はじまり
「仕事終わったから今から帰るわ!」
「了解」
夫が仕事疲れで、今にも死にそうなのにLINEで「了解」の二文字だけとは…前は少し違ったのにな…
今の妻と出会ったのは大学のころだった。
妻の月のように輝く目を見た瞬間…俺は彼女に一目惚れした。
今日みたいな月明かりが照らす、この歩道橋の真ん中らへんで友達と待ち合わせをしていた妻と出会い、ナンパして、今に至る。
娘にはこんな出会いかたは紹介できず、お見合いで結婚したと言うことになっているが…
まぁ、そんな妻との毎日は楽しかった。
毎日のようにデートして、指輪をもって、出会った歩道橋でプロポーズした。
まぁ、このエピソードは普通に良い話だから娘には是非とも紹介したいのだが…
今は…ただただ、家にいる存在としか思われてない。
まぁ、こんなのがふつうの一般家庭のあり方なんだろうけど…
俺も、仕事に明け暮れて娘の面倒とか家事とか押し付けてるのが悪いんだろうけど…
なので今日は妻の大好きなスイーツを買ってきた。
喜んでくれると嬉しいのだが…
「ん?」
歩道橋の階段を上がり、道を渡ろうとすると一人の女性が今にも飛び降りようとしていた。
「みてみて、」
「やばくね?」
「おいおい飛び降りとかうそだろ?」
みんなざわめいているだけで助けようとしない…
「なんでだよ!」
あぁ、あの時だ、妻の大好きなスイーツを頬り投げたのは…
あの時戻っていれば…
「バカなことはやめろ!」
飛び降りようとしている女性は話を聞かず、手すりの上にたった。
「危ない!!」
そう言った瞬間彼女は俺の目を見た。美しい、月のようだった。
その後俺は彼女を手すりから下ろし、その勢いで歩道橋の上から落ちた。
目を覚ますと、妻は「なに、やってるのよ」と言いながら涙を流していた。
「お母さん!お父さん目を覚ましたよ!」
「え!?」
そして妻は俺の手を握りしめてくれた
そして「よかったよかった」とずっとその言葉を連呼していた。
「あれ…あの子は…?」
「あぁ、あの子は…」
そう妻がいいかけると一人の女性がドアを開けて入ってきた。
「目を覚まされて…本当によかった…」
一段落して彼女を妻が警察に保護してもらうように電話をかけようとした。
しかし、彼女が頑なに「嫌だ」と首を縦にふらなかったので事情を聞くことにした。
「なにか事情があるのかい?」
そう聞くと彼女は妻の顔を見て言った。
「わたしのこと…覚えていませんか?」
妻はなにか思い当たる節があるらしく考え込んだ。
「にしても…なぜ…自殺しようとしたんだい?」
彼女は「それは…」となにか言いそうだったがそれをためらった。
すると、娘は「だめだよ!自殺なんてしちゃ!」と5歳児ながら良いことを言った。やっぱり妻に似てる。
妻は八っと、なにか思い出したような身振りをして彼女を見た。
「あなた…私…?」
唐突に訳のわからないことを言い出したものだから、俺も頭がこんがらがった。
「どういうこと?」
そう妻に尋ねると、少し考え込んで教えてくれた。
「ほら…あの時…あの歩道橋であなたが私に指輪を持ってプロポーズしてくれたじゃない?あの後私…恥ずかしくなって逃げちゃったじゃない…」
妻の言葉に続けた。
「そして、その後音信不通になって親御さんとかに確認してもいえには帰ってきていないって、言われたから…とにかく警察に行こうと思ったんだけど、そんな大規模な捜索とか行われても君がこまるとおもったから、君の逃げ際に俺が場所を言ってそこで君の返事をずっと待ってたんだよね」
するとずっと黙り込んでいた彼女が言った。
「歩道橋でまってるわ」




