表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの日の群衆《モブ》の鎮魂歌《レクイエム》  作者: ぼっち飯
第一章:建国祭三日目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/5

Episode4. 辺境伯夫人エレイン

(わたくし)は辺境伯夫人、エレイン・ヴァルデンシュタイン。この地に嫁いで十五年。私の故郷と言っても差し支えないほど、この地を愛するようになりましたわ。


二歳年上の夫のアロイスとは政略結婚でしたの。初めてお会いした時は私の十五のデビュタントの時でした。それまでも婚約者候補としてお手紙のやり取りをする中でアロイスがくださる文章の温かさに、私すっかり夢中になっていましたの。


後継者としての教育の一環で二年間の軍務を終え、きっと素敵な騎士様になっていることでしょうと期待に胸を膨らませた私の前にアロイスが現れた時の衝撃といったら。


軍務に就かれる前のアロイスと面識のあったお父様や執事は、中性的で線の細い少年だとおっしゃっていました。毎週いただくお手紙には十六歳を過ぎた頃から身長が急に伸び始め、身体が痛むことが綴られていましたわ。


その中ではご自身の容姿について、熊のようだとよく言われると確かに書いてありました。単に大柄だとか、強さの例えとして皆様が褒めておられるのだろうと思っていましたのよ。


まさか本当に熊みたいな男性が現れるとは。逞しくなるにも程がありましてよ。私の淑女の仮面も、お父様の貴族の微笑みもどこかへ行ってしまい、二人してポカンと情けない顔を晒してしまったのは本当に本当に消し去りたい過去ですわ。


アロイスったら私たちを見て、少し黙って、ものすごく申し訳なさそうにお父様に挨拶していたわ。あの時お父様が絞り出すように「お祖父様そっくりになられて…。」と仰ったその様子がなんだかおかしくて、エスコートしていただいた手の大きさに驚いて、真っ赤なお顔でポツリポツリと話す言葉に、ああアロイス様だわと。改めて夢中になってしまったの。


それから三年、順調に交流を続けてから十八の時にこの地に嫁いでまいりました。住み慣れた屋敷を離れるのは寂しさもありましたが、アロイスが一緒だということだけで幸せでした。務めとして愛のない結婚を覚悟しなければならない貴族も多い中、私は恵まれていましてよ。


忙しく過ごす日々の中で、かわいい子供たちを授かりました。男の子二人と女の子一人。このまま順調にいけば長男のヴィクトルは来年に、次男のカシアスは三年後に軍務に就くことになるでしょう。娘のベローナがお兄様たちと一緒に民を守ると意気込んでいるのはかわいらしいけれど、もう少し淑女のマナーにも興味を持って欲しいと思うのは贅沢かしら。


軍務と言っても特に近隣諸国との諍いもない現況においては魔物討伐のための鍛錬が中心となっているので、私そんなに心配しておりませんの。だって私とアロイスの息子たちですもの。ただちょっと、休暇の時しか会えなくなるのが寂しいと思ってはいますわ。

アロイスがそうだったように、息子たちも大きくなるのかしら。それも素敵ね。かわいらしい子どもたちを見ながら未来を考えてしまうことが増えたのはなぜかしら。今日は建国祭最終日。息子たちがお忍びで出かけてあと二時間ほどで戻るはずでしたわね。娘は夕刻に備えて早めの昼食を取り、お昼寝をしていますわ。


最近少し難しい顔をすることが増えたアロイスが、国王陛下に謁見の許可を求める手紙を出したのが数日前。スタンピードの兆候が見られたので対策に動き始めたところ、この地を含め王国内の七つの地域で地脈の乱れが観測されたために領主同士連絡を取り合い、一度陛下を交えて協議すべきとの話になりましたのよね。


スタンピードは恐ろしいけれど、兆候が見られてから実際に起こるまでに早くて数か月、遅くて数年の猶予があります。その間にきちんと対策すれば事前に防ぐこともできますから、心配することはないはずですの。


でも。


スタンピードの兆候に加えて七つの地域で同時に地脈の乱れなんて、聞いたことがございませんわ。アロイスもそこが気になっているようですの。最近、遅くまで調べ物をしておりますわ。私も一緒に過去の文献を読み込んでみましたが、なにか重大なことが失われているような。


ある時期の記録がすっぽり抜けてしまっているのです。建国の頃の記録に空白の部分があるのです。詳しく調べようとしなければ、いえ、調べに調べて見つけたほんの少しの綻びからようやくその空白にたどり着きましたので、意図的に隠されているのでしょう。


建国祭の終わりを告げるのは領主の言葉。それまであと数時間。執務室で食事を摂るアロイスと他愛のない話をしながら予定を確認して、閉会の儀のために準備をするよう呼びに来た侍女の声に立ち上がった瞬間。




聞いたことのない轟音が響き、屋敷が揺れ、駆け寄った窓の向こうに。

私の愛する町並みへと降り注ぐ、炎の雨を見ました。

少しでも「面白い」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、下↓にある【☆☆☆☆☆】をタップして

【★☆☆☆☆】にしてくださると嬉しいです。なお、

【★★★★★】にしてくださるととても嬉しいです。


読んでくれている誰かがいるってわかるのは、結構テンション上がります。応援してくださる方、本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ