女神のお仕事 その3
狐っ娘を見送ってからは特に問題はなかった。このペースで無双すれば余裕が出てくるだろうと言うタイミングに来たのは、霊格の高いドM。
キリッとしてて中性的な容姿の女性だが、魂の形の状態から亀甲縛りで猿轡を噛み、頬を紅潮させている姿はどう見ても変態のソレであった。霊格は高いのに。
「ようこそ、転生斡旋所に。担当のリリシィです」
あくまでも平常心で対応するのはブランクがあってもベテランと言うべきか。先の二人と変わらない挨拶と紹介を行う。
「モググ、モグググ、モーグググ」
「すみません。その猿轡とってもらってもいいですか? 何言ってるのか聞き取れないので」
いくら同族とは言え、仕事をするに至ってはかなり面倒な状態である。勿論そのめんどくささも興奮しながら楽しめてしまうのがリリシィではあるが、それよりも転生の斡旋をしなければいけない。それも出来る限り転生者の希望に沿って。
なので聞き漏らし等がないようにしなければならない。
もっとも、すでに聞き漏らしてはいるのだが、それ以上聞き漏らさないようにするためのやり方である。
「モグ……モググモグッグググ、ムグググモ」
女性は縄に目をやる。おそらく両手が縛られてて話せないと言いたいのだろう。
仕方ないのでリリシィは女性の猿轡をほどくと、大きく深呼吸をしてリリシィに頭を下げる。
「どうも、クノです。お見知りおきを」
クノが改めて自己紹介をする。猿轡が結構強めに縛られていたせいかそこだけ痕になってるものの、少しもしないうちに痕は消え去った。
「では気を取り直して。ようこそ、転生斡旋所に。今回クノさんの斡旋のガイドを行わせてもらいます。リリシィです。よろしく」
詩同様名刺を創り出してそれを渡す。代表取締役の文字を目にしてクノは呆気にとられた。
「では早速執り行わせてもらいます。始めにどんな世界がいいか希望はありますか?」
「SMがある世界で」
とは言えクノはそれでも自分の趣味を貫いたが。
さすがにこの即答にはリリシィも引いている。クノは自ら被虐趣味を持ったのに対して、リリシィは詩からの折檻等を受けているうちに被虐趣味を持った。それがこの差となった。
仕方ないのでSMがある世界と検索をかけても霊格の高さからヒットする事がない。いや、正確に言うとどの世界にもSMがあるために検索がかかってないのと同じになってしまう。業の深い星々である。
「ええっと、他に希望はありますか? なければこの世界でもいいですけど」
「そうですねぇ……では触手がある世界で」
クノヤバい。素直にリリシィはそう思った。ここまで酷いとラストピアに居ない方が平和だと心の底から思った。
とりあえず検索をかけてみる。そこには目を背けたくなるほどエグいのから、これを触手と言ってもいいのかよく分からないもの。果てには触手と人が混ざり合ってるものまで様々だった。
これを見せたら果たしてどんな反応を示すのか。リリシィはほんの少しだが興味をひかれる。
そして意を決して検索結果をクノに見せた。
「 」
何も返って来なかった。それどころか色彩が白のみとなっていて、だんだんと顔から赤く染まっていくのが目に見える。
これはあれだろうか。そこまでのものを見た事がなかったパターンだろうか?
とは言え何時までもこの状態にしておく訳にはいかない。
「すみませーん、クノさーん。聞こえてますか?」
顔のすぐ目の前で手を振ったり顔を近づけたりするものの「あひゅぅ」としか言わない。
とは言えこのまま放置して他の部屋で対応するのも面倒な事に。だからと言ってリリシィ本人もこの場でクノが正気に戻るのを待つだけと言うのも、折角出来てきた余裕が潰れてしまう。
ドMなのかピュアなのかどっちかにしてもらいたいものだ、と一人ごちる。
女神になる前までは確かにこの仕事をしていたが今回のようなケースは極めて稀だった。それこそ片手で数えられる程度の事だ。
「ふぅー、仕方ないか」
リリシィは長いため息を吐くと、手元のホログラフィーをいじり始める。流石に何もしないでいると時間のムダだし余裕を丸々潰さないための最終手段。たった一つの冴えたやり方と言うやつである。
スキルやステータス他、産まれる環境を決めておきクノが正気から戻ったタイミングで――
「それでは、良い人生を」
「え――え?」
クノの魂は光の粒子となって天に昇っていく。
「ラストピアの脅威は一応去った……!」
ブイサインを天に掲げリリシィはこの日一番の笑顔でそう言った。
これでリリシィの今日の仕事は一通り終了したのだった。
これで女神のお仕事編終了です
それとお知らせがありまして、よければ活動報告の方で見てもらえるとありがたいです