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「このたびはご結婚誠におめでとうございます。本日はお二人の門出にふさわしい爽やかな晴天に恵まれ――――」
燦々と照り付ける太陽が海面で反射して、その煌めきがすぐそばの丘に建つ教会を照らしている。つい先程まで新郎新婦の愛を誓い合ったそこが、下に望むガーデンにて微笑む二人と、二人のために集う親族や友人、彼らを祝福する全ての者たちを見守っているような穏やかな雰囲気の中、披露宴は行われていた。
この日のために新調したグレーのスーツを身に纏い、新婦の上司の祝辞に耳を傾ける伊織は、今日の天気に負けないくらい晴れやかな表情の新郎へと顔を向けた。
新郎、高峰 翔太は伊織の視線に気付くと、はにかむような笑みを浮かべた。
高校時代からの友人。途中で仲違いもしたが、そのときの彼の言葉で伊織は詐欺紛いのブラック企業を辞める決心がついた。
会社を辞めたことを伝えて謝罪した伊織は、再び高峰と交友を持つこととなったが、内心では高峰に対してかなり謝意を感じていた。
会も進み、フラワーシャワーのための花弁をスタッフから貰っていた伊織の耳に、嘲笑が聞こえてきた。
見ると新婦の友人だろうか、見知らぬ女性が二人、顔を寄せ合って噂話に興じていた。本人たちはかなり抑えめな声で話しているつもりだろうが、そういう場合に限って耳が拾ってしまうのは何故だろうか。
「デキ婚」だの「玉の輿」だの、場にそぐわない言葉が聞こえた周囲が彼女たちを白い目で見るが、二人は気付かない。
このままだと新郎新婦、そしてその家族の耳に入ることも有り得る。
伊織は眉を顰めると、二人の元へ向かった。
「めでたい席で話す会話じゃありませんよね、それ」
「だ、だって本当のことだから……」
「本当のことだろうが何だろうが、貴方たちにはそれを笑う権利も、この場に水を差す権利もないはず。本当の友達なら今は二人の門出を祝うのが筋じゃないですか?」
声を荒らげることなく淡々と諭す伊織に、やっと己に向けられる視線に気付いた二人は、スタッフから花弁を受け取るとそそくさと離れた列に移動して行った。
穏便に済んだことに安堵の息を吐く伊織の肩をぽんっと軽く叩いたのは、学生時代高峰と共によくつるんでいたもう一人の友人だ。
女性たちの会話に気付いていたものの何も出来なかった。そんな自分と違い、あっさりと解決してみせた伊織に、橋田は賞賛の瞳を向けた。
「お前すげぇな、かっこよかった。俺なんて女怖ぇって思いながら見てただけだし……」
「はは、俺だって怖かったわ。ビンタされたらどーしよーって。でもやっぱ、せっかくの結婚式でアイツに気分悪くなって欲しくないしさ」
「ふぅん。やっぱお前変わったよな。もちろんいい意味で! そういうの彼女の影響っつーの?」
「どうだろ。でも新しい発見みたいなのは結構あるし、そうなのかもな」
談笑する二人の耳に「新郎新婦が退場します」とアナウンスが聞こえた。
通り道を挟むように出来た列が、二人に色とりどりな花弁の雨を降らせていく。
自分の番になった伊織が花弁を放ったそのとき、海から一陣の風が吹き抜けた。
風で舞い上がる花弁に皆が顔を背ける中、伊織は上空に龍を見た。
龍にしてみれば、単に通り道だっただけだったのかもしれない。けれど今、このときに現れたことになんだか嬉しくなって、伊織は静かに一筋の涙を流した。
これで完結です。
最後までお読みいただきありがとうございます!
私の元職場にも沼田のような理屈ではなく何にでも文句を言う人間がいました。
私は転職しましたが、今でも当時言われたことを思い出してはむかむかしています。
今まさに職場の人間関係に悩んでいる方、これからも同じ場所で働くにしても転職するにしても、数年後に後悔しない選択を選んでいただければ幸いです。




