのです」


「魔法を学び、知識を国に持ち帰り……また皆が笑えるそんな国を作りたかった」


その言葉には確かに夢があった。


希望があった。


だが。


ソジュンの表情が歪む。


「ですが現実は違いました」


ソジュンは杖に力を込める。


「ブラッククラス」


「他のクラスには貴族の子息や、コネで入ったような者達ばかり」


「人を見下し、自分達は特別だと言わんばかりの連中でした」


レオが静かに目を伏せる。


否定できなかった。


ソジュンは乾いた笑みを浮かべた。


「夢など、すぐ壊れました」


その時。


彼の表情がほんの少しだけ柔らかくなる。


「……ですが」


レオたちを見る。


「ブラックに来てからは少し違いました」


「皆さんと過ごす時間は嫌いではありませんでした」


「少しずつ……もう少しここにいたいと思えるようになっていたのです」


ルカの胸が締め付けられる。


ソジュンは仲間だった。


ブラック寮での日々は、本物だったはずだ。


レオも静かにソジュンを見つめている。


その表情には苦しさがあった。


「だったら……!」


ルカが前へ出た。


「だったらなんで、こんなことするんですか!」


地下通路へ声が響く。


ルカの瞳は真っ直ぐソジュンを見ていた。


怒りだけではない。


止めたいという感情。


失いたくないという想い。


ソジュンの瞳が揺れる。


だが次の瞬間、再び暗く染まった。


「学園祭の前に、昔の同郷の仲間と再会しました」


「忘れかけていたのです」


「僕の国を滅ぼした者達への憎しみも」


「復興したいという願いも」


レオが低く呟く。


「……だから戦争を起こすのか」


ソジュンはゆっくり頷いた。


「はい」


その瞳には悲しみと怒りが混ざっていた。


「僕はあの人達と共に戦います」


レオの拳が震える。


「ソジュン……お前……!」


普段なら決して感情を乱さない彼が、明らかに動揺していた。


仲間だった。


信頼していた。


ブラック寮で共に過ごしてきた。


そのソジュンが、自ら敵になろうとしている。


ソジュンはそんなレオを見つめ、静かに頭を下げた。


「レオ先輩」


ソジュンは闇魔法の魔法陣を作動させる。


「貴方には感謝しています」


「ブラック寮での日々は、僕にとって確かに救いでした」


そして。


ゆっくりと闇魔法を構える。


「ですが――それでも僕は止まりません」


その瞬間。


地下通路を、重苦しい沈黙が支配していた。


闇魔法が揺らめく。


ソジュンの周囲を覆う黒い魔力は、今まで見てきたどの敵とも違っていた。


憎しみ。


悲しみ。


孤独。


その全てが混ざり合っている。


ルカは拳を強く握りしめた。


「ソジュン先輩……」


ソジュンは静かに闇魔法を展開する。


黒い魔力が地下通路を侵食していく。


その瞬間。


レオが一歩前へ出た。


「……ルカ、アクア」


低い声。


二人がハッと顔を上げる。


「お前らは先へ行け」


アクアが目を見開いた。


「えっ……!?」


ルカもすぐに首を振る。


「で、でも……!」


レオは振り返らない。


ただ静かにソジュンを見据えていた。


「敵を止めるのが最優先だ」


その声は冷静だった。


だが。


レオは今、無理やり感情を押し殺している。


「ここは俺がやる」


ルカは唇を噛む。


ソジュンは仲間だった。


レオにとっても。


ブラック寮にとっても。


その相手を、一人で戦わせる。


そんなの――。


「レオ先輩……」


ルカが心配そうにレオを覗き込む。


レオが僅かに笑った。


本当に小さく。


「そんな顔するな」


その目には覚悟があった。


「お前は前へ進め、ルカ」


静かな声。


「お前には、お前にしかできねぇことがある」


ルカの胸が強く脈打つ。


夜魔法が微かに揺れる。


ソジュンもルカを見つめていた。


その瞳には敵意だけではない、複雑な感情が浮かんでいる。


「ルカ」


ソジュンが静かに口を開く。


「貴方は優しすぎる」


闇魔法が揺らめいた。


「だからこそ、この先へ進んでください」


「……!」


ルカが目を見開く。


ソジュンはゆっくり目を伏せる。


「俺はもう戻れません」


地下通路の空気がさらに重くなる。


レオが静かに手を上げた。


その瞬間。


ゴォォォォ……。


冷たい死の気配が広がる。


無数の亡霊。


黒霧。


死霊使いとしての魔力が、地下通路を覆い始めた。


アクアが息を呑む。


レオの本気。


それを見たソジュンも静かに闇魔法を強める。


黒と黒。


二つの禍々しい魔力がぶつかり合い、空間を震わせた。


レオは低く呟く。


「……行け」


その一言で。


ルカは覚悟を決めた。


「……必ず追いついてください」


レオは答えない。


ただ背中で語っていた。


アクアも不安そうにしながら頷く。


「レオ先輩……無茶しないで」


そして。


ルカとアクアは駆け出した。


さらに地下深く。


真実の扉を目指して。


その背中を見送りながら、ソジュンは静かに言う。


「優しいですね、貴方は」


レオはゆっくり死霊魔法を展開した。


亡霊達が低く唸る。


「……うるせぇよ」


その声は少しだけ掠れていた。


ソジュンも杖を構える。


闇魔法が膨れ上がる。


かつて同じ寮で笑い合った二人。


その魔力が、地下通路で静かに激突しようとしていた。

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