五人対七十匹!? 絶鬼組での戦い
「本当に倒せるんですか?」
俺は先輩にそう聞いた。
「倒せもしない敵を倒そうなんて夢物語は語らないよ。ましてや可愛い後輩たちの命預かってんだからさ」
先輩はいつになく真面目だった。
「…でもね、クロマ」
急に小声で先輩に似つかわしくない声を出した。
「私は弱い。みんなを守れるほど強くない。でも守らなきゃいけない。それが私の使命だから。だから私は強く振舞う。それでも…守りきれなかった。絶鬼組のみんなは、私を信じて戦って…化け物にされた。だから、私はここの五人を守れるか正直不安なところがあるの…。クロマ、私の代わりはあなたしかいない。あなたはみんなを守る強さを持ってるんだから」
「先輩…。俺はそんなことないですよ…」
「ふふっ。今はまだ私の方が強いかもね。絶対守ってみせる。先輩として」
決心した顔。先輩のこんな顔は久しぶりに見た。
「なになに? 先輩とクロマ二人して何喋ってんの?」
暗い空気を読んだのかどうなのか分からないが、楽しそうにシノリは話しかけてきた。
「シノリ、私が守ってあげるから、怖がらずに撃っていいよ?」
「ふえ? あ、分かってますよ。エン先輩」
「…みんな、こっち隠れる」
カホが指差した方向にみんな隠れる。茂みの中だった。
「フォーメンションはどうするんですか? 」
「うーん。フォーメンションだけど、クロマとユナちゃんで前衛、私とアタルで中衛。で、シノリとカホで後衛して」
「見えてきましたよ…大軍が」
アタルは言った。見るとかなりの数だ。
「さ、シノリが撃ったらスタートってことで」
パァン!
先輩が言い終わるのが早いか、シノリが撃った。
「シノリ早いって」
「そうです?」
そんな二人の会話を横耳で聞きながら、俺とユナは吸血鬼の群れに突っ込んだ。
「『紫王』!」
ユナがそう叫ぶと、紫王と呼ばれた刀の刀身が紫に怪しく光った。
「吹き飛べ」
一太刀。ユナが刀を振るっただけで、吸血鬼の大部分が消沈した。
「俺も負けちゃいられないな。行くぞ『表裏』」
俺も鬼に斬りかかった。
グォォォォォォオ!
「うわっ!」
隣でいきなり、岩の化け物が姿を現した。
「鬼岩城か?」
グォォォォォォオ! と俺の問いなど知ったことかと吸血鬼を薙ぎ払っていく。
「ん?」
一瞬、何かに違和感を感じた。何か見知ったものが視界に入ったような気がした。
「はっ。ははは。はははははははは! クロマァ。久しぶりだなぁ。おい!」
右。空中に知っている顔がいた。違和感はこいつか。
「ハヤト」
「さぁ、早く戦おうぜぇ!」
人からしてみれば尋常じゃない速度でハヤトは迫ってきた。
あくまで、人からしてみれば。
「はっ!」
キィィィン! と、表裏とハヤトの爪がぶつかり合った。
「死ねぇ! クロマァ! あん時の…あん時の恨みだあぁぁぁ!」
「あん時…過去に囚われてるやつは、大抵失敗するんだぜ?」
もはや、聞いていなかった。ハヤトは目に狂気を宿していた。
「ウガァァァァァ!」
「力が!?」
刀にかかっている力が強くなっていく。
「ぐっ!」
なんつー力だ。表裏がキリキリと悲鳴をあげていた。鬼と人の差がこんなにもあるのか…。
「くそっ…負け」
パァン! そんな音と共にハヤトは倒れた。
「…シノリか」
「グァァァ! 頭がァァァァ!」
スナイパーは心強いな。そう思い、俺はハヤトにトドメを刺した。
「永遠に眠ってろ」
よし。つ…ぎ…?
「あれ? もう居ない?」
「あ、クロマくん、終わったみたいだよ」
「…ユナ、お前一人で全部倒したのか?」
「いやいや、エンさんが途中から参加してたよ」
ああ、そういうこと、と納得した。
「うわぁぁぁ!」
少し遠くで、アタルの叫び声が聞こえた。
「まだ、残ってたのか!?」
「行こっ。クロマくん!」
「おう」
俺とユナは声が聞こえた方へ駆け出した。