吸血鬼化! 最強のお出まし
グォォォォォォオ!
鬼岩城が、まだ吼えている?
「も、戻って『鬼岩城』!」
グォォォォォォオ!
カホの声の後に、また鬼岩城が吼えた。戻ってない!?
「ユナ、あそこだ」
「急ご!」
俺らはより一層速く走った。
「くうぅ!」
「エン先輩!?」
駆けつけた時には、なぜか、『鬼岩城』とエン先輩が戦っていた。
「…クロマ! 主人公でしょ…何とかしてよ!」
カホは俺を見るなり、そう言い泣き出した。
「な、何がどうなって…?」
「『鬼岩城』が独りでに暴れだして…私の言うこと聞かなくて…」
壊すほかない。直感でそう思った。
「わかった。ユナ! たたみかけるぞ!」
「う、うん!」
「『表裏』!」
そう言って、鞘から抜くと『表裏』の、刀身は紅く光っていた。
「な、なんだ?」
「『紫王』切り裂いて」
俺が驚き戸惑っている間に、ユナは躊躇なく『鬼岩城』を切り裂き、壊した。
「ふう…『鬼岩城』を敵に回すとあんなに強かったなんて」
エン先輩は、それでもやられてなかった。
『表裏』いるのか? カズネ?
心の中で俺は『表裏』に話しかけた。
"クロマ!"
カズネ、なにかあっ
"表裏が! 表裏が!"
カズネ、どうしたんだ?
"……クロマ、助け"
プツッと、音が聞こえたかと思うと、声はもう聞こえてこなかった。
「な、なんなんだ?」
もう『表裏』は紅く光っておらず、ただ、鈍い色を照り返すだけだった。
「ねえ、クロマくん」
「なんだ?」
「『鬼岩城』、どうして暴れたんだろうね」
「さあな」
「聖武器の吸血鬼化だよ。クロマ」
「え?」
ユナがいきなり、そう言った。
「聖武器の吸血鬼化」
「は?」
意味が分からず、つい声が漏れる。
「だから、聖武器の吸血鬼化だよ。って言ってんの」
三度目ともなると、流石に怒った。
「で、なんで、ユナは知ってるのに」
と、言いかけてやめる。こいつは今ユナじゃなく、ミナになっているようだった。
「おお。よく気付いたね、クロマ。昇進ものだよ」
「ミナ、聖武器の吸血鬼化ってなんだ?」
「んー、そのまんまなんだけど、聖武器にはそれぞれ人格が宿ってんの。私の武器なら、魔族の鬼なんだけどね。で、その人格が吸血鬼化するの。まあ、人に限るけど。さらに言うと、いま吸血鬼化してんの、鬼岩城と表裏だけだけど…、近くにあの人がいるのかな」
あの人?
「歴史に埋もれた人、ハセガワミユウが来てるのかな…とか」
ハセガワミユウ? 誰だそれは。歴史に埋もれた人とか言ってたな……寝てたから覚えてねえ…。
「いや、そもそも、アーサーが人類最強とか言ってる時点で間違えなんだけど、一番強いのはハセガワミユウだし…いや、あれを人というべきなのか分かんないけど」
博学…いや、何か違う気がする。
「お二人さん、何話してんの?」
エン先輩が、声をかけてきた。
「いや、ちょっと」
「上に帰るよ」
「あ、はい」
返事をして気づいた。何か足りない?
そう思い周囲を見回す。すると、あるべきものが…居るべき人がいなかった。
「エン先輩、シノリは…?」
「え? さっきまで近くに…居ないね」
突如として、胸が荒く鳴り始めた。
「…シノリ?」
悪い予感がする。そう思った時だった。
「やばいね。なにか来てるよ」
エン先輩がそう呟くのを聞いて、顔を上げる。
「確かに…やばそうですね」
真っ黒な何かが居た。形容のしようもなくただただ真っ黒。確実にやばい。
勝てるだろうか?
違う。野性が叫ぶ。
敵じゃない。また叫ぶ。
「まさか…あれがシノリだって言うのか…?」
表裏を抜く。見ると、また紅く光っていた。吸血鬼化、ねえ…。
「よし! 行くぞ!」
敵へ走り出せ!
パァン!
銃声を聞こえ、目の前を銃弾が通り過ぎるのが見え、急ブレーキをかけた。そして、弾丸の出所を探す。そして女を目が捉えた。
「クロマ! さっさと逃げて!」
その声は、やけに感動的に聞こえた。
「シノリ!」
「…逃げる? クロマ、指示して」
カホが俺を頼るように見上げる。
「エン先輩は他の人と先に逃げてください。俺はシノリを助ける!」
「分かった。絶対、追いついて来てよ!」
「分かりました!」