第26話 チャールズ・ウィル・ロビンソン
ニューヨークでの公演はあっという間に終わり、サンフランシスコでの公演も大盛況だった。残すは、ロサンゼルスでの公演のみとなり、僕達もアメリカの空気感に慣れて来た。
ここロスは、ニューヨークに次いでアメリカでは2番目に人口が多い都市だ。主にハリウッドの観光地として有名だけど、他にもロサンゼルス・ドシャーズの本拠地でもあり、在籍する小谷翔平選手の活躍と人気は目覚ましい所だ。
ニューヨークとサンフランシスコでの公演がニュースになった事もあり、僕達のアメリカでの知名度も上々だ。3人で通りを歩いていると、聴き取れない発音で声を掛けられる事が多くなった。
中には僕達が日本人だからと言う理由で、「小谷翔平選手に会った事があるか?」と全然関係ない事で話し掛けられた事もある。「僕達もまだまだだね」と3人で笑った。
今朝は急遽、8時から始まるドシャーズの試合の始球式に呼ばれた。7時50分過ぎに3人でグラウンドに登り、持ち歌を1曲披露した後、春美が露出高めのオリジナルユニフォームで投球した。
これが際どい衣装であった為に、児ポに厳しいアメリカで物議を醸して炎上した。この後、事情聴取を受けたりと騒動があったのだけど、結果的には14歳らしからぬナイスボディな春美の人気と知名度は跳ね上がり、日本でのフォロワー数が60万人くらいだったのに、一気に3400万人に膨らんだ。
中国には1億人超えのフォロワーを持つ女優さんもいるけど、1000万人超えは日本人では数えるほどしかいない。春美は一躍、世界が注目するトップスターの仲間入りを果たした。
僕も同じグループである恩恵を受けて、100万人のフォロワーが1000万人に増えた。
アメリカでの人気が爆発したSweetStarsは、ロスでの最終公演は大盛況のまま終わった。
「あれ?春美は?」
「チャックに誘われて出掛けたわ」
「チャック?」
「チャールズ・ウィル・ロビンソンよ」
「えっと…知らないや」
「本気で言ってるの!?Mizuki!」
チャックの愛称で知られる彼は、ハード系ロックバンドのボーカルであり、肉体派アクション系のハリウッド俳優でもある。
「あのチャックよぉ。春美が羨ましい」
僕はどんな人かネットで確認してみた。
「えっ?これって…」
「あ、うん…まぁ、だから誘われたんでしょうね?」
チャックには過去に、少女に対する強制猥褻の疑いがあった。多額の示談金によって書類送検だけで済んでいた。
「この人、少女性愛者だよ!春美は大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないに決まってるじゃない?でも春美は、勝負下着を選んでいたわよ。チャックのファンなんだって。抱かれるの承知って言うより、抱かれに行ったのよ」
「ちょっと待ってよ。何でそんなに平然としてるの?チャックって40歳超えてるじゃん。春美は…まだ14歳だよ…」
「恋に歳は関係無いでしょう?春美が好きな人なんだから、応援してあげましょうよ」
「遊ばれるだけに決まってるじゃん!」
「Mizuki!それ以上言うと、怒るわよ?」
「僕、もう知らない!」
走って部屋を飛び出した。無性に胸が苦しくて涙が止まらなかった。この胸に湧き上がって来るこの感情は知っている。
「うえぇぇんっ」
噴水公園の広場で腰掛け、1人泣いていた。春美を取られた気がして、胸が張り裂けそうだ。そう、僕は嫉妬していたのだ。
「お嬢ちゃん、どうしたの?」
「こんな所で泣いてないで、楽しい所へ行こうよ」
若い男の人2人に声を掛けられ、断ると白人男性から強引に腕を掴まれて立ち上がらされた。そして、黒人男性に肩を抱かれて無理矢理に連れて行かれそうになった。
「嫌だ、止めて!」
身動き出来ない様に抱き締める手は、僕の胸を掴んでいた。ここはアメリカだ。抵抗すれば殺されるかも知れないし、レイプされた後に殺されるかも知れない。怖くて震え、思う様に声が出せなかった。
そのまま路地裏に連れて行かれそうになり、もうダメだと絶望した時、僕を探しに来た扈マネージャーが現れた。
「止めなさい!その娘はまだ14歳よ!放してあげて。代わりに私が相手をしてあげるわ。そんな小娘よりも私の方が良いでしょう?」
「はははは、アンタが俺らの相手をしてくれるのか?まぁ良い。こんな美人とヤレるなら交渉成立だ」
「Mizuki、お願いだからホテルに戻って。レイプされてる姿を見られたく無いの」
僕は泣きながら走って去った。僕のせいで扈マネージャーが、酷い目に遭わされる。全力で走り、警察を探したが直ぐには見当たらず、ホテルに立っている警備員を思い出した。
「お願いします!助けて下さい!」
ホテルの客がトラブルに巻き込まれた為、渋々に警備員の1人が僕の後について来た。
「お嬢ちゃん、こう言うのは困るんだけどね。宿泊客だから仕方ないけど…」
腰の拳銃に右手を掛けて、屈強そうな警備員は走った。
「あっ!扈さん!?扈さん、大丈夫でした??」
扈マネージャーが、悠然と前から歩いて来たので驚いた。往復でまだ10分も経ってはいない。相手は2人だ。そんなに早漏なはずが無いと思って尋ねた。
「大丈夫よ。お金で解決したから。あの人達だって、犯罪者になりたく無いでしょう?大金を渡して、これで女を買えば良いでしょう?と言ったのよ」
僕は扈マネージャーの恐ろしさをまだ理解しておらず、素直に彼女の言葉を信じた。
「良かった、無事だったんですね?では私はこれで」
警備員さんに頭を下げてお礼を述べ、背中を見送った。
「Mizuki!ここは日本じゃないのよ?銃大国アメリカよ。銃を突き付けての強盗、強姦、殺人なんて頻繁に起こっているのよ!分かってるの?心配させないで、お願いだから…」
扈マネージャーの涙を見て、もの凄く反省と後悔をした。そして、もう少しでレイプされて処女を失っていたと思うと、ゾッとした。
事実アメリカでは、殺人は31分に1件、強盗は1分に1件、レイプは6分に1件、窃盗は4秒に1件発生している。
その晩、春美は帰って来ず、僕は精神的に不安定になり、医師からもらっていた精神安定剤と睡眠導入剤を飲んで早目に寝た。




