四日目(13)
5400文字。一進一退なかなかスイスイとは進みません。……なんでだろ?
「ちょっと、受理ちゃん!? 半径500メートル以内に敵性生体マイクロ波発生源の痕跡を検出、物理検索急いでっ!」
「おい甲月、半径500メートル以内に敵性生体マイクロ波発生源の痕跡を検出したぞっ!? 照会いそげ!」
「っかしーな、却下さーん? 半径500メートル以内に敵性生体マイクロ波発生源の痕跡を検出ゥゥゥゥゥッ――――ズッバァァッァンッ!」
ハモる鶯勘校勢。
曲がった光線銃が狙う先、一斉に向けられる大人達の険しい視線。
「ぅひっ! 受理ちゃん、じょ、状況を――説明してっ!」
たまらずテラス席の方へ逃げる僕をビタリと追従する、異世界電磁波受像器と異世界研究従事者×2と異世界研究従事アクリル板。
なんだよ、その必死な顔!
「スゥ~、――――弊社社員に告げまぁす♪ 検出された敵性反応は〝社則1583条第11項〟に抵触する懸念が有りまぁ~~~~す!」
その社則が何を意味するのかわからないけど、受理ちゃんが大きく息を吸ったのと、社員三名が大きく息を呑んだことが事の重大さを表している。
「〝偽籍測量〟ならびに〝特別罰則金〟の対象となりまぁすぅ~のぉでぇ、境界標設置後は最優先で追跡、撃破することが望ましいと、オフライン監査APIも判断しておりまぁす~♪」
受理ちゃんがなんか言ってくれて、大人達の視線が――――ギロリッ!
更に険しくなった!
大人二人と特大卓上カレンダーVSやや細めで非力な高校生一人。
どうしたって分が悪い。せめてもの救いは最大戦力甲月緋雨が実質戦力外なことくらい。
「こ、降参するから、痛いのとか怖いのは無しで……」
僕が観念して小さく両手を挙げたら、みんなが寄ってきてくれた。
「佳兄ぃ?」「どーしたのぉ?」「ケンカしちゃダメ……だよ?」
「佳喬ちゃん、――何事?」
小さい子達の、戸惑いつつも実は全然心配なんてしてない脳天気な顔をみたら、気持ちが落ち着いた。
ケリ乃さんの険しい表情も、この状況だと凄く頼もしい。
大人二人と特大卓上カレンダーVS高校生二人と小さい子達三人。
戦力差は変わらない。頼みの綱はケリ乃が手渡してくれた〝エネルギー減衰サポーター〟二本きり。
世界大会でも見たことが無い精悍な顔つきの会田さんに注意しながら、左手に派手で分厚い包帯みたいなのを巻いていたら――。
――――ヴァパパヴァパヴァパヴァパ~~~~~~♪
どこからともなく荘厳な調べが。これは、――カフェの放送じゃ無い。
音源である二太郎先輩の翼が大きく広がる。
そんなギミックついてたのか。それならパラシュート代わりに滑空くらい出来そうだけど、こんなにうるさくしてて良いのか。
パイプオルガンの音圧が止まるなり、二太郎に駆け寄ろうとした小さい子達を、僕とケリ乃が慌てて捕まえる。
藁にも縋る思いで卓上カレンダーを見たら、――誰も映ってない。
このややこしい時にどこ行ったんだ、トイレか!?
「――受理ちゃん!」
僕は声を荒げた。けど返答が無い!
そろそろこの状況、だれか何とかしてくれよ!
「復唱しろ後輩ィーー。PM12:56、〝敵性反応〟が〝目利きの少年の生体反応〟と同期している事を目視確認――――!」
「うす、先輩ーー。PM12:56、〝敵性反応〟が紙式佳喬君の生体反応〟と同期している事を目視確認――――」
ゆらゆらと体を揺らし、にじり寄る鶯勘校男性社員二名。
僕はみんなを後ろに隠す。っていうか狙われてるのは僕なんだから、みんなから離れないと――――。
僕の胸元から着信音♪
「――――動かないでくださいませぇ~♪」
受理ちゃんの口速なセリフに足を止める。
「――――貴っ様っらぁ! のわぁぬにをぉぅしぃとぉるぅかぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!!!」
僕がいま正に踏み出そうとしていた空間に、怒声が突き刺さった!
ドッゴッガビキッンゴゴバッガァァァァァァァァーーーーンッ!!
コンクリやリノリウムに盛大な亀裂が入った。
そしてイスやテーブルごと盛大に吹き飛ばされる会田と二太郎。
さすがに天文台の職員たちにも気づかれ、人が集まってきた。
騒然となるカフェ中央で、正拳突き!
クルリと振り向くカワイイ姿。
援軍であるウサギ型の強化服試作3号機が、衝撃のセリフを吐いた。
「佳喬様を、本日の異世界勢力斥候と見なし、接敵行動に移らせて頂きます!」
◇
「佳喬君悪いけど、コレも仕事だから……おわびに今日の宿泊先に着いたら、50いや、100先でも付き合うからさ」
100先てのは格ゲーで100本先取の格付けマッチのことだ。
100先は良いな、今夜ぜひ開催しましょう。
「会田は、ちゃっちゃと手伝う! 先輩も抜けた羽根なんか拾ってないで、さっさと〝偽籍測量〟の準備を始めて下さい!」
そう激を飛ばすウサちゃんの手には、光線銃がしっかりと握られている。
どこかから調達してきたホワイトボードに書き連ねられた図形や数式。
そのなかの判りやすい所だけをつなぎ合わせてみたけど、僕が置かれた現状くらいしか見えてこない。
怒られた二太郎先輩が、――――どん、どん、がたん、がちゃん!
ポージングもせずに、テーブルに多種多様な機材を並べだした。
10人掛けのテーブル上を埋め尽くすほどの物体を懐に隠していたにもかかわらず、その体型に変化は無かった。あの黒衣、見た目だけじゃ無くて本当に能力を隠していたらしい。
背中に羽根とか付いてなかったら、引っ越しとか旅行に重宝しそう。
――キュ、キュイッ。
ダウジングロッド代わりの『測位衛星用地球局』は、紙式佳喬を熱心に指し示し続けている。
そういえば、体を揺らされる感覚がずっと収まってる。
光線銃が効いてるのかも知れない。
◇
ガヤガヤガヤ。押すな押すな。
周囲には人だかりができて、その中心にはイスに縛り付けられた少年が居る。
「ひそひそひそ……異世界? なんですかそれ?」
「ひそひそひそ……例のエイリアンテクノロジーの?」
「ひそひそひそ……コペンハーゲンでみたぞ、なんか物凄い美少女と鬼みたいに綺麗な助手の人」
「ひそひそひそ……よし、通達きたぞ。なになに……」
「ひそひそひそ……ここの損害の全てを彼らの母体企業が肩代わりしてくれるっ!?」
「ひそひそひそ……え、じゃあさっき割っちゃった大皿、ツケとこうかしら?」
「ひそひそひそ……俺も、この間、転がした応力測定器持ってくる!」
「ひそひそひそ……今度はトップダウンで正式な指令来たぞ……」
「ひそひそひそ…………〝関わるな自衛せよ〟だそうだ」
なんか、さんざんな事も言われてたけど、この場をとりまとめていた上役の職員さんが「解散解散」と蜘蛛の子を散らしてくれた。
上の方で話が済んでいるから人払いもスムーズに運ぶんだろうなー。
いざ異世界関連現象や技術水準が白日の下にさらされてしまった場合には、こう言う対応がされてきた証拠として〝異世界関連事案全ての黙殺〟があるって事だ。
とにかく、ひと安心と思ったら職員さんが、広げた両手を勢いよくクロスさせた。
意味は分かる。試合続行のレフェリーアクションだ。
いや別に、これケンカでも試合でもありませんから。
僕を〝測量〟して、――――その結果、地球丸ごと全人類を救うだけの簡単なお仕事ですから。
◇
「こっちも、ディジー・チェーンでイイっすか?」
「おう、気が利くなオマエ、コネクタはコレ使ってくれ――――ズババババッ!」
計測機器と小型ベアボーンPCと基板剥き出しの謎の機械の山を、阿吽の呼吸で繋いでいく鶯勘校男性社員達。
「えっと、会田です、初めまして。俺も先輩とお呼びすればいいすか? 入社順で言うならたしかに先輩社員だし」
なんかとまどってる会田さん。
それでも機器から伸びるケーブルとケーブルを、コネクタで数珠つなぎにする手は止まらない。
「いや、先輩って言うのは私の官学時代のゼミの先輩って意味なので、会田は人力二太郎と正式名称で、呼称して差し上げろ」
甲月こそ、いいかげんにして差し上げろ。
二太郎先輩が、闇の波動に耐えかねてテーブルに突っ伏しちゃってるだろ。
『受理ちゃん完全対応』のたすきに嘘偽りはなく、ポコンと飛び出た受理ちゃんの(^∀^)が意地の悪い笑みを浮かべている。
そもそも完全対応型じゃなかったら、中身は揮発してココに存在することは適わないはずだ。
「コォラ、緋雨~、いいかげんにしねぇと、俺の受像器が火を噴くぜ? ――――ズバズィーーン!」
黒衣から取り出されたのは小さなガスライターみたいな機械。
拳銃型の先端に平たい平行板が取り付けられている。
パラボラじゃ無いけど、受像器って言ってたから、〝地球局〟と同じような物だろう。
その小さな銃身(?)を見て大口をひらくウサギ型後輩。
「ハハハハッ♪ どっおーぞぉー、ごっ自由にー。そんなのたとえ命中したって試金石でもなけりゃ、痛くもかゆくも有~り~ま~せ~ん~か~らぁ~♪」
まあ確かに、受理ちゃんも光線銃からは、何も飛び出ないって言ってたし……、悪魔的な科学技術の粋を集めた〝強化服〟の中に居れば安全だろう。
けど標的が試金石だった場合、実害がありそうだってのは、ちょっと気になった。
それは、ヒュペリオン2みたいなバカ火力の飛び道具を持ち出さなくても良かったんじゃ無いのかという疑問と、いま僕は異世界斥候の影響下にあるという事実に由来している。
◇
「あ、っそーぉだ先輩! いま〝却下さん〟は起動出来ませんよ?」
ウサギ型添乗員が馬鹿にした口調で、下駄履き(兵器開発)先輩へ進言する。
「は? 後輩は何を言ってるんだぁ? なあ、却下さん……………………む? 応答されたし、リジェクタンシリース壱!」
誰かからの返答が無い事に首を傾げるイケメン。
小っさい〝地球局モドキ〟を黒衣のポケットにしまい、襟元に付いた星形のバッジみたいなのを叩く。
その構造や名称から、ソレが〝受理ちゃん達〟と同じようなモノだというのはわかる。
そして、受理ちゃん達と同じ構造をしているなら、甲月のセリフは当然といえた。
今この地上にはヤツが居るのだ。
……そろそろワンコインクリアを達成した頃かな。
もう、金糸雀號が旅館に戻ることは無いだろうけど、出来たらアイツと対戦してみたい。
そういや面白バスには古今東西の有りと有らゆるゲーム機がライブラリされてるはずだし、最新格ゲーの『コンボジェットイグジット4』だって、アケコン繋げば遊べそうなわけで。
ネットワークの扱いだって甲月達には朝飯前だろうから、ネット対戦ぜんぜんいけそうじゃん。
なんて考えて、状況も忘れて楽しくなってたら――。
「何だぁぁぁぁ、この無反応……おいおい、まてまてまってくれよ、12桁の全ノードが停止することなんて有り得ないだろぉう!? 現にアクセプタンシリーズは起動してるじゃぁないくわぁ――――ズッバンバーン!」
襟元から外した星形を念入りに調べていた指先が止まり、シュッとした顔が蒼白になっていく。
「――――コレじゃまるで、〝tPGUI-8改――――――――!!!」
各種の機材を繋いでいた会田さんの手が止まる。
ウサギ頭も二太郎を見つめた。
「い、いいいいいいいいいいい、居る、居るるる、るるるるるるるるるるっ――――のかっ!? そ、そんなバカカヴァカババカなっ! まさかヤツがココココココココに居るわけが――――――」
二太郎先輩が仰け反るのも忘れ、頭を抱えて崩れ落ちた。
科学技術的な裏付けを5000文字くらい取ってしまったので、その分の揺りかえしがあるかも知れません。




