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第44話/99話 「見上げる 同じ夜空」②

 〇

    8月2日(火)

「おはよ。スズちゃん、ぶしつけなんだけど、頼らせてください」

 

「うん、おはよう、シオリちゃん。なあに、改まって。頼らせてって」

 

 ラジオ体操を終えたアタシは、頭を下げながらスズちゃんに話しかける。

 アキには、午前は少し遅れるから、先に行ってて、と言っておいた。

 顔の汗の玉がきらきら光って、スズちゃんは朝から輝いて見える。

 かわいい。

 

「サトミが、夏祭りと花火大会、来るの。あ、週末の市内の大きなお祭りじゃなくて、桜山の。……一緒に、サトミをもてなしてくれない?」

 

 どきどきしながら言ったアタシに、スズちゃんは、ぷっ、と笑いながらこう言った。

 

「なあに、それ。もてなすって。一緒に遊ぼう、でしょ。友達が帰ってくるだけなんだよ」

 

「あ、そ、そうか」

 

「もちろん、いいよ。サトミちゃんは私も好きだし。……シオリちゃんは言い方が大げさすぎるよ」

 

「ん……」

 

 無意識に罪悪感(ざいあくかん)を背負っていた心を見透かされて、アタシの心が軽くなる。

 ふふっ、と笑うスズちゃん。かわいい。

 アタシは、話を続ける。

 

「他の人も誘った方が良いかな? スズちゃんも知ってのとおり、アタシ、あんまり大人数はちょっと困るんだけど……。スズちゃんがいいなら、他の人何人か呼んでもいいからさ」

 

 なお、当然だが、多ければ多いほど、アタシの心の足は(すく)む。気分の心臓は委縮(いしゅく)する。

 スズちゃんは唇に、立てた親指を当て、考え、――考えながら答える。

 

「無理しなくていいよ。でも、そうだなあ……。ユミちゃんは呼んだほうがいいよ」

 

「……ユミちゃんかあ。……アタシ、苦手なんだよね……」

 

 アタシは少し考える。

 保健室に連行されたことに、悪意が無いのは分かっている。

 ユミちゃんの言葉からも、アタシを心配して家まで送ってくれたりする行動からも、アタシに悪意が無いのは、理性では分かっている。

 ただ、どうしても彼女の持つ圧が、アタシを委縮させる。

 なんとなく、苦手。それがアタシのユミちゃんへの感覚だ。

 

 ……ん。

 ふと、アタシは、少しの違和感(いわかん)に気づく。

 アタシは、『ユミちゃんがアタシを嫌っていそうだから』ユミちゃんが苦手なのではなかったか。

 悪意を持って接してくるように感じるから、彼女が苦手なんじゃなかったか。

 ユミちゃんに、みんなのリーダーとかクラスのカースト最上位の圧があるから、それで嫌っていたのではなかったはずだ。

 ユミちゃんに悪意が無いのが分かり切っている今、アタシが引け目を感じる理由はない。

 何かがおかしい。多分アタシが気づいていない何かがある。ずっと、友達みんなの前や、指名されたときに固まってしまう自分を、直視できなかったように。アタシが直視できないか、認めたくない何かがある。

 

 ――ツンツン。

 と、思考を、アタシのほっぺをつつく、スズちゃんのかわいい指が(さえぎ)る。

 

「大丈夫? ユミちゃん呼ぶのそんなに嫌?」

 

 少しの間、思考のせいで動きが止まっていたらしい。

 スズちゃんはこんなときの気遣いもうまい。アタシには真似できない。

 

「あ、ああ。いや、どうなんだろう。サトミは喜ぶかなあ? 2人は仲が良いの?」

 

「うん。絶対喜ぶよ。あの2人、すっごく、仲良いよ」

 

 スズちゃんの声は確信に満ちている。

 アタシは、サトミとユミちゃんが2人で話しているところを、見た記憶があまりない。

 

「そっか。でもユミちゃん、去年は友達みんなでいたんだよね。あんまり呼ばれると困っちゃうな……」

 

 口に出したところ、去年の、サトミと2人のところを、大勢に囲まれて、すごく嫌だった記憶が体に蘇る。嫌とはその場で言えなかったのだけれど。

 気分だけで、胸が少し苦しくなり、思わず(おさ)えてしまう。

 ふっ…。ふっ…。あ……。少し呼吸が乱れる。多分心拍も。

 はあ~~~っ、はあ~~っと、深呼吸をして、必死で体を整える。

 ふう……ふぅ……。

 アタシはまだ整わない荒い息をしながら、スズちゃんを見やる。

 スズちゃんは黙って待っていてくれた。

 

「ごめん、……少し思い出しちゃって」

 

 さすさす、と。

 スズちゃんは、(ふる)えているであろうアタシの背中を、手でさすりながら言う。

 

「大丈夫だよ。……大丈夫だよ。……去年のことはユミちゃんから聞いてる。ユミちゃん、すっごく気にしてた。だから、今年は、他の子たちとじゃなくて、1人で来てって。私たちと遊ぼうって言おう。ユミちゃんと、シオリちゃんと、サトミちゃんと、私、4人で過ごそう。それが一番いいと思う」

 

「ん。……ユミちゃん、大勢じゃなくて、アタシたちと行こうって誘って、きてくれるかな? 友達多いし、他の誘いもあるんじゃないの?」

 

 アタシは、クラス内でカースト上位の、他の子たちの真ん中で笑っているユミちゃんの顔を思い出す。

 あっちを抜けて、アタシたちの方にくるだろうか。

 いくらサトミと仲が良いとしても……。

 スズちゃんは、アタシの背中をさする手を止める。

 バン、とそのまま軽く背中を叩くと、朝の日差しに負けないくらい、力強く微笑(ほほえ)んでこう言った。

 

「サトミちゃんが来なくても、ユミちゃんは、シオリちゃんが誘えば、最優先でこっちに来るよ。だから、大丈夫! 私と一緒に誘いに行こう」


 〇

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