エンを探せ『白猫』本領発揮!
"クロマ!"
誰? 俺を呼ぶのは…誰だ? ミナ?
「…きて! 起きてクロマ!」
「あ、ああ…シノリ? …痛っ…」
「良かった…。まだ寝てていいよ。ミナも起こさなきゃね」
…エン先輩はどうしたんだ?
「ミナ! ミナ起きてよ!」
急に少し遠くでシノリが喚きだした。
「どうした…?」
痛む身体を起こして、シノリのところまで歩いた。
「ミナが起きないの。心拍も弱くて…」
「まさか! おいミナ! ミナ!」
なんで起きない…!?
「ミナ! 起きろよ!」
起きない。しかもだんだんと弱っているようにも見える。
「くそっ! …っ!」
斬られた傷の痛みが酷くなっていく。
「あーもー!こういう時のために持ってきておいて正解だったかな。治せ『島風』!!」
傷がだんだんと治っていく。治療系の聖武器か。
「…ミナにも使ってやれ」
「違うの。ミナ、怪我なんてしてないの」
「じゃあどうして?」
「分からない」
治療する手立てはない。となると
「動くしかねえ、か」
「どこに行ってみる?」
「お前なあ…帰るしかねえだろうが」
「私、帰り方分かんないよ?」
「なんでここまで来れてんだ」
「闇雲に走ってたら、倒れてる二人を見つけたの」
「ああ…なるほど」
つまりは、俺らは帰り道を知らない迷子になったわけだ。
「そういや、近くにキョウの家があるはずだ」
「家?」
「地下で暮らしてた人の家。確かこっちを左に…っ!」
壊されていた。キョウの家は見るに無残な姿にされていた。
「…引き返そう」
「そだね」
詰まりかけ、と言うよりも詰まった。
そう言えば、『紅櫻』に探査の性能があったような。あれ? 『蒼櫻』だっけか?
「…『紅櫻』がない?」
ミナは『紅櫻』を持ってなかった。
「くそ。持っていったのは先輩か…?」
俺らが死んだり、吸血鬼にもなっていないところを見る限りでは吸血鬼の仕業ではないということだ。いや、わかんねえけど。
『紅櫻』と『蒼櫻』の対を成す二つの武器を集めてすること…?
「…ねえクロマ、聞こえない?」
「なにが?」
「祭りの音。賑やかな感じの」
そう言われ、耳を澄ませてみる。ああ、確かに聞こえる楽しそうな祭りの音が。
「…この御世代に祭りだと?」
「吸血鬼かな?」
「分からない…けどまあ、その可能性が一番だろうな」
「どうする? 行ってみる?」
「…そうだな。様子見だけして、ヤバそうだったら引き返そう」
たぶん、本気でやばかったら引き返せもできないだろうけれど。
「うん。音を頼りに行こう」
とは言ってもこんな場所じゃ音なんて響きまくりだ。どこからかなんて全くわからない。
「んー、こっちだね」
「分かるのか? シノリ」
「クロマ、なめてるでしょ?」
「は? んなわけねえよ」
「『白猫』の性能は可視化。音の発生源だったり、視覚以外の感覚を可視化する性能…って、クロマは知ってることだったね」
「まあな」
「よし。こっちだよ!」
「おう」
ったく、ミナが軽くて助かったぜ。あと胸が小さくて。
「!? 待って。何かある…」
シノリは縁の方で屈んだ。
「…これ、まさか」
「なんかあったのか?」
「い、いや。何にもなかった。勘違いだったみたい」
「そうか」
「うん。あ、そこ真っ直ぐ」
「おう」
「ん…」
「ミナ?」
背中に背負っていたミナが僅かながら動いた。
「…クロマくんだ…って、えっ!?」
あ、これ完璧に起きた。なんで普通に起きてんだよ。まあいいけど。ん? クロマくん?
「あれ? ミナの『紅櫻』は?」
「盗られた。『蒼櫻』と一緒にな」
「あ、そなんだ」
「そんなに驚かねえんだな」
「驚いても返ってこないからね」
「そうだけどさ…」
なんだか違う気がする。なんて言うかミナ…なのか?
「あ、クロマくん、今、私のことミナじゃないとでも思ったでしょ?」
少し怒った口調でミナは言った。
「まさか。変なこと言うなよミナ」
「いやいや。正解なんだけどね」
「は?」
「私はアイノセユナ。アイノセミナの妹」
「悪い冗談はやめとけよ」
「精神体なの。姉のミナと私はこの身体の主導権をころころと回してるの」
「精神体? いや待て、ちょっと話を聞きたいから、シノリ!」
「ん? 呼んだ?」
「ちょっと待ってくれ、ミナが起きた」
「そなの!? なら、ちょっと休憩!」
「…シノリ?」
とミナは…ユナは言った。
「なに? …えっとミナ、その誰お前みたいな顔に対して私はどう反応すれば?」
「うっ、ごめんなさい」
「まさか記憶喪失とかいうやつ?」
「そうじゃなくて…私はアイノセユナ。ミナの妹」
「え? そなの?」
「うん」
「なんだ。それならそうと早く言ってくれれば早々と自己紹介したのに。私はキキノヤシノリ。よろしくね」
「よ、よろしく」
…現実対応能力の高さ半端じゃねえな。まあ、シノリはあれを経験しているからな。仕方ないか
「なら、ミナは?」
「…連れて行かれた。私の中に居ないもの」
先輩が連れていったのか?
「…そっか。なら早く動こう?」
「そうだな。ユナは歩けるか?」
「うん」
「なら、大丈夫だな」
「あ、ならユナちゃん回復役でもしてみる? 『島風』あるからさ。これ誰でも使えるし」
「はい。それで役に立てるのなら」
「じゃ、行こ! お祭りに!」
なんでそんなハイテンションなんだ。疑問に思ったが、そういえばいつもこんな感じか。
「…こっち」
俺ら二人は、シノリに言われるがままについて行った。そうしているうちに開けた、ちょっとした村のような場所に出た。
「こっちに隠れよう」
「うん」
俺らは物陰に隠れ、辺りを見回した。
「空が岩ってところを除けば、普通の村…いや町と同じだな」
「…クロマ、ここやばい」
隣にいたシノリが話しかけてきた。
「何がだ?」
「…吸血鬼の塊がいる。七、八十匹はいるよ」
俺はその言葉に絶句した。今までに相手にしたことのない数だったからだ。
「…応援頼むか?」
「…そうした方がいいかもね」
「すみません」
突然、第三者の声が聞こえた。何事かと思い、声の主を探した。
「っ!」
そして俺は驚いた。話しかけてくる人が居たなんて。
「あんたは誰だ」
「絶鬼組一番隊幹部のクサシジアタルと言うものです。あなた方をお迎えに参りました」
「迎えに?」
「ええ。私について来てください。案内します。我が絶鬼組組長ミドリカワエンの所へ」
エン先輩は俺たちを呼んで次は何をしでかそうって言うんだ。いや、その前に『紅櫻』と『蒼櫻』それにミナのことも聞かなきゃな。
「分かった」
俺らはアタルに連れられ、こそこそと吸血鬼に見つからないよう歩いた。
「ここが我が絶鬼組本部です。この中に組長はいます。入ってください」
塔のような場所だった。なんでこんなところで鬼に襲われないんだ?
"クロマ、この塔聖武器"
いきなりカズネが話しかけてきた。
驚くから、急に話しかけんな。
"うわそんなこと言うんだ。表裏にチクって来るもん!"
チクる、って…子供じゃあるまいし。
けどまあ、なるほど。それなら迂闊に吸血鬼も近寄れないわけだな。
塔の中は単純な構造で、一番上まで螺旋階段が続いているだけだった。
最上階と思しき場所には部屋があった。その奥、豪華な椅子になんの違和感もなく、先輩は…ミドリカワエンは座っていた。
「やあ、あんなことしてなんだけど、待ってたよ。クロマ」
先輩は不敵な笑みを浮かべるだけだった。