第121話 天聖隊合流
「ソラ! 約束通り! 三日で合流させたよ!」
斥候を終えた二日後の夕方。ネイが有角馬を走らせて近づいてくると、その後方には天聖隊のメンバーが続いている。
男連中が俺の顔を見るなり、次々と寄ってきた。
「めっちゃ大変だったんだぞ!」
「然り!」
「餌がたくさんおりますねぇ。小生、何人切り刻めるかと胸が高鳴っております」
「……腹減った」
一方、アリアのもとには女性陣が集まり、それぞれの言葉で無事を伝える。
「アリア様、お待たせいたしました」
「長旅は疲れましたけれども、アリア様の顔を見たら吹っ飛びましたわ!」
「あたしもだよ。アリア、ミレイユ、湯浴びするよ!」
「アリア様、湯浴び中に私の聖属性魔法を見ていただけませんか?」
「アタイも入ろうかな。ずっと有角馬に乗って駆けてばかりだったから」
賑やかなその様子を、一人の男が離れた場所で見つめていた。
それに気づいたアリアが周囲に声をかける。
「みんな、少しいいかしら。紹介したい人がいるの」
そう言うと、アリアは俺を見て小さく頷いた。俺に紹介しろということらしい。
俺はレオの隣へと歩み寄り、その肩に手を置いた。
「こいつはレオ。俺とアリアがヴォリトの部隊にいた頃、一緒に戦った仲だ。こいつはこの辺りの地形に明るい。何より火属性だ。俺たちがここにいる間、うちの隊に帯同する」
俺の紹介を受け、レオは緊張した面持ちで自己紹介をする。
「れ、レオだ。騎士見習い。火属性の十九歳。よろしく頼む!」
「おお! 同い年で同じ騎士見習いか! バルトだ! 属性は……」
最初の勢いはどこへやら、豆属性と言うのが恥ずかしいのか、バルトの声が尻すぼみになっていく。それでも自己紹介を済ませると、男連中、女性陣と順に続いていった。
「お、おい……間違いなく女の入隊条件は顔だろ!? ソラ、もしかしてお前、全員に手を出したってわけじゃねぇよな!?」
「だよな!? そう思うよな!? でも不思議なことに、そうじゃねぇんだ! 理由は分からねぇが、自然と集まってくるんだよ!」
早速バルトがレオの肩を組む。
「マジかよ……こんな隊、理想すぎるだろ!?」
「だろ!? しかも、オレたちは全員一つ屋根の下に暮らしているんだぜ! ってことはだぞ……もしかしたら……分かるだろ!?」
「おお! 桃源郷はここにあったか!」
声が大きくなっていく二人。
そこに、もう一人加わる。
「……毎日人生薔薇色隊」
ガロの一言に、レオが何かを決意した顔となる。
♢
翌朝――
日課となった軍議へアリアと二人で出席し、天聖隊が揃ったことを伝える。
「ヴォリト。天聖隊はすべて揃った。今日から岩場で常時敵の西陣を監視する。何かあったら部隊の者を遣わすから頼む」
「分かった。帝国もそろそろ本腰を入れて、その辺りを奪還しにくるかもしれない。何かあったらすぐにクアドラストに駆け込め。うちの部隊も何人かは、そちらに注意を向けろと伝えておく。明日からの軍議は出られる時だけでいい」
「了解した。それと戦闘となったら【天喰霧】も使う。温存して隊の者が危険に晒されるというのは違う」
「……そうだな。今後、戦闘になったら全力で挑め」
ヴァイドを倒したのが三日前。
昨日、一昨日と数人が斥候に来たが、すべて倒した。やはり、【天瞰眼】は優秀。アリアがいれば頭痛を気にせず使えるというのもあるし、何より、その後の膝枕は疲れまで吹っ飛ぶ……そんなことは悔しくて言えないが、アリアは俺の心を見透かしているため、伝わってしまっているだろう。
俺たち西側は順調。
少しずつだが斥候を削っているし、俺たちの情報は与えていない。
こちらからは敵陣の陣容について、おおまかだが掴めている。
そして東――
「東はどうだ?」
ヴォリトが訊ねると、ゴードンは自信ありげに答える。
「当然、順調だ」
しかし、バルカンの表情は冴えない。
こいつは昨日、一昨日の軍議でも言葉数は少なかった。
「バルカン、お前はどう思う?」
ヴォリトに訊かれ、俯いて力なく答える。
「【爆裂炎】が次第に対応されている……」
「そんなことはない! 順調に――」
ゴードンが口を挟むが、バルカンは続ける。
「一昨日から黒く大きな蜥蜴みたいな奴……多分、あれが黒竜凶将の黒竜だとは思うが、あれに邪魔されて、敵陣まで届かない」
「それはずっと言っているだろ! 一発の【爆裂炎】で黒竜が一つ弾け飛ぶ! それだけで十分な戦果! 相手も凌ぐので精一杯だ!」
「俺たちだって、帝国の魔法攻撃を受けているだろ!」
「すべて我ら、金剛星将隊が抑えきっている!」
「そんなことはない! 昨日も一昨日も、爆裂隊から死者は出ている!」
「帝国よりは少ない!」
今度はゴードンとバルカンが言い争っているが、そこに東方面に展開する瞬刃隊を率いるシュナイゼルが割って入る。意外にもこいつはゴードンの肩を持った。
「俺も順調……だとは思っている」
「ほう、理由を話せ」
ヴォリトに言われて、畏まるシュナイゼル。
「はっ! 確かにバルカンの【爆裂炎】は黒竜によって防がれていますが、黒竜凶将が魔法を行使する際、必ず前線に姿を現します。黒竜凶将の魔法も発現に時間はかかるようで、それまでの間、バルカンと同じように周囲の兵に守ってもらう必要があります。私の刃が狙ったところに刺されば、黒竜凶将の首を刈ることもできるかと」
「良く分かっているではないか! シュナイゼル!」
シュナイゼルの言葉に、バルカンも顔を上げる。
「シュナイゼルの兄貴は跳ぶ跳ぶ言ってるけど、本当に跳べるのか?」
いつの間にか兄貴呼びになっている。味方に回ってくれたのが、よほど嬉しかったらしい。
「そういえば、俺の魔法を知らない者もいるか……俺は近接戦闘を主としている。が、俺の魔法の中に【瞬跳躍】という魔法があって、それは魔力で作った剣を刺した場所に、刹那の時間で移動できるのだ」
「兄貴は瞬間移動ができるのかっ!?」
「まぁ……な。しかし、そこまで便利なものではない。まずマークをする剣は短剣程度だが、光って目立つ。俺が消えればそこに向かうというのはバレるから、移動した瞬間、待ち構えられていることもある。一つ、それに対する策はあるが、それは死活問題となるから口外はしない」
なるほど。
光る短剣は目立つ。だが、バルカンの【爆裂炎】が爆ぜるタイミングで、黒竜凶将の付近に刺すことができれば、次の【爆裂炎】を使うタイミングで、黒竜凶将が魔法を唱えて無防備になった瞬間、首を刎ねることができるかもしれないというわけか。
俺だけでなく、ヴォリトやアリアまでも深く頷いていた。
「……東も順調……というわけだな」
たった一人、シュナイゼルの発言一つで、場の空気が軽くなる。
「おうよ! 俺の【爆裂炎】も無駄じゃなかったってことだ!」
「何度も言っているだろうが!」
「でもよぉ、鉄の親父が言っても説得力がよぉ――」
ここにきて初めて、軍議の場が和む。
「では、今日も気を引き締めて頼む」
ヴォリトが締めて、俺たちも屋敷を後にした。
♢
「天聖隊の初陣は斥候だ」
クアドラストに戻り、隊員たちに伝える。
「斥候か……まぁこの人数なら、そうなるわな」
バルトが肩を落とすが、こいつは戦場を見ていない。
それをアリアが正す。
「バルト、斥候というよりも、威力偵察、威力斥候といった方がいいかもしれないわね。帝国の斥候がいたら私たちで倒す。相手にはこちらの情報を与えず、一方的に情報を搾取する。それが私たち天聖隊に与えられた役割よ」
「ってことは、戦闘も起こりうるのか?」
「ええ、岩場の敵の目を潰した日には十人程度、それから毎日数人がその付近を通っているけど、都度ソラと私で倒しているの。もうそろそろ帝国側も、本腰で岩場の様子を見に来るかもしれないわね」
「マジか……あの地獄の特訓の成果が、ようやく出せるってわけか!」
「然り!」
バルトとブランドンの言葉を聞いたレオが、恐る恐る訊ねる。
「やっぱ天聖隊の訓練はヤバいのか?」
「ヤバいってもんじゃねぇよ! 腕が上がらなくなるまで素振りして、ぶっ倒れるまで走り込んで、すぐにソラとの打ち合いだぜ!? 慣れるまでは毎日吐くぜ!」
「……だが、褒美もある」
「褒美?」
ガロがぼそりと言った言葉に、食いつくレオ。
「そりゃあ、近くにアリア様やネイにミレイユ、リールやロールがいるからな。女だからって、訓練の量が減るわけじゃねぇ。オレとガロは限界まで訓練してぶっ倒れてから、女たちの訓練を眺めるってところまでがセットだ!」
「マジかよ……地獄からの天国じゃねぇか!」
「おっ!? レオも分かる口か? でもプリシラは譲らねぇからな!」
その言葉を言った瞬間、バルトの後頭部にプリシラの突っ込みが入る。
「さっきから何を言ってるのよ!」
「いってぇな! レオを勧誘してるんだろうがよ!」
「そんな動機で来るわけないでしょ!」
プリシラの言葉に、ジャックスが同意する。
「天聖隊、一番の醍醐味はやはりソラ様からのご指導。それが一番の魅力です」
ジャックスの言葉にレオが後退りし、空気が冷え込む。
「とにかく、これが天聖隊として初の任務。気を引き締めましょう」
アリアがそう言うと、俺を見て頷く。
こいつはいつも、最後は俺が締めるようにと促してくれる。
十一人。それに、レオを入れて十二人。
全員の顔を順に見る。
名前も、顔も、剣の癖も、俺は知っている。
これが俺の天聖隊――ここから始める!
「お前ら行くぞ!!!」
「「「おおおぉぉぉ!!!」」」
声が城壁に跳ね返って、北の空へ抜けていった。




