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中等教育学校

明治37年。

博之は中等教育学校に入学した。

校内で、吉兵衛と会う

『なあ、吉兵衛。おめぇは夢とかある?』

『夢なぁ、まだわがらねぇけど、船に興味ばあるな。』

『船がぁ、実はおらもなんだ。あの時船ば見ておらも、作って見てぇと思ってな。』

早速、あの時土崎で見た汽船の話で盛り上がる。

『あれば、格好良かったよな』

『んだ、2人協力して、あんな船ば作ろな!』

『んだな、とりあえず、授業さ戻らねど』

『へば、後でな』

『へば』

中等教育学校に入ってから暫くは、汽船の話で盛り上がり、いつしか2人共に夢を見、それに向かって進むようになっていた。

勉強に関しては、博之は、数学が特に優秀で、校内でも上のまた上と言った感じであり、対して吉兵衛は、英語に特に優れていた。苦手なものは、2人とも国語であった。

校内では、その中の良さから『磁石仲』と呼ばれるくらいの感じであったが、時に言い争うこともあった。

2年に昇級し、更に自分の目指すものに関して本気で考えるようになると、『高等学校』の必要性も見えてきた。この頃兄の英吉は、実家の畑を継ぐために東北帝国大学農学部を目指して日々を過ごしていた。兄は3年だが、その頃から決め勉学に励むようにしていたことが功を奏し、のちに東北帝国大学農学部に合格するところまで行く。

吉兵衛と博之が進路について語った日の夜、兄に博之が久々に話しかけた。

『兄さん、もう進路ば決まっただか?』

『おう、おら東北帝大の農学部さ行くことにしただ、おめぇは?』

『兄さん、おら船の設計士になりと思って、何処かええとこさあるかね?』

『ほいだば、東京さ行け?東京帝国大学の工学部だえ』

東京帝国大学。まだ先のことだとばかり思っていたが、兄の口からその言葉が出てきて、少し動揺した。数々の偉人を輩出して来た名門中の名門であるから、東北地方の人間に馴染みのある人は、この頃あまりいなかった。

定まらぬまま年が明け、気づけば明治40年だった。

何年も行ってなかった地元横手のかまくらを、この年は見に行った。あまえこ(甘酒)をひとつ口に、その甘さに惹かれながら、故郷を歩く。

『ここには、暖かさと思いでがあるな。』

と、心の中で言いながら、実家を訪れると

『おお!博之!まめでやってらが?(元気でやっていたか?)』

という父の声がまず聞こえた。嬉しい気持ちでほのぼのと真ん中の囲炉裏に近づいて、壺にあったがっこ(秋田弁で漬物)をひとつつまむ。中等教育学校に入ってから、暫くは寮生活をしていた博之にとっての実家の囲炉裏は暖かく、とても落ち着く場所だった。

夜になって父が酒を飲む。

『まめでなによりだば、今なに目指しと?』

『とりあずは、高等学校に行こうと思っています。』

あえて方言では話さなかったのだが、その博之の成長ぶりを見て嬉しかった父は

『将来、何ばなる?』

と聞いた。博之は

『船ば、作ろうと思ってます』

『おおそうか、んだば、大学さえぐんか』

『はい。兄に聞いたところ、東京帝国大学の工学部がえんだとか。だからそこさ目指して、頑張ります』

博之は真剣に答えた。

父は落ち着いた佇まいで、軽く頷いた。

こうして、4年次にはもう進路のめどがある程度ついていた。

5年に上がった。周囲には、畑を継ぐ者や高等学校、大学予科を目指しているものがそれぞれ居て、博之にとってはそれが自分を高める方法のうちのひとつとなっていた。

博之と吉兵衛は、その中の高等学校を目指す一員であったのだが、それぞれのクラスは畑を継ぐ生徒が多かった。そのため、勉強をする時は学校を出、近くの図書館に行っていた。

定まった目標のおかげもあり、2人は順調に勉強を進めることができ、試験の日にはやる気に満ち溢れた態度で会場にいた。

試験は14時、全ての教科の受験が終わり鐘が鳴った。

発表は1週間後、自信がありながらも、落ち着くわけではなく待ち遠しく感じていた。


一週間が経った。掲示板を見た博之は、更なる期待と夢に心踊らせながら、足早に秋田駅に向かった。

時に、明治43年春である...。

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