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この村の灯り  作者: 堺大和
30/42

30採択

ある日の

夕方の公民館には

住民がゆっくり集まっていた

扇風機の音がゆっくり室内を回る

住民説明会

今回はクラウドファンディングの説明だ

パネルには

先日整えた告知案が大きく貼られている

観光客用 村内用 SNS版の三種類だ

菫は前に立ち 声を落ち着かせて話始める

「今日は道の駅一部整備に関わる

クラウドファンディングのご説明です」

菫は前に立ち 声を落ち着けて話始める

「この資金は目的は 

休憩所 防災関連設備 情報提供コーナー

交流の場所として

安心して立ち寄れる場所 を作ることです」

真剣な空気の中で 菫の声は落ち着いている

「タグは #みんなの道の駅

支援の形は四種類です

一番お得なのは内覧会ご招待です」

村の特産品の詰め合わせリターンについて

実際の商品見本を見せながら説明する

「地元のイチゴ大福 

小松菜のバウンドケーキ 

すき焼き味のスナックサンド

苺類の あすかルビー 珠姫 古都華 

柑橘類の デコポン ポンカン キンカン 

シャインマスカットなどから

幾つか組み合わせです」

場内の空気が少し和む


説明が終わると 質疑応答の時間

「目標金額は?」

「三百万を想定しています」

「使い道は?」

「休憩スペース関連の設備と看板

情報表示システムなどです」

「集まらなかったら?」

菫は迷いなく答えた

「集まらなくても 事業自体は進めます

これは応援と関係づくりです」

一人の高齢の住民が言う

「ほら 道の駅って聞いたら大きい建物を

想像してたけど こういう説明なら分かるわ」


説明会は思ったより穏やかで

前向きな空気だった時間が過ぎ

微笑みながら頷いた 説明会は堅苦しくなく

必要最低限の情報と

住民自身の率直な反応で進んだ

最後に菫は言った

「この支援は正式事業の前提ではありません

ともに見守る方法の一つです」

何人かが確かに頷いて会場を後にした

扇風機の音と 夏の夕闇の匂いが混じる

クラウドファンディングは 

まだ始まったばかり

でも確かな 関わる意思 は

この場の空気の中に残った


季節は盛夏

午後の役場は 静かな活気に満ちていた

窓から差す夏の光はまだ眩しく

机の上の図面や書類の影を濃く落としている


修正された設計図

工事仕様書

安全対策案

環境配慮計画

交通動線と駐車場案

使用材料一覧


「…いいな」

独り言が 空気に溶ける

隣には菫も座っていた

パソコン画面には

複数のPDFファイルとメモが開いている

「設計の方から

最終チェック依頼が来ました」

菫が小さな声で言う

「うん…ここは想定どおりだ」

私は 手元の図面をめくる


プロジェクトは

最初のプレゼン時とは違う形になっている

当初の大きな夢は

幾つかの現実的な制約の前で整理された


「実際に建つ場所」として

確かな根を下ろし始めていた

「今年度中の着工は…

まだ確定ではないけど」

菫が言葉を継ぐ

「予算は確保されつつあります」

「うん…補助金関係は最終段階やな」

私は 過去の仕事のことも思い出していた

計画書 仕様書 申請書 どれもこれも

矛盾と妥協の連続やった

だが この道の計画は違う ただ作るもの 

じゃなく 村の未来と関わるもの だ

そこに気づいた途端

胸の奥がしっかりしてくる


数日後

午後の空は高く 秋の気配を少し含んでいた

役場の応接室に

私と上司の課長が座る

「山中君 電話だ」

課長が受話器を手渡す


私は受話器を取り数秒の沈黙の後こう答える

「はい 山中です」

受話器の向こうの声は 落ち着いているが 

確かな重みを持っていた

「…補助金 正式に満額採択が決定しました」

その一言が

ぎゅっと短く詰まっている

胸の中で 静かな衝撃が走る

「分かりました ありがとうございます」

そう言って受話器を置く

しばらく横にある資料を見つめた後

私はゆっくりと深呼吸する

課長が柔らかく言った

「やったな」

その一言は

大袈裟な祝辞ではない

今までの積み重ねを

ちゃんと認めた言葉だった

そして 静かに呟く

「これで…動ける」

彼の視線の先には

窓の外の青い空が広がっている

風も 秋の入り口の香りを運んでいた

正式採択 それは 始まりの認定 でもある

喜びはあっても

それを飛び跳ねるような派手さはない

胸の奥で 明確な確信が灯る

これでほんまに工事まで行ける

新たなページが開かれた


夕方の空気はもう夏とは少し違っていた

日差しはまだ強いが 

空気の重さは秋の気配を含む

川床のテラス席では 

最後の賑わいが続いていた

どのテーブルにも 

冷たい飲み物と笑顔がある

菫は息を切らせて

川床に駆け込むようにやって来た

「遅れてすいませんー!」

駆け込んだ先には

いつもの女将さんがのんびりと

お客さんに声をかけている

「菫ちゃん ほれ もう終わりやで」

女将さんは 涼しげに微笑んだ

「うう…今年の夏は全然休めなくて!

仕事 仕事 仕事で!」

菫は大袈裟に両手を広げて空を仰ぎ

女将さんの前にどっかり座る

「川床が最後の日にやっと来れたんですよ」

女将さんは笑いながら 菫の肩を軽く叩いた

「ほな まずはこれでも飲みぃ」

女将さんが差し出したのは

冷たい麦茶と氷の入った小さなグラス

「ありがとう

もう 夏が終わる頃にやっと一息ですよ」

菫はグラスを一気に少し飲む

ふーっと溜息が漏れる

「仕事は楽しいんですけど

休みが追いつかなくて…

もう 川床の音を聞きながら

ただ座ってるだけで幸せです!」

女子のように笑う菫を見て

女将さんも微笑む

「菫ちゃんは

休むタイミング見つめるのが下手なんやから」

「えーそんなことないですよ~」

菫は照れくさそうに笑いながらも

目は既に川の流れに向いていた


流れる水の音 冷めたい風 遠くの蝉の声

「…こうしてただ居るだけでも

なんか贅沢ですよね」

「せやろ

村の夏は忙しいけど これが最後やで」

女将さんは優しく言う

「来年は… ちゃんと最初から来たいです」

菫は力強く頷く

「まずは 今年最後の川床 を

ちゃんと味わうんやで」

女将さんがそう言って 二人で笑う

テーブル越しに 川のせせらぎが 

ひんやりした音をたてて流れていた


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― 新着の感想 ―
 堺大和さん、こんにちは。 「この村の灯り 30採択」拝読致しました。  村民に、クラウドファンディングの説明会。  資金調達成功時の、返礼品の説明。  300万円集めたい。  失敗しても、事業自…
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