四日目(12)
若干、瓦解しつつあります。少し焦っています。一万文字超えてるのに大して事態は進んでいませんし。終盤に出るはずの人物が、半分まで来てない現段階で顔を出してしまう先走り感が否めません。よろしくお願いしまーす♪
※2020/10/05 6:08 早急すぎる関係性を整えました。
「ぅわ、なんだよっ!?」
カフェのカウンターで受け取った小振りの段ボール箱が、テーブルの上でカタカタと揺れている。
「コレ間違いなく、さっき甲月……が持ってた段ボール箱だよな?」
厨房の奥から出てきた天文台の職員さんは、会田さんと監査部本部長の中間くらいの年齢の男性。
とても親切で不自然なトコなんて全くなくて、鶯勘校の回し者にはみえなかった。
遠くの駐車場から何らかの手段で送りつけたのは、いつもの悪魔的な手口だろうから、それを気にしても仕方がない。
いま気にしなければならないのは、箱に印刷された『極秘装置』ってところと、箱の不可解な挙動だ。
カタカタカタッ、ポコス!
カタカタカタッ、ポコス!
絶えず振動してたかと思えば、ときどき太鼓みたいな音をたてて大きく跳ねる。
どうも、〝中に入ってるヤツ〟が中から箱を叩いているみたいだ。
僕の他に客が一人も居なかったのは助かった。
何の変哲もない段ボール箱がリズミカルに飛び跳ねてたら、科学者じゃ無くても不審に思われていたからだ。
「よし、まずは、安全を確保……するぞ」
僕の〝トグルオーガ長袖Tシャツ〟には、耐熱耐爆や防刀ならびに、衝撃緩和機能なんて付いてない。
ふたつ隣の席に移動して様子を見る。
ポコポコポコン……ぱたん!
段ボール箱が飛び跳ねた勢いで裏返った。
そして――。
ポコポコポコン……ぱたん!
ポコポコポコン……ぱたん!
「な、なんでコッチに、転がってくるんだよ?」
僕は反射的に席を立ち、後ずさる。
ポコポコン……ぱたん!
ポコン……ぱたん!
ポコ、ぱた、ポコ、ぱたぱた、ポコぱたん!
「……速度アップしてる……ひょっとして、学習してるのか!?」
こりゃ、だめだ――すたたたたっ!
外に開けたテラス席の方に、更に大きく距離を取った――。
――――ポッコォォォォォォォォォォォォォォォォン!
箱が僕を追いかけるようにテーブルの端から大ジャンプした。
「うわっ!? ――――だだだだっ!
一瞬の躊躇の後、必死に駆け戻る。
――――パシンッ!
ギリギリの所で、なんとかキャッチできた。
だって、『社外秘』で『極秘装置』だしっ!
床に落としたらどうなるかわからない。
――――僕に抱きしめられた段ボール箱は大人しくなった。
「受理ちゃん、聞いてる? コレって甲月……さんが持ってたヤツでしょ? 触って大丈夫なモノ?」
「プルルッ――ピッ♪ はいはぁい、聞いてますぅよぉう❤ ソチラは、手にして頂いて問題ありませぇ~ん。というより、どうぞ、箱を開けて中身を確かめて下さいまぁせぇ~♪」
いま受理ちゃん達の本体である〝通信端末〟は全て住居ローダーに収蔵されている。
そして、仮設トイレな形状の天井から突き出た、飴細工みたいな変な形の複合アンテナ経由で、実際に外線通話をしてきているのだ。
受理ちゃんが本気を出したら目の前に出現する事も朝飯前だし、なんなら穏やかなBGMを奏でるカフェのスピーカーを通して会話だって出来る。
けどオーバースペックである鶯勘校研究所の技術的水準を推し測られることは、どうしたって避けた方が良いに決まってる。
その為には、天文台の研究者や関係者達に、行動を不審がられないことが肝心で。
――という割りには、こんな〝怪しい箱〟を、〝奇抜な手段〟で送りつけたりしてるけど、そのちぐはぐさも鶯勘校研究所の特色ではある。
バリバリ、――意を決して箱を開けた。がさがさ、ごそごそ。
「………………これは、双子とか次葉ちゃんに見せたら、取り合いのケンカになりそうだ」
ソレは、どこからどう見ても『光線銃』だった。
しかも相当レトロで、見た目が超コミカルなヤツ。
光線銃には、手書きの荷札が、細い針金でくくり付けられている。
甲月の丸っこい文字やリィーサの整った文字と違って、走り書きしたようなソレは『測位衛星用地球局』ってかろうじて読めた。
――――――――ヴヴヴヴヴヴヴヴヴッ!
なぞの振幅再び。
強烈な振動にさらされた横隔膜が悲鳴を上げる。
「――――ぷっひゃひゃっ♪」
あぶねっ。
職員さんやウェイトレスさんが近くに居るときに〝笑い〟が起きなくて本当に良かった。
いきなり笑い始める男子高校生なんて、ソレだけで事案ものだ。
ケリ乃さんとかお嬢様なら、可愛らしいかも知れないけどさ。
ついでに言うと、甲月や双子達は定期的に突然爆笑するから、みんなが居るときだったら変な集団ですよーって言い張れられた可能性はある。
脇腹を押さえて、やり過ごしていると、また不意にその振幅が停止して楽になった。
その途端。光線銃のパラボラアンテナ部分が動いて、箱から飛び出した。
――――ククッ、ゴロゴロッ!
テーブルの上を転がり始めたソレを、僕は仕方なく捕まえる。
――――キュキュ、キューーゥン?
「なんだよ、こっち向くなよ、おっかないヤツだな」
光線銃の銃身がロボットアームの関節みたいに動いて、なんでか僕の方を向いた、
――――キュイーーッ、クキッ。
顔を背けたら、正確に鼻のあたりを狙ってくる始末。
「受理ちゃん、コレ一体なんなのさ? 勝手に動くし狙いを付けてくるし、オモチャだとしても、危なくない?」
「コチラでも、モニターしておりまぁすぅよぉう♪ 非っ常に面白い事になっていまぁすぅねぇ~❤」
あ、ダメだ、面白がられてる。
普段はとっても優しいのに、時折見せるあの意地の悪い顔が思い浮かんだ。
何かしでかす直前の甲月そっくりな、例の表情。
もっとわかりやすく言うなら、〝時代劇の悪代官みたいな〟って言えば、わかってもらえるだろうか。
決して悪気が有るわけではないし、研究や強化学習絡みで興がのっているのだということも理解してる。
そもそも、横から見てる分には微笑ましいというか、ぶっちゃけ相当面白い。
――だけど、いざその対象が僕であるなら話は別だ。
――――キュイッ、キュキュキュイッ、ギュギュッガチッ!
身を屈めた僕を探して、アンテナが狂ったみたいに首を振りはじめた。
「受理ちゃん、頼むよ。コイツなんとかしてっ!」
ガツンガツンッ、ギュギュギュギュッ――ゴン!
テーブルが削れやしないかと、心配になる。
「そんなぁに警戒しなくてもぉ~、だぁ~いじょぉうぶ~でぇすぅよぉ~う? クスクスクス♪」
金糸雀號専属AIである〝受理ちゃん〟が今まで学習してきた甲月由来の〝人の悪さ〟が、声にじみ出ている。
「――とりゃっ!」
暴れる先端部分をテーブルから浮かせるために、仕方なくグリップを握って持ち上げた。
先端から何か飛び出たとしても平気なように、銃口は床に向ける。
ただ、銃口は僕の顔に向いてるから、コレで安全かどうかは怪しい。
僕が身を躱せば、飛び出たビーム光線か何かは、テラスから外に向かって飛んでく事になるだろうし。
ふーーっ、ため息をつきつつ周囲の様子を覗う。
カフェのカウンターに人影は無い。
いまココに存在するのは箱と光線銃と無人のテーブル席と、壁に描かれた来客用の案内図だけだ。
案内図には『袴ヶ原天文台へようこそ!』っていうポップな文字と、大小2種類のパラボラアンテナの配置、そしてその機能や運用方法がとても分かりやすく描かれている。
「くっそー! アンテナばっかりじゃんか!」
僕は、パラボラアンテナに取り囲まれていた。
手にした光線銃からは熱烈な視線が浴びせられているし、壁を見れば数十個のパラボラアンテナの図解が眼に入る。
そして何より振り返れば、特大サイズのも居るという、まさに〝パラボラアンテナパラダイス〟。
アンテナにモテても、1Jyも嬉しくないぞ。
『ジャンスキー/天文電波の単位。電磁波束密度をあらわしています。』
受理ちゃんのスパルタのお陰か、壁に書かれた解説文が染みこむように頭に入ってくる。
――――キュキュイー。
照準はドコまでも正確。
光線銃の銃口は、図解の案内役である擬人化キャラ(首から上がパラボラ)そっくりで(そりゃそうだ)……なんか、銃口も顔みたく思えてきた。
ぶれる手元。だけど、顔は微動だにしない。
持ち上げられた鶏のように、僕だけを見つめている。
「クスクスッ、電送時に主電源がぁONになってしまったとぉ思われぇますぅ~♪ トリガを引いても実弾や指向性エネルギーは発射されませぇんのぉでぇ、ご安心下さぁい~♪」
あ、言った。とうとう言ったぞ!
鶯勘校研究所の謎の未来技術を構成する、SFではお馴染みのキーワード。
現在の科学水準を大きく超えた事柄に関しては、受理ちゃん参の解説も言葉を選んでたのか、今まで直接的なSF用語はあまり使われなかったのだ。
深夜からのゴタゴタで、更に上位の情報レベルへのアクセス権が解放されたのか、はたまた僕の理解に合わせた解説ではとうとう追いつかなくなって、わかりやすい俗称を使う事に活路を見いだしたのかはわからない。
「グリップ上部の左側面に安全装置があるのぉでぇ~、上に押し上げてくださぁい♪」
楽しそうな声。……危険はなさそうだから、言うとおりにしよう。
手元、左側を確認する。
直径10センチ程度の小さなパラボラアンテナと、――眼が合った。
「や、やりづらいな~、……これかな」
棒状の摘みみたいなのが水平になってた。
とにかく、コイツを大人しくさせよう。
詳しい話を受理ちゃんに聞くのは、その後だ。
そー、――キュイッ、ゴッツッ!
「痛ってっ!」
ガッシャン!
伸ばした指先を叩いてきたから、光線銃をテーブルの上に落としてしまった。
落ちた光線銃は転がって、やっぱりコッチを見つめてくる。
「クスクス、反抗的でぇすぅねぇ~♪」
「なんで楽しげ? 鶯勘校の製品じゃんか、クレーム付けるぞ!?」
「そうおっしゃられましてぇもぉ~、それ故の『社外秘』でぇすぅのぉでぇ~、クスクス♪」
「そうなの? 一瞬納得しかけたけど、ソレでもやっぱりおかしいよね、使用者を攻撃するプログラムなんて、バグってる!」
「いいえ~、パイロット信号に異常は見られぇまぁせぇんのぉでぇ~、『極秘装置1-14α』わぁ~、正常に作動しておりまぁすぅよぉう~♪」
――――キュキュ、ククッ。
自在に折れ曲がり銃身をもたげる光線銃。
「そしたらコレ、バグじゃねぇー! 仕様じゃんかっ!」
受理ちゃんがどれだけコッチの状況を正確にモニター出来てるのかわからないけど、叩かれた手をプラプラ振って、もう叩かれるのはイヤだとアピールしておく。
「でわぁ~、ふざけるのはここまでにして~、作業手順をお知らせいたしまぁすぅねぇ~♪」
ほらみろ、やっぱりふざけてた。あと、製品仕様もふざけてたことが確定。
正常に使用者を物理攻撃する光線銃のオモチャって、どんな設計思想で開発されたんだよ。
「まったく、開発者の顔が見てみたいよ」
脳裏で、監査部カラーのきかん坊がのたうち回る。
僕は頭を振ってソレをかき消し、光線銃がそれを追従する。
モーター音は結構うるさくて、消音機構は付いてないか作動していないことがわかる。
「段ボール箱の中に~、〝地球局収納装置〟と〝無線局免許状〟が入っておりますのでぇ~確認してくださぁい♪」
「収納装置? ……ってコレか?」
それは皮製でしっかりした作りをしていて、リィーサの鉄塊、もとい3Dマウスを収納していたホルスターに似ていた。
ホルスターにはベルトの類いはついてなく、代わりに裏側に小さな表示部分が取り付けられていた。
「これはわかる。……えっと手のマークが点滅したから、ソコをタップしてから押しつければ何にでもくっつくんだよね?」
「はぁい♪ 私の本体であるぅ通信端末とぉ同様の~、接着機構が内蔵されてぇいまぁすぅよぉ~♪ ちなみに接着機構の主原理わぁ、摩擦係数の累乗化に成功した事により達成さ――――」
予告も無しに幾何とか物理の授業より難しい事を突っ込んでくる。
例によって言葉の意味だけは、かろうじてわかるけど、専門的すぎて理解にはほど遠い。
どのみち、悪魔的な未来技術に関しては話半分で聞くことにしてるから、言葉をかみ砕くことはせず、そのまま頭に入れておく。
僕は腰のベルトの後ろ側にソレを押しつけた。
手を離しても落ちないのを確認する。
「でわぁ次に~、〝無線局免許状〟を首から下げてみて下さいまぁせぇ~♪」
もう言われるとおりにするしかない。
モタモタしてたら他の客が来るかも知れないし、それじゃ無くても甲月達が帰ってくるまでに、こんな面白い事態は解消しておきたい。
何かの〝免許状〟が挟まれた結構大きめのアクリル板には、ネックストラップが付けられてた。
「――受理ちゃん、〝免許状〟とかいうの首に掛けたけど?」
ネックストラップが二重になった。
――――キュキュ、ククッ。
相も変わらず懸命に、見てくる。
僕は準恒星状電波源でもブラックホールでも無いぞ?
「お手数おかけいたしまぁすぅがぁ~、もう一度ぉ、安全装置を掛けてみてぇくださぁいませぇ~♪」
スマホのカメラはアクリル板で塞がれてるけど、受理ちゃんの応答に変化は無い。
つまり受理ちゃんはスマホ以外の方法でも僕をモニタしているのだ。
ふう……光線銃も受理ちゃんも大して変わらないかも。
――ガシッ!
『光線銃』を掴んだけど、パラボラの態度は一切、変わらない。
埒があかないから、一気に素早くツマミをカチリと押し上げた。
――ウィーン、カキン。
銃口が真っ直ぐになって、大人しくなった。
「ひょっとして、この板ぺらが効いた?」
――チキッ♪
ホルスターに収納することに成功した。
「そぉれぇでぇわぁ~、〝試金石ハンティング〟のご説明をさせてぇい~たぁだぁきぃまぁすぅよぉう~♪」
◇
「じつわぁ、本日の目的地点であるミステリースポット④には、既に到着済でぇすぅ~♪」
甲月と受理ちゃんがいつの間にか、例の目標地点算出を済ませてくれてたらしい。
解説によると、いま居る天文台施設を中心とした、この辺一帯が算出結果のようだ。
木宿さんが天文台施設を社会見学の場所にねじ込んできたのには訳があったのだ。
「いままでと比べて、範囲が広すぎない?」
スマホのマップアプリにレイヤリングされたのは、二県に渡る大きなオレンジ色の楕円形。
本日、四日目における『試金石出現予定地域』は、天文台を取り囲む袴ヶ原平原のほぼ全域。最長距離で40キロ近くもある。
「そのぉたぁめぇのぉ~、〝極秘装置1-14α〟でぇすぅ~♪」
光線銃、もとい『測位衛星用地球局』は、〝測量衛星のリアルタイム観測結果と空間異常物件の物理的鉏鋙を算出するためのマイクロ波受信機〟……なのだそうだ。
説明は聞いたけど、単純な言葉の意味しか分からなかった。
外して箱に入れといた『測位衛星用地球局』という荷札を、もう一度つまんで確認する。
字面から察するにテラスの向こうにそびえ立つ電波望遠鏡と、規模は違えど同じ様な機能を持ってるんだろう。
勝手に動き回って僕に狙いを付けたり、ライセンスを所持してなかった不法無線局の指先を叩いたりと傍若無人だけど、聞いた感じじゃ『地球局』が無いと異世界斥候を見つけることは、かなり難しくなるんじゃないかと思う。
〝40キロメートル幅の平原〟から恐らくは一匹の〝間違い探しみたいな〟未知の小動物を探し出さなければならないのだ。
マラソンコースと同じくらいの広さって、それなんて無理ゲー?
金糸雀號や住居ローダーの性能をいくら発揮した所で到底追いつかないだろ。
「受理ちゃんさん、ひょっとして今の状況って、結構ピンチだったり……する?」
「はぁい、厳しぃでぇすぅねぇ~♪」
だからなんで楽しげなの?
「――異世界化に必要な〝試金石撃破〟わぁ、通常兵器でわぁ一筋縄でわぁいかないとぉ思われまぁすぅからぁねぇ~♪」
「うん。初日の小っさい妖精みたいなのだって、ヒュペリオン2のバカみたいな火力で倒してたよね、甲月……さんが」
「――万がイチ~、斥候を取り逃がすことが有ればぁ~、鶯勘校のぉ預かり知らなぁい所でぇ~、異世界化が行われかねない訳でぇすぅからぁねぇ~♪」
「それって通常兵器でもダメージが蓄積されれば、試金石を撃破出来るって事だよね?」
「はぁい、そぉうぉでぇすぅ~♪ 理解がぁ早くてぇ助かぁりまぁすぅ~♪」
そして、そうなったら、全人類は必ずジェノサイドされる。
「僕達が万全の態勢で異世界に突入できなかった場合って、そんなにマズいことになるの?」
僕は、今まで避けてた具体的な話を、少し踏み込んで聞いてみた。
「マズぅいでぇすぅよぉ~♪ 地球の相転移に必要な〝敵勢力撃破数〟が確保されなければ、地球は丸ごと、ずぅ~っと裏返ったままでぇすぅからぁねぇ~♪」
いままで聞いてた事と、まだ聞いてなかった事実が混ざりあう。
僕を襲う〝なぞの振幅〟は、いまは収まってたけど、ソレとは別の落ち着かない気持ちで心が満ちていく。
脇腹や二の腕が、溶剤に浸されたみたいな強烈な焦燥感に、侵されていく。
「それとぉ、現時刻をもって新しい情報レベルが開示されまぁしぃたぁがぁ、いかがなさいまぁすぅかぁ~?」
「うん? ……いま必要なことなら、……長くならないなら聞いておきたいかな」
「わぁかぁりぃまぁしぃたぁ~♪ ソレでわぁ、簡潔に済むお話を2点ほどぉ、――――スゥ~」
AIの彼女に息継ぎは必要ないけど、確かに聞こえた。
それは、これから聞かされることが、結構な重大ごとであることを意味している。
「異世界化した地球上でぇ、佳喬様達、乗客5名のウチのぉ、お一人でもぉ、お命を落とされた場合~、〝現実世界の帰還〟わぁ永久にかないません!」
「――――――――うん?」
なんか怖いこと言い出したな、また。
「〝現実世界の帰還〟の為の必要条件の一つである異世界転移能力の総量不足により、空間異常検出ができず異世界に取り残されることにぃなぁりぃまぁすぅ~……」
さすがに沈んだ口調で、驚愕の事実を口にするサポート役。
「…………まあ、もちろん毎回、みんなで戻ってくるつもりだから、ソレを聞いても問題は無いけど、…………コレは、他のみんなには、ひとまず黙っておいてくれる?」
「はぁい、わかりまぁしたぁ~……」
新しい要素が増えていく。
考えたくないけど、異世界転移能力者である僕達5人のウチ誰か一人でも欠けたら、〝現実世界の帰還〟は永久に果たされないってことだな。
僕達は万全の態勢で異世界に進行しなければならないのだと、再認識できたことはこの先の旅程で役に立つだろう。
ケリ乃さんにも〝全人類ジェノサイドの事実〟は最終日を過ぎても伏せておくとしても、この〝僕達のウチ一人でも欠けたら元の現実世界に戻れない〟って事だけは、折を見て話しておいた方が良い気がする。
「えーっと、結構、厳しい話を聞いちゃったけど、もう一個有るって言ってたよね? ソッチも怖い話なら今日は聞かなくても良いかな?」
いま、僕の体調はソレほど完璧ではないし、ましてや今回は対異世界主戦力お姉さんが、住居ローダーから出られないときている。
悪い話ばかり聞かされたら、くじけたりしないとも限らないしさ。
「いいえ~、もう一つのお話わぁ、佳喬様の強烈な振幅を伴う体調不良に関する事柄ですぅのぉでぇ~、シリアスなお話でわぁ~有りまぁせぇんよぉう~♪」
「じゃあ、聞く」
「そちらの症状について~、異世界勢力からの攻撃である可能性が類推されまぁしたぁのぉでぇ~、その確認を取るためにもぉ~、急遽〝極秘装置〟をご用意させて頂いたというのがぁ、今回のぉ顛末となりぃまぁすぅ~♪」
「え、そうなの? あ、だから光線銃は、ずっと僕を付け狙ってたのか?」
「そうなりまぁすぅ~♪ 〝継続され蓄積された不可視の攻撃の残滓〟を捉えていたと考えらぁれぇまぁすぅ~♪ 執拗な個人攻撃は試金石の特徴でも有りますのぉでぇ~❤」
そういや初日の斥候である、暴力的な妖精は確かに甲月だけを狙ってたっけ。
「異世界生命体といえど~、活動において生体電磁気を発生すぅるぅ事に~変りわぁ~有りぃまぁせぇん~♪ 試金石が発する非常に微弱な痕跡を〝極秘装置1-14α〟わぁ可視化する事が可能でぇすぅ~♪」
「可視化……このガタガタ言う落ち着かない波動みたいなのが見える様になるって事?」
「そうでぇす~、既存の携帯型弊社測量システムに甲月とリィーサがよりをかけて実装した一品にして一点物でぇすぅ~♪」
「――ふうん。ヘキサバレルみたいに装備開発局が作ったのかと持った。この走り書きも二人とは筆跡が違うしさ……」
◇
「――――聞いてたとーり、目ざとい子だな君わ、フフッ」
うをっ!?
スグ後ろの席に、いつの間にか座ってた人物におどろく!
「痛って――――!」
膝を打ち付け、悶絶する。
テーブルに突っ伏す僕から、抜き取られる光線銃。
「コイツは僕が設計した〝空間異常索敵装置〟さ。首席達にあの手この手でカスタムされたみたいだから、中身は別物だろうけどぉねー」
カチッ――チチッ♪
安全装置が外され、ヒュィィィィィィ――――カチカチカチ。
待機状態に入った『測位衛星用地球局』が、低く静かにノイズを発生させる。
なんとか体を起こし振り返ると、そこに居たのは黒衣のビジュアル系だった。
〝首席〟って言ってたから、この人は関係者だ。
木製サンダルに『鶯勘校』の文字も入ってるから間違いない。
――ガチャッ!
光線銃をひっくり返したりして、その構造を推し測っている。
「ふぅん、まだこんな〝桁外れに分解能が高いだけの〟旧世代の技術なんて使ってるのかぁ――――バババッ!」
あのう、それにしても……一体全体どうされたのでしょうか、その謎のポージングと背中の黒い羽根は。
伸ばしても1メートルにも満たない羽根じゃ、空気力学的に実用性なんて無いし、どうみたって……コスプレですよね?
彼はモニタの中かステージ上か、はたまた同好の趣味の集まり以外で出会ったらいけない衣装を身に纏っていた。
黒衣の下には、鶯勘校の制服。
見たことがない真っ黒いカラー。襟元には形が違うけど襟章も付いてる。
鶯勘校のヘッドセットを両耳に付け、ゴーグルも両方引き出してるから、一見派手なデザインのサングラスをしてる風にも見えた。
ひょっとしたら僕が知らないだけで、最近はこういうのがトレンドな可能性もある。
ケリ乃さんに確認するまでは、意見も批判も保留にしておく。
「ズババッ――――なあ、緋雨!」
回りくどいポージングの後、テラスへ向かって突き出される光線銃。
その先には、戻ってきたみんなが唖然とした顔で、事の成り行きを見守っていた。
会田さんなんかは、スッゴい面白い出し物が始まるみたいな楽しそうな表情をしてる。
アクリルパネルを体の前に背負い直したりして、遊ぶ気満々じゃん。
でも今は、僕達とか地球とかの命運を分ける一大事のハズなんですけど、いいんですか?
「――じ、人力二太郎先輩!? な、なんで現場なんかにっ?」
驚愕におののく二次元パネルに寄れば、このビジュアル系イケメンの名前は、ジンリキニタロウ先輩と言うらしい。
僕もヘッドセットを付けて、ゴーグルを引き出す。
「そんな、世を忍ぶ仮のフルネームで僕を呼ぶんじゃなぁい! しかも、間違ってんじゃんか! フンッ、俺の名は、ババババッ――――ゼツヤだ!」
どれが本当の名前なのか、さっぱりわからない。
キュイッ――――突き出された黒衣の胸元を拡大してみた。
『鶯勘校監査部分室(装備開発)
入力 二太郎』
『ゼツヤ』ってあざなが振ってあるけど、そんなに『二太郎』がイヤならネーム自体入れなきゃ良いのに。
甲月やリーサの白衣に刺繍なんて入ってなかったしさ。
見た目とか珍しい名字に反して、根が真面目なのかも知れない。
「ズババッ、――――バーーーァンッ!」
手の甲で格好良く片目を隠さないで欲しいんですけど……面白いから。
体も斜めになってるし……さ。
「「「ズババ、バーンッ!」」……ズバーン?」
ほらー、小さい子達が斜めになっちゃったじゃんかー。
「受理ちゃん、この地球存亡の危機に、また面白い人、出てきちゃったんだけど、……放っておいて大丈夫?」
「低い社内評価に反してぇ、彼の実力わぁ確かなんでぇすぅよぉ~……扱いに関しましてわぁ、一切実害ありませぇんのぉでぇ、放置可能でぇすぅ~……」
褒めてんのかけなしてんのかわかんないけど、受理ちゃんの声のトーンからは、〝やっかいだ〟という面倒くさげなニュアンスが感じとれた。
入力二太郎が身を仰け反らせ、極秘装置のトリガーを引いた。
カチリ――そりゃそうだ。
キュキュイー――照準はドコまでも正確。
電源なんて入れたら、また僕に照準を合わせるに決まってる。
キュッ、――――クキッ!
90度折れ曲がった銃口を、甲月(二次元)、会田さん、二太郎の三名が怪訝な顔で凝視した。
場合によっては全トリで。その場合でも、キャラの目的と人物像に変更はないのでまた、似たようなシチュで出てくることになります。
※2020/10/05 6:08 ややこしい関係性を一切取って、オモシロ人物として再構築しました。
※2020/10/17 10:49 受理ちゃん本体の動作条件を一部変更。ストーリーやキャラの行動に影響はありません。




