魔法書の解読について
禁書コーナーの奥には、静かな時間が流れていた。
重厚な本棚に囲まれた空間には、古い紙の匂いと微かな魔力の気配が漂っている。
ルカとアクアは机へ何冊もの古代文献を積み上げ、必死にページをめくっていた。
「うわっ……文字ちっさ……」
「アクア、静かに」
「だって難しすぎるんだけど!?」
アクアは頭を抱えながら古代文字一覧表と睨めっこしている。
一方ルカも真剣だった。
似た文字。
微妙に違う文法。
魔法体系ごとの記述差。
単純な翻訳ではない。
まるで“感覚”まで読み解かなければならないような難しさだった。
「これ……本当に読めるようになるのか?」
ルカは小さく呟く。
古代文字は現代文字と違い、文字自体に魔力的意味が込められているらしい。
つまり知識だけでは不十分。
文字そのものの“概念”を理解する必要がある。
そんな時だった。
「……あれ?」
アクアが何かに気づいたように声を漏らす。
「どうした?」
「これ……」
アクアは一冊の古びた文献を指差した。
そこには、掠れた古代文字と現代語訳が並んでいた。
ルカも覗き込む。
『魔法書の古代文字解読には、古代文字の意味を理解した上で魔力を込め、杖へ魔力を流しながら対象へかざすことで読解可能となる場合がある』
「……!」
ルカの目が見開かれる。
「やっぱりただ読むだけじゃないんだ」
「魔力認証みたいな感じなのかもな」
アクアは腕を組む。
「でもこれ、“古代文字の意味を理解した上で”って書いてあるぞ?」
「……つまり」
「結局まず古代文字勉強しろってことだな!」
アクアが笑う。
だがルカは机へ突っ伏しかけた。
「うわぁ……気が遠くなる……」
思っていた以上に長い道のりだった。
だが逆に言えば、解読方法そのものは存在している。
少しだけ希望も見えた。
「でもさ」
アクアがニッと笑う。
「完全に手詰まりってわけじゃなくなったじゃん」
「……そうだな」
ルカも小さく笑った。
ページをめくる音だけが静かに響く。
二人はその後も夢中になって文献を読み漁り続けた。
気づけば窓の外は完全な夜。
図書館の魔導時計が、静かに時を刻んでいる。
カチ……カチ……
そして。
ボーン……ボーン……
十九時半を知らせる鐘が鳴り響いた。
「あっ、やば」
アクアが慌てて顔を上げる。
「20時までに寮戻らないと怒られる!」
「急ごう!」
二人は慌てて本を片付け始めた。
禁書コーナーの文献は持ち出し禁止。
丁寧に元の場所へ戻し、急ぎ足で図書館を後にする。
その背中が完全に見えなくなった頃――。
禁書コーナー奥の影から、一人の人物が静かに姿を現した。
ノアだった。
無言のまま机へ近づく。
そして先程までアクアが読んでいた文献へ視線を落とした。
『魔法書の解読方法について』
ノアは静かにページをめくる。
そこに書かれていた内容。
古代文字。
魔力認証。
杖との共鳴。
それらを見つめながら、ノアは小さく目を細めた。
(……なるほど)
ルカが何を知りたがっているのか。
何を手にしたのか。
おぼろげながら理解し始めていた。
静かな禁書コーナー。
薄暗い灯りの中で、ノアだけが静かに文献を読み続けていた――。




